表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
83/106

83 苦い真理

「な、んだ、って?」

 うろたえた声が自然と漏れた。だが実際、ジェローナに訊く必要などどこにもなかった。

 目の前には逆嶋がいる。逆嶋しかいない。

 テーブルの上でふんぞり返っていたセディアルがどこにもいない。


 さっきまでいなかったはずの審判が四人、ぞろっと机を囲んでいる。

 観客は昨日よりも、準々決勝よりも増えている。

 見間違うはずもない。セディアルも、あの空間も、どこかに消し飛んでいた。


「じゃあ、閣下は? セディアル、には」

 それでも頭が追い付かず、尭史はうろたえた声を出す。

「大丈夫ですか、鮎川選手」

 手近な審判が尭史の肩を揺らしてくる。


「終了時にカットインがありますか?」

「あ、えっと」

 とっさに手のひらを見せながら、ジェローナに念じる。

(とりあえず、試合はまだ終わってない。最後だ、『高輪の御子』を持ってきてくれ)



『高輪の御子』(8)

プログレ――天使

 あなたはゲームに敗北せず、対戦相手はゲームに勝利できない(この効果が発揮されている限り、あなたのライフが0になったり、デッキがなくなったり、いづれかの対戦相手が特殊勝利条件を満たしたりても、ゲームを続行する)。

BP5000 / HR5 / RV(なし)



「ええ、はい。これでいいの?」

(ああ。ダイスを振れない以上、逆嶋さんは『首狩り陣形』や『永訣と進軍』がロクに使えない。ならもう、こいつを除去する手段がないはずだから)

 そして尭史は、なんでもありません、と言って、何食わぬ顔でプレイを続ける。


 その後のゲームは実際、尭史の言葉通りに運んだ。

 逆嶋は返しのターンに『マントルよりの巨人』、その次には『偶奇待ちの探索』とプレイするものの、ダイスは1の目しか出ない。


 そしてさらに続けて、二枚目の『永訣と進軍』をプレイした後。



「投了や」



 逆嶋はただはっきりと、そう宣言した。

 手元のダイスはそれぞれ、1・1・2。

 どのみち返しのターンで、尭史に殴りきられるまでに、ライフが減っていた。


「ありがとう、ございました」

 拍手に包まれる中、尭史はおずおずと右手を差し出す。


「覚えとれ、クソ童貞。900万の復讐(ふくしゅう)は必ずしたる」

「それは、オレとまた闘うまでSNoWを続けるということですよね」

「ホンマに腹立たしいわ」


 いったい何が、腹立たしいのか。

 尭史はそれを(たず)ねたかったが、逆嶋は尭史の手をバチンと叩くなりさっさと席を立ち、その場から去ってしまった。


 解説者が「逆嶋さん、行っちゃいましたね」などと言い、もたつく中。

(逆嶋さん、けっこうすっきりした顔してた気がする)

「えっ? そうかしら」

 尭史はぼんやりと、逆嶋の背中を見送っていた。


「いや~~~~! いい試合でしたね鮎川選手! 決勝進出、おめでとうございます!」

 それからほどなくして、実況が尭史にマイクを向けてくる。

「『永訣と進軍』への回答にまさかの『アミィサ』! 会場も大盛り上がりでした」


「ええ、まあ、あはは」

 二、三、適当に答えたあと、拍手に送られながら、実況席の同列に案内される。

 列の反対側に座る焔村が、意味ありげな目線を投げているのに気付いたが、見えないふりをした。



「おめでとう鮎川!」

 そこに座るなり、隣の男が声をかけてくる。


「ああ、うん。ありがとう、北田気」

「なんだよ! 張り合いがないな。考え事かい?」

「ん、まあ、ちょっと」

「勝者の余裕かい。見ててくれ、これからぼくも同じ席に向かう」

 北田気はにっと笑うと、次なる戦いのために席を立った。



(セディアルは本当に、消えたんだろうな)

 北田気対焔村戦の準備が、迅速(じんそく)に進む中。

 カメラもマイクも向けられていないことを確認した尭史は、そうジェローナにぼやいた。


「冷静なのね、尭史」

(そうだなあ。驚きはしたけど、正直、閣下ご自身が望んでたことでもあるんだろ)

「私はお別れくらい言いたかった」

(……確かに、急だったな)


 気落ちしている様子が、尭史には見なくても判った。

 尭史からすれば、セディアルは、ストーリー的に好きなキャラクターの一人ではあった。

 しかし大して話せなかった分、最後までその域を出なかった。


(ローナは本気で尊敬してたんだな、閣下を)

「もちろん。いち騎士として、ああいう君、ああいう将に仕えたかったってことでもあるし。彼女の言葉通り――いい友人になれたはずだもの」

(残念、だったな)


 尭史にはそれ以外、かける言葉が見つからなかった。

――こんなとき、ローナの肩を抱いたりできたらよかったのか。

 そんな思いが頭をよぎる。


 だが不可能だった。次元という壁が、青年を囲い込むようだった。

 オタクとして何度も対面したはずのそれが、いまはどうしようもなく恨めしかった。


 渇望(かつぼう)していた勝利をつかんだ直後にもかかわらず。

 現実を意識するほどに、尭史の胸は重くなった。



「さあ! ではそろそろ、準決勝Bの準備が整ったようです!」

 沈んだ顔をする二人の間に。

 気が滅入るような明るさをもって、実況の大音声が響いた。

次回、準決勝B。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ