82 宿命の決着
ドローしながら、逆嶋は手札から『永訣と進軍』を滑らせる。
「ステディのFm6、ハンドも6。そんなん関係無い。クソ童貞にもエラそげな紙切れにも、譲れへんプライドがあるからな。『永訣と進軍』、ここで顕現や」
「わかりました」
尭史もまた、手札から一枚を引き抜くと、『永訣と進軍』に被せて宣する。
「では――ショーダウンと洒落こみましょう!」
『腐敗物、アミィサ』(青)(青)(X)
プログレ(ネームド)――人間、荒くれ者
出征(スプレーを顕現できるときにいつでも使用できる)
このカードが場に出るに際し、プレイヤー一人と、点数で見たコストがこのカード以下の、召喚または顕現一つとを選んでもよい。そうした場合、このカードは選ばれたプレイヤーによって、選ばれたカードのコピーとしてプレイされる。ただし、カード名は『腐敗物、アミィサ』のままであり、ネームドのままであり、『(青)(青)(2):次の終了ステップの開始時に、このカードをオーナーの手札に戻す。』の能力をもつ。
BP1000 / HR3 / RV (なし)
「なんやねん、それは。キサマもサイを振ろうっちゅーことか?」
「まさか。六の三乗分の一の目を出せるなら、自分で使います。このカードの指定、それは」
びっ、と逆嶋に指を向ける。
「あなたに、『永訣と進軍』だ。同じカードを二度使ってもらう。嫌でも六回のサイを振ってもらうんですよ!」
「……、あ……?」
逆嶋はしばし、硬直し。
「あ……!」
そしてすぐに、その意味を悟った。
「ワイに……ワイにバストしろっちゅう気か、キサマアァ!」
「ええ。いわゆるドボンです、逆嶋さん。あなたには、絶対に悪い目が出るサイを振ってもらいます」
尭史は得意げにニヤつきながら続ける。
「あなたに残された選択肢は二つだ。片方の処理で悪い効果を受けながら、もう片方で追加ターンを得る。あるいは悪い効果を二度受けつつ、能力を温存する。どちらにせよ、三体並んだ『火山口の勘違い者』は、増えすぎたHRで自滅します!」
ギリ、と逆嶋は歯を食いしばる。
ただその口元は、確かに笑っていた。
「やるやないか、クソ童貞。タイマンでワイを追い込みよる」
「これこそ、あなたがバカにした、紙切れとの信頼の証ですよ。クソ童貞一人では思いつかなかった」
「はッ」
乱暴に三つのサイを握る逆嶋。
「おいセディアル」
「なんだい強面アンポンタン」
「ほんま気に喰わんヤツや」
顔の高さから、バラっとサイを落とす。
1のゾロ目。
その三つを再度握り直す。
「キサマの仕立てたこの茶番、ちったあオモロかったで。900万の価値はまるで無いけどな」
「まったく度し難い男だよ。見直せるかと思ったってのに」
「余計なマネはいらん。やっぱ後で破いたるわ、このアマ」
「勝手にしなさんな。アタシだってアンタにゃ付きあいきれないよ!」
また中指を立てるセディアルへ、逆嶋は振りかけるようにサイを落とす。
その結果はまぎれもなく、6のゾロ目だった。
(セディアルの残弾が、ゼロになった)
ジェローナが静かに、息を呑んだ。
「片方の処理や。キサマの悪魔・トークンを二体破壊して、追加ターンを得る」
尭史は手早くトークンを取り除く。
「ほんで、もう片方。ハンドをFmととっかえ、『勘違い者』が全部死ぬ。ほいで手札からプラグ、さらに一枚捨てて『テンラ』を復活し、コンバット! 全員で殴る!」
「余ったマナで『御首頂戴』をカットイン。場でもっともHRの高いプログレ、『クリーン』を破壊。2点はライフで受けます」
「ほんならメイン2、『セディアル』の解放8を二連打や! ライフ8点を消滅させる」
「こちらも『ジェローナ』の回復を使用。X=7。残りライフ6、魔力2です」
「合点がいった。やりおるやないか、クソ童貞」
そこで逆嶋は手を止めた。
「『アミィサ』は、追加ターン中の火力も含めての最善手っちゅうことか」
「ええ、そうなります。あなたはこの三本目、最初からダイス関連のカードを中心にFmに置いていた。だから『永訣と進軍』で第五効果を出した後の手札は、たかが知れていたわけです」
「生意気なマネを」
「逆嶋さんの方は、ご機嫌ですね。要らんことは言わん、じゃなかったんですか?」
「重箱の隅をつつくな、じゃかしい。それでもここで二枚目の『今川の号令』を引けば、ワイの勝ちやぞ」
「引けませんよ。一枚は墓地にある上、『かき集めの小隊』で二枚がボトムに行ったのも覚えています。なによりオレには、勝利の女神が手元にいますから」
「ほーんま、気色悪いヤツや」
逆嶋は音高く、デッキトップを指で叩く。
そのまま力をこめて、ドロー。
何も言わずにその一枚を見ると、手札をシャッフルする。焦らすかのようだった。
「プラグ、『クリーン』を復活さす」
かと思えば、急にプレイを始める。
「ここで『首狩り陣形』や」
逆嶋は淡々とダイスを振る。1の目が出る。
「さらにコンバット、全員で殴る。メイン2に入る」
「5点喰らって、残りライフ1です。どうぞ」
尭史はそれだけ言って、逆嶋の行動を待つ。
ほんの数秒。
逆嶋は自分の手札をじっと見たままいて――そして。
「ターンを終える」
そう言って、ぱたりと手を置いた。
(これでオレの勝ちだ!)
声を殺して、尭史が勝ち誇る。
それと、同時だった。
「鮎川選手ゥゥ!! 『永訣と進軍』の猛攻をッ! 首の皮一枚でしのぎ切ったアァー!!」
けたたましい実況の声と。
一段と大きくなった歓声とが、彼の快哉をかき消した。
「……え。え? いつのまに」
目の前が急に明るくなり、戸惑う尭史。
「尭史」
そこにジェローナが、低い声で言う。
「セディアルが、消えちゃった」




