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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
81/106

81 冷酷なる者、謙造

 自身の気持ちが思っている以上に昂ぶっていることに、逆嶋は気づいていない。

 むしろ冷静でいられているとさえ思い込んでいる。

 険悪であるとはいえ、一定期間傍かたわらにいたセディアルからすれば、今の彼はちゃんちゃらおかしくて仕方がなかった。


 それでも茶々を入れるようなマネはしない。

 逆嶋が盤上の遊戯を楽しんでいることに、かすかな喜びを感じていた。

 (かしこ)き王は、民が賭け事より心を(おど)らせていることが嬉しかった。


 ゆえに先ほど見せた激情は鳴りを(ひそ)め。

 ただ静かに、勝負の行く末を見守っていた。





「ま、待った! テンラの攻撃時に『神聖なる鏡光』を発動、攻撃中のプログレを破壊!」

「勝手にせえ。ほんでも7点や。メイン2に三体目の『勘違い者』を召喚して終わる」


「に、ひ」

 一挙14点のライフ損失。23点が9点に。

 それでも尭史は、ニヤニヤしていた。


「くそ、やりますね。これで『郁子』まで攻撃してくれるなら、返しにワンショットできたんですが」

「そこまで抜けてへんわ、ダボが。さっさとドローせえ」

「そういうわけにもいきませんね」

 無意識に上唇(うわくちびる)をなめる。


(やっぱ……ダメだ。このターンで24点削り切るには、盤面がちょうど一枚分足りない。いまの手札にワンドローしても届きやしない。勝ちきるのは不可能か)


 鼓動(こどう)が早まる。脂汗が(ほほ)をつたう。


(そのくせ『テンラ』の除去が遅れたせいで、逆嶋さんの魔力は13もある。『永訣と進軍』(77話参照)を使うと16。セディアルの奥義(69話参照)にも手が届く値だ! くそ。能力を使い切らせれば勝ちなのに、防げる気がしない)


 少しずつ(ひざ)が震えだす。


(リセットを撃つか? いや、味方の二体の悪魔まで巻き添えにする。そうなれば『永訣』を温存されるか、トークンと奥義で()かれるだけだ。なら『乾荒原の拡大』(35話参照)を置こうか。ダメだ、今の盤面のまま『クリーン』でゴリ押されるだけだ。頭数で負けてるから良い手じゃあない! あるいはまた『天駆ける大狼』と『渇(73話参照)仰』で戦闘ダメージ無効にするか? それも違う! 高確率で2ターンは続かないだろう! 相手の手札は三枚あるんだ。追加ターンで対策されて負けかねない)


 まばたきが増える。ニヤつきが度を越し、引きつってくる。


(全ハンデスか? もう論外だ。盤面的には死亡圏内(リーサル)なんだから! 敵のエポックを使用制限(ロック)する? 7マナじゃ1ターンしか保てないじゃないか! ライフ回復も結果は同じだ。打消しだって相手にとっては都合がいい。クソ、どうやったってオレの負けになる! ならあと残っているのは――)


 にわかに心臓が()ねる。


(――『清涼で(ハッピー・)甘美な(アイス・)日々(クリーム)』)


 思考は巡り。

 はたと、思いつめたような顔をして。



(ローナ。オレ、真剣勝負の約束を――)

「騎士の目の前で誓いを破る気?」



 青年が気が付くと。

 左の手元に、小さなジェローナが手を伸ばしていた。

「私のそばで、そんなことさせないわよ」

「ッ!」


 もう何度も見た(あお)い瞳。(とが)めるような言葉。

 その目はしかし、誰よりも優しく、尭史を見ていた。

「きっと他に方法があるはずだから」


「そう、だな」

 愛と信念。

 磨かれた鋼のように力強い眼光を見ると、尭史は不思議と冷静になった。

「ありがとう」


 その様子を遠巻きに見ていたセディアルが、ひゅうと口笛(くちぶえ)を鳴らす。

「クソオタクはカードが恋人ってことか、ああ?」逆嶋が挑発してくる。


「私一つだけ気になってるのよ、尭史」

 それらを強引に無視しながら、ジェローナは言う。

「いまの逆嶋さんが、さらにサイを――」



(――そうか)



 ジェローナが言い切る前に、尭史は顔を上げた。

「え?」

(『アミィサ』だ。『腐敗物、アミィサ』を引いてくれ!)


「ええ、わかったわ」

 ジェローナは目を大きくしていたが、尭史の顔を見て苦笑した。

「あなたって、カードのことだと立ち直りが早いのね」

 茶化しつつも、青年の挑戦的な眼差しに、安心感さえ覚えていた。


「おうどうした、クソ童貞」

 再び目に力を宿した尭史を見て、逆嶋がまた冷やかす。

「かわいいカードにそそのかされたか?」


「先ほどセディアルも言っていたでしょう。何者も、話してみなければ判らないものです」

「オイオイ、SNoWのくせにSNoWを知らない紙切れやぞ」 

「その価値は今に判ります! ドロー、『慨嘆』(50話参照)をプレイ!」

手札公開(ピーピング)が今更なんや!」

 逆嶋は二枚の手札をテーブルに叩きつける。


「『首狩り陣形』に『永訣と進軍』。いいでしょう。ならオレはこれで……ターンを終了します!」


 ぐぐい、と尭史は左半身を乗り出す。

 六枚の手札を見せつけるように、逆嶋へ迫った。


「さあ。今度はオレがディーラーです、逆嶋さん。レイズや、否や」

「レイズや。それしかあらへん。この逆嶋謙造、土壇場(どたんば)で退くつもりは無い」

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