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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
79/106

79 騒乱の歓楽者

「は。度胸(どきょう)は買うたるで、チキン野郎! ほんならコイツの処分は()え置いたる」

 逆嶋はセディアルを元のスリーブに戻し、卓を片づけ出す。

(こういう行為が似つかわないようで、不思議としっくりくる。やっぱりこの人もSNoWが好きなんだ)

 自身の直感を改めて確認する尭史。


「大丈夫かって訊いて欲しいかしら、尭史?」ジェローナが言った。

「まさか。むしろオレは、ようやく絶好調だよ」

「でしょうね。もういまさら驚かないわ。限りなく対等に闘いたいというのなら、構わない。気の済むようにやりましょう」

「サンキューマイワイフ」

「もう……」まだ慣れない様子を見せた。


(それにしても、六回きりの能力、か)

 分厚いデックを握りながら、尭史は考えを巡らせる。

(だいぶ少なくも感じられるけど。実は逆嶋さん、一本目は七回しかサイを振ってないんだよな。二本目だって、『テンラ』の二回目の特殊召喚は失敗してたから、能力の使用は八回だろうし)


「つまり、これまでとほぼ変わらずに攻められるってことでしょう? 言い換えれば、一本目と同じようにすれば勝てるってことになりそうだけど」


(いや、たぶんそうはならないな。似たようなタイミングでサイを操作する保証は、一切ない。っていうかあのデッキは本来、元々の『セディアル』や『勘違い者』のシナジーで、悪い目が出ても戦えるようになっ――あ)

「どうしたの」


 尭史は意味ありげに手を(あご)にあてがい、眉間にしわを寄せる。

 そして、やや苦い顔をしてジェローナと相対した。

(ちょっとね。イヤな可能性を思いついちまった。そしてそれをローナに言うべきかどうか、迷ってる)


「どういうこと?」

(うん。もしこの予想が正しければ、ちょっとマズいことになる。けど可能性としては、相当に低い。だから二人してそのわずかな可能性にとらわれるのは、効率的じゃない)


「耳に入れちゃったら、思考がソレに(とら)われてしまう、ってことかしら。ニュートラルな見方を保ちたいのね?」

(そうなる。思いついちまった以上、たぶんオレにはできないから)


「そういう理屈なら、構わないわ。勝った後にでも言ってくれれば」

(きみがそういうヤツで本当に助かってるよ)


 続けて初動について確認しあう。しばらくして、逆嶋が訊いてきた、

「話は終わったか、クソ童貞」

「いつでも来てください。えっと……チンピラさん」

「どこまでも覇気(はき)のないヤツやな。気持ち悪」

「先攻をもらいます」

「んなことは判っとる!」


 それからシャッフル、カットを(はさ)んで、六枚のドロー。

(赤が二枚ある。なら、これでオーケイだ)

 確認した手札を、尭史は机に伏せる。


「逆嶋さん。これが真剣勝負だというのなら、あえて言っておきます」

「言うてみい」

「オレは初手で、能力を使ってはいません」


「……ほう」

 ニヤリと口が歪む。

「判ってきたやないか、ガキのくせに。ほんならワイも言うとかなあかんな」

「え、なんですか」

「この期に及んでビビるなヘタレ。ええか、能力を使ったかどうかは、FFを見れば判る。心意気は()んだるが、そないな報告は聞くまでもない」


「えっ!」

 声をあげたのはジェローナだった。

「うそ、バレるものなの」


「まァ、ワイもさっき気づいたとこやさかい。焔村や他の手合いは、そんなん知らんと思うが」

「ど、どうやったらそれが判るんですか!」

「ハ。そんなん教える義理はないわ!」

「うう。それもそうか」


「尭史、そういうことなら私、セディアルを注視しておくわ」

(サンキューマイワイフ)

「あなたさっきから味占めてんじゃないわよ!」

(いやなら止めるけど)

「ズルいこと訊くんじゃないバカ」


「じゃあ、オレのターン。フラグメントをタップインしてエンドまで」

「ワイのターン、ドロプラ、『孤島住まいの老僧』」


「……!」

 その瞬間。

 尭史の疑惑は確信に変わった。


(ローナ、ビンゴだったよ。さっきの予測は完全に的中だ)

「えっもう? なんでそうなるの」

(いまに判る)


「そのまま『老僧』で殴ってエンドや」

「オレのターン。ドロプラ、『鈴の音の凧』を召喚します」



『鈴の音の凧』(青)(1)

アーティファクト・プログレーー機械

 (1): 対象をとる顕現または起動型能力一つを選ぶ。それの対象をこのカードに変更する。

BP3500 / HR0 / RV(機械)


「そいつはわざわざ持って来たなあ」と逆嶋。

「否定はできません。ターン渡します」


「なんでも構へん。ワイのターン。『酒場守りの暴れ(19話)者、ラオービン(参照)』を召喚さしてもらう!」

「それってオカシイわよ!」

 最初に反応したのはジェローナだった。


(そう思うか?)

「それこそさっき言ってた、シナジー? が生きてこないじゃない。『マントルよりの巨人』みたいなカードのほうが……尭史?)


 どうも尭史の食いつきが悪い。

 ジェローナはそう思って、小首をかしげて上をあおぐ。


「なんやねん、スカした顔しおって」

 同時に逆嶋が、ジェローナが思った通りのことを口にした。

 なにやら尭史の顔には、妙に余裕があったのである。


「さてなんのことでしょう。そんなん教える義理はないわ、ですよ」

「たわけ、ハッタリか。ターン渡したる」

「いやまあオレほんとは、全然教えるのにやぶさかじゃないんですけど」

 直後、ジェローナに指示が飛ぶ。

 片手間にトップをいじりつつ、ジェローナは耳を傾ける。


「元々オカシイとは思ってたんですよ。一本目に出してきた『孤島住まいの老僧』に『打ち抜き好みのゴブリン』。どちらも火口の住人でもなく、ダイス関連でもない。セディアルが生み出す爆発力の恩恵(おんけい)を受けられないそれらが、なぜサイドインする前から飛んできたのか」

「……」

 逆嶋の眉間にしわが寄る。


「カードプールの問題ではない。資金的な問題、調達(ちょうたつ)上の問題なんてのも、全国大会で発生するはずがない。間違いなく意図的なものだ。オレはその意図に心当たりがありましたが、我ながら信じきれませんでした。でも今では、それしか考えられない」


 逆嶋はまだ、何も言わない。


「一回裏のFmが、『首狩り陣形』。二回裏は緑を置いて『ラオービン』ときた。横に並びにくく、火力も豊富なデッキなら、投入は考えにくいカードだ。ましてあなたには『マントルよりの巨人』がある。コスト論ガン無視、マリガンの基準になるような、オーバーパワーのカードがある! でもそれを出さなかった」


「なんや。言いたいことがあるなら早よ言えと、言うとるやろ」

 意趣(いしゅ)返しでもするかのように、尭史は机をたたく。



「あなたは今日のはじめから、能力を使い切ることに備えていた! そうでしょう!」



「ああ! せやな!」



「!?」

「尭史! 秒で開き直ったわあのひと!」

(ちょっと新しいパターンだなこれ!)

 つとめて余裕ぶっていた尭史の顔が、なじんだニヤニヤ笑いに戻る。


「ワイはけちでなんぼのもんじゃい。限度のあるもんには保険をかけとんねや。よう見破った、なんならええ観察眼を持っとると()めてやってもええ!」

 逆嶋の気迫はずっと、挑戦的なまま変わらない。



「ええから早よう来い! こないな勝負でガタガタぬかすな!」

「わかりました。なら行きます!」

「向かってくるならひねり殺す!」

「あなたの考えは読めているってことを判らせます! ドロー! 『億千万の針』!」



『億千万の針』(赤)(赤)(1)

エポック

 すべてのプログレに3000のダメージを与える。これにより死亡したプログレを追放する。



「『巨人』は出ないと踏んどったか。上等じゃボケ! 童貞の浅知恵なんぞ軽く上回ったるわ!」

「受験乗り切った大学生の知恵をナメてもらっては困りますね!」



(なにが『あなたの考えは読めています』よ。さっきまでイヤな可能性がどうたら言ってたくせに)

 いつの間にやら、どこか吹っ切れたように笑っているオタクに、ジェローナは呆れ気味の視線を投げる。

(まあ、こういうのが本来の尭史なのかもしれないけど、ね)

対逆嶋戦、めちゃめちゃ長引いてしまっている……。たぶんあとあと四回で終わります。

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