79 騒乱の歓楽者
「は。度胸は買うたるで、チキン野郎! ほんならコイツの処分は据え置いたる」
逆嶋はセディアルを元のスリーブに戻し、卓を片づけ出す。
(こういう行為が似つかわないようで、不思議としっくりくる。やっぱりこの人もSNoWが好きなんだ)
自身の直感を改めて確認する尭史。
「大丈夫かって訊いて欲しいかしら、尭史?」ジェローナが言った。
「まさか。むしろオレは、ようやく絶好調だよ」
「でしょうね。もういまさら驚かないわ。限りなく対等に闘いたいというのなら、構わない。気の済むようにやりましょう」
「サンキューマイワイフ」
「もう……」まだ慣れない様子を見せた。
(それにしても、六回きりの能力、か)
分厚いデックを握りながら、尭史は考えを巡らせる。
(だいぶ少なくも感じられるけど。実は逆嶋さん、一本目は七回しかサイを振ってないんだよな。二本目だって、『テンラ』の二回目の特殊召喚は失敗してたから、能力の使用は八回だろうし)
「つまり、これまでとほぼ変わらずに攻められるってことでしょう? 言い換えれば、一本目と同じようにすれば勝てるってことになりそうだけど」
(いや、たぶんそうはならないな。似たようなタイミングでサイを操作する保証は、一切ない。っていうかあのデッキは本来、元々の『セディアル』や『勘違い者』のシナジーで、悪い目が出ても戦えるようになっ――あ)
「どうしたの」
尭史は意味ありげに手を顎にあてがい、眉間にしわを寄せる。
そして、やや苦い顔をしてジェローナと相対した。
(ちょっとね。イヤな可能性を思いついちまった。そしてそれをローナに言うべきかどうか、迷ってる)
「どういうこと?」
(うん。もしこの予想が正しければ、ちょっとマズいことになる。けど可能性としては、相当に低い。だから二人してそのわずかな可能性にとらわれるのは、効率的じゃない)
「耳に入れちゃったら、思考がソレに囚われてしまう、ってことかしら。ニュートラルな見方を保ちたいのね?」
(そうなる。思いついちまった以上、たぶんオレにはできないから)
「そういう理屈なら、構わないわ。勝った後にでも言ってくれれば」
(きみがそういうヤツで本当に助かってるよ)
続けて初動について確認しあう。しばらくして、逆嶋が訊いてきた、
「話は終わったか、クソ童貞」
「いつでも来てください。えっと……チンピラさん」
「どこまでも覇気のないヤツやな。気持ち悪」
「先攻をもらいます」
「んなことは判っとる!」
それからシャッフル、カットを挟んで、六枚のドロー。
(赤が二枚ある。なら、これでオーケイだ)
確認した手札を、尭史は机に伏せる。
「逆嶋さん。これが真剣勝負だというのなら、あえて言っておきます」
「言うてみい」
「オレは初手で、能力を使ってはいません」
「……ほう」
ニヤリと口が歪む。
「判ってきたやないか、ガキのくせに。ほんならワイも言うとかなあかんな」
「え、なんですか」
「この期に及んでビビるなヘタレ。ええか、能力を使ったかどうかは、FFを見れば判る。心意気は汲んだるが、そないな報告は聞くまでもない」
「えっ!」
声をあげたのはジェローナだった。
「うそ、バレるものなの」
「まァ、ワイもさっき気づいたとこやさかい。焔村や他の手合いは、そんなん知らんと思うが」
「ど、どうやったらそれが判るんですか!」
「ハ。そんなん教える義理はないわ!」
「うう。それもそうか」
「尭史、そういうことなら私、セディアルを注視しておくわ」
(サンキューマイワイフ)
「あなたさっきから味占めてんじゃないわよ!」
(いやなら止めるけど)
「ズルいこと訊くんじゃないバカ」
「じゃあ、オレのターン。フラグメントをタップインしてエンドまで」
「ワイのターン、ドロプラ、『孤島住まいの老僧』」
「……!」
その瞬間。
尭史の疑惑は確信に変わった。
(ローナ、ビンゴだったよ。さっきの予測は完全に的中だ)
「えっもう? なんでそうなるの」
(いまに判る)
「そのまま『老僧』で殴ってエンドや」
「オレのターン。ドロプラ、『鈴の音の凧』を召喚します」
『鈴の音の凧』(青)(1)
アーティファクト・プログレーー機械
(1): 対象をとる顕現または起動型能力一つを選ぶ。それの対象をこのカードに変更する。
BP3500 / HR0 / RV(機械)
「そいつはわざわざ持って来たなあ」と逆嶋。
「否定はできません。ターン渡します」
「なんでも構へん。ワイのターン。『酒場守りの暴れ者、ラオービン』を召喚さしてもらう!」
「それってオカシイわよ!」
最初に反応したのはジェローナだった。
(そう思うか?)
「それこそさっき言ってた、シナジー? が生きてこないじゃない。『マントルよりの巨人』みたいなカードのほうが……尭史?)
どうも尭史の食いつきが悪い。
ジェローナはそう思って、小首をかしげて上をあおぐ。
「なんやねん、スカした顔しおって」
同時に逆嶋が、ジェローナが思った通りのことを口にした。
なにやら尭史の顔には、妙に余裕があったのである。
「さてなんのことでしょう。そんなん教える義理はないわ、ですよ」
「たわけ、ハッタリか。ターン渡したる」
「いやまあオレほんとは、全然教えるのにやぶさかじゃないんですけど」
直後、ジェローナに指示が飛ぶ。
片手間にトップをいじりつつ、ジェローナは耳を傾ける。
「元々オカシイとは思ってたんですよ。一本目に出してきた『孤島住まいの老僧』に『打ち抜き好みのゴブリン』。どちらも火口の住人でもなく、ダイス関連でもない。セディアルが生み出す爆発力の恩恵を受けられないそれらが、なぜサイドインする前から飛んできたのか」
「……」
逆嶋の眉間にしわが寄る。
「カードプールの問題ではない。資金的な問題、調達上の問題なんてのも、全国大会で発生するはずがない。間違いなく意図的なものだ。オレはその意図に心当たりがありましたが、我ながら信じきれませんでした。でも今では、それしか考えられない」
逆嶋はまだ、何も言わない。
「一回裏のFmが、『首狩り陣形』。二回裏は緑を置いて『ラオービン』ときた。横に並びにくく、火力も豊富なデッキなら、投入は考えにくいカードだ。ましてあなたには『マントルよりの巨人』がある。コスト論ガン無視、マリガンの基準になるような、オーバーパワーのカードがある! でもそれを出さなかった」
「なんや。言いたいことがあるなら早よ言えと、言うとるやろ」
意趣返しでもするかのように、尭史は机をたたく。
「あなたは今日のはじめから、能力を使い切ることに備えていた! そうでしょう!」
「ああ! せやな!」
「!?」
「尭史! 秒で開き直ったわあのひと!」
(ちょっと新しいパターンだなこれ!)
つとめて余裕ぶっていた尭史の顔が、なじんだニヤニヤ笑いに戻る。
「ワイはけちでなんぼのもんじゃい。限度のあるもんには保険をかけとんねや。よう見破った、なんならええ観察眼を持っとると褒めてやってもええ!」
逆嶋の気迫はずっと、挑戦的なまま変わらない。
「ええから早よう来い! こないな勝負でガタガタぬかすな!」
「わかりました。なら行きます!」
「向かってくるならひねり殺す!」
「あなたの考えは読めているってことを判らせます! ドロー! 『億千万の針』!」
『億千万の針』(赤)(赤)(1)
エポック
すべてのプログレに3000のダメージを与える。これにより死亡したプログレを追放する。
「『巨人』は出ないと踏んどったか。上等じゃボケ! 童貞の浅知恵なんぞ軽く上回ったるわ!」
「受験乗り切った大学生の知恵をナメてもらっては困りますね!」
(なにが『あなたの考えは読めています』よ。さっきまでイヤな可能性がどうたら言ってたくせに)
いつの間にやら、どこか吹っ切れたように笑っているオタクに、ジェローナは呆れ気味の視線を投げる。
(まあ、こういうのが本来の尭史なのかもしれないけど、ね)
対逆嶋戦、めちゃめちゃ長引いてしまっている……。たぶんあとあと四回で終わります。




