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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
78/106

78 騙り者、逆嶋

 逆嶋が動揺(どうよう)しているのをいいことに、セディアルは大声をあげる。

「いけ好かない金の亡者かと思ってたけど、そういう一面もあるとはね! ハッ。面白いもんじゃない」

「入れ込むから、気持ちが(たかぶ)る。割り切れないから、かたちにこだわる。TCGに限った話じゃあない。セディアルもそう思うでしょう?」

(しか)りさ。人間のそういうトコロは変わらないみたいだね、ジェローナの夫」

「あっオレ、夫か……」


「くだらん話をしおって」

 逆嶋の口振りは素っ気ない。

「キサマらとなれ合う気はないで、ワイは。黙っとれカス」


「吠えるんじゃないよ、下郎が。あんたの言うことを聞く理由がどこにあるってんだい」

「なに?」

「思い出してみることだね、逆嶋。これまでアタシが一度だって、アンタに協力すると言ったかい?」

「……何が言いたいんや」


 にわかに張りつめだした逆嶋とセディアルの間の空気。

 かたや眉間(みけん)にシワを寄せたまま、かたや呆れたような顔をしている。

 尭史とジェローナは、じっとそれを見守る体勢に入った。


「アタシはあんたが大っ嫌いだ。いっつも偉そうにして、関心といえば博打ばくち奢侈(しゃし)ばかり」

「前置きはええ。結論を言え」

「そういうトコだと言ってるのさ。ホンッとにつまらない男だね」

「紙切れから出られん女のメガネにかなって何になんねや」

 この言には尭史とジェローナ共々ムッとしたが、黙っていた。


「折角出会った縁をフイにする方が、アタシには理解できないね。話してみなけりゃ、どんな発見があるかわかったもんじゃないのにさ。そこのジェローナはよく判ってたよ」

「やっぱくだらん。余計な発見なんぞただ邪魔なだけや。この世を生きるにはとかく金と決まっとる! 女も地位も、金に続くもんやさかい」


「ヤダヤダ。(せま)苦しい世界から出る気がないんだねえ! ちょうどこの(メンブレン)にゃあ、井の中の蛙なんたらって(ことわざ)があるんだろう」

「知ったような口をききおって!」

「アンタよりは世を渡ってるんでね! なにせ並行世界さえ渡ったときた」


 セディアルは(あざけ)るような笑いを()らすと、さらに続けてこう言った。

「腹立たしいからバラしてやるのさ。いいかい、アンタを(だま)した結果――」




「アタシの能力はあと、六回しか残っていない!」




「な――」

 声を上げたのはもちろん、逆嶋だけではない。

 尭史とジェローナもやはり、驚きの声をあげた。


「おいコラ、セディアル。何を言うとる? 準決前は、あと27回残っとると――」

(だま)したと言ったろう、バカだねえ。あんたに吠え面かかせるために、前々から水増ししてたのさ」

 逆嶋はわなわなと手を震わせる。


「アタシぁ結局、SNOW(このあそび)のことは判らなかった。けどね、()()()()()()()()()()()()()()()()()って心理は自明だろう? 金、土地、水、食料。無念ながら民草や兵隊に至るまで。下郎ならあるいは、信用さえも。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まだ大丈夫、まだ大丈夫と気軽に数を減らす。無駄遣いに抵抗がなくなる! それはアンタも同じだったってことさ」


 セディアルはその長い中指を思い切り立てて、こう締めくくった。

「見え透いてんだよ、(かた)り者が。あんたのような俗物(ぞくぶつ)に、一国の王が従うわけないだろう!」


「……すげえ」

 思わず尭史はつぶやいた。

 一介の日本人には(つちか)われないであろう、見聞と矜持(きょうじ)。すべてに代えてもそれらを守ろうとする姿勢。

 背景ストーリーだけでは(うかが)い知れない、なんと誇り高い女性なのか。そう思うとまた、ニヤニヤ笑いが止まらなかった。


「セディアル」

 すっかり愕然(がくぜん)とした様子の逆嶋を置きながら、ジェローナが訊いた。

「どうしてこのタイミングで言ったの? そういう動機なら、黙ったまま能力をすべて使わせても良かったでしょうに」


「うん。そうさね、ローナ。アンタはいいところに目が付く。もっと早く話せてりゃ、いい友人になれたろうにさ」

 セディアルはさも愉快そうに笑う。


「アンタの夫への義理立てが半分と、本当は遊戯も好きだという逆嶋(このオトコ)への気まぐれが半分。万全ではなくとも、最後に()れるだけ戦りたいんだろうから、さ」

 セディアルは冗談めかすかのように、大仰に手を広げる。

「……夫ではないわよ」

 ジェローナはひどく照れくさそうに目をそらした。


「そういうわけさ、名前も知らないジェローナの夫! アンタもこの遊びが好きだってんなら、最後につき合ってやるといい」

「鮎川尭史です。ご配慮感謝しますよ、偽者のジェンナー五世閣下」

「ちょっと尭史、なに受け入れてんのよ」

「気分的に事実婚ってのもいいじゃねえか。閣下が仲人ってのも、この上ない」

「ばか……」



「セディアル」

 と。

 逆嶋は突如、堅いスリーブに入ったセディアルを、そこから抜く。

 そして憎悪のこもった目つきで、抜身のカードにをねめつけた。



「ドイツもコイツも、ワイを()めおって。だがええか、なんであれ、自分はワイの所有物に過ぎひん。この場で今すぐ破いたってもかまへんのやぞ」


「へえ、アンタにそれができるのかい? アタシを破っちまえば、残りの回数に関係なく、すべての能力がオジャンだ。そんなことをしたら、残ったチャンスさえフイにすることになるんだよ。アンタはそういうコト、できないと思ってたけど」

 まあ、と肩をすくめて。

「やりたきゃ好きにしな。アンタの手元から離れられるなら、願ったり叶ったりだ」


「キサマは!」

 逆嶋は指に力をこめる。

「もうええ! ここまでメンツ潰されてまで得る金など欲しないわ! 消えーー」



「逆嶋さん!」



 尭史は音高く机を叩いてまで、逆嶋の気を引きつけた。

 間違いなく今日で一番通りのよい声を(ともな)って。



「させません。あなたはもう一度、カードゲームで遊ぶべきだ。()()()()()()()()()()()()()。負けっぱなしでいいだなんて、お思いじゃないでしょう!」



 しん、と一瞬の静寂(せいじゃく)が降りた。

 その静けさはまるで、三回戦の最後の瞬間を連想させるもので。

 尭史はすぐに縮こまって、「な、なんちゃって」などと言ったが。


 ジェローナは眼を輝かせて。

 セディアルは白い歯をニッと見せて。


「は――イキりおってからに」

 そして逆嶋でさえも、笑わせた。


 果たしてそれは愉快であったからなのか、それとも侮蔑(ぶべつ)の入った失笑か。

 あるいは「もはや笑うしかない」という諦観(ていかん)の混じったものだったか。

 本人でさえも判然としなかったが。

 その場の全員を笑わせるに値する、我欲にまみれた言葉だった。


「喧嘩売るなら、買うたるわ。後悔すんなやクソ童貞」

「こんなゲームをする機会を逃したら、それこそ一生後悔しますから。ご心配には及びません。あなたと同じ、六回きりの能力で――同じ土俵(どひょう)の真剣勝負で、あなたを倒します!」

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