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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
77/106

77 邪悪の暴露

 逆嶋の声はここにきて、少し低く、一語一語がはっきりとしていた。

 その変化は尭史に、恐怖以上に警戒を抱かせる類のものだった。


「のう。さっき言うとったよなあ。SNoWを楽しみたい、真剣勝負を期待したい。その結果がコレか?」

「このやりかたは違う、ということですか」

「まだ言いたいことが判らんのか?」

 尭史は黙っている。


「キサマがやろうとしとんのは、一人回しやろが。巡ってきた偶然に乗れるかどうかしか見れへん狡い手ぇと違うか。こっちの出方は全部無視、機が熟したら(おの)ずから最後まで勝負決める気やろが? それが真剣勝負やて、笑わせるわ」


「判りませんね、その言いぐさは」

「なに?」

「一人回し、ええ、確かにその通りで。こういう戦法を嫌う人が一定数いることも知っています。けどおかしくはないでしょう? ワンショットコンボ、わずかな隙を突く地雷(ローグ)デッキ、そんなのは色んなゲームシーンに現れるものだ、そして認められたものです」


「論点をズラすな、ボケが。一人回しの実体と、真剣勝負ちゅう言葉の乖離(かいり)を言うとるに決まっとるやろが」

「つまりオール・インのデッキでは真剣勝負にならないと?」

「なるとは言わせへんぞ。勝負と言ったら、殴り合いが筋に決まっとる」

「解せません。多種多様な戦法を包含してこその、TCGでしょう」

「多種の中から正々堂々を選ぶのが、真剣勝負(タイマン)やろがい!」


「――ッ!」

 この言葉で、尭史の勇気は根負けした。

 彼なりになんとか言い返そうとはした。だが所詮ただのオタクである。口喧嘩の用意も経験も語彙も、圧倒的に不足していた。


「キサマの負けや」

 無意識に目を逸らしていた尭史に、逆嶋は吐き捨てた。

 尭史は何も言わない。言えなかった。

「ターン(もろ)た。コンバット、フルパン。11点」

「通ります」

「残りライフ12点、FFのカットインで実質18以上。セディアルの効果を使うだけの魔力もない。そいで耐えられる計算やったか、あ?」

「……」

()めるな、チキンが。お望み通り使たるわ。『永訣と進軍』」




『永訣と進軍』(黒)(赤)(緑)(1)

エポック

 Fmになるときアンステディされる。

 戦場にあるとき、種族: 火口の住人をもつ。

 このカードが場に出たとき、ダイスを三回振る。出た目の合計によって、以下の効果を得る。

 ・18――このターンの後、追加のターンを得る。さらに、以下の効果からひとつ選んで発動する。

 ・13から17――場のFm以外のカードを二枚、または相手の手札を見ないで二枚、選ぶ。それらを破壊する。

 ・9から12――鋭敏をもつ、BP1000 / HR1 の火口の住人・トークンを四体場に出す。

 ・4から8――あなたは5点のダメージを受ける。

 ・3――あなたのFmと手札を入れ替える。



 もはや逆嶋は、サイコロに目を向けることもない。振るだけ振って、すぐに手を動かす。

「エクストラターン獲得、あとその手札二枚捨てろ。一体目の『勘違い』は死ぬが」

 それでも『テンラ』の第二効果により、三枚目の『勘違い者』が場に出される。


「さらにワイのターン。ドロー、『テンラ』、『勘違い』二体、『巨人』の順に攻撃」

「『巨人』の解決前に『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』の第三効果使います。魔力を16消費してライフを8回復」

「ライフ3点余るからなあ! 返しのターンにワンショット決めるつもりやった、か?」

 鼻で(わら)う逆嶋。尭史はやはり何も言わない。



「第二メイン。ここで『永訣と進軍』」



「……二連打」

 ぼそりと尭史は(つぶや)いた。

 手を口で覆う。逆嶋に見えないところで、下唇を噛む。

 残った手札で、このカードを止めることはできないし。

 もしできたとしても、返しに『鎌の白鬼』を押し上げる(かて)がなくなるだけだった。

 敗北は必定だった。


「ふん、ダボが。煽るなら負け惜しみにならんようにせえ」

 逆嶋は場のカードに手を伸ばす。勝利を確信したがゆえに、片づけを始めるかのように。


「待ってください」

「なんや」

 ぎろりと向いた目つきに、尭史は息を呑む。また大きな恐怖に負けそうになる。

 それでも、二度言い負けるわけにはいかなかった。



「サイを振ってください。あなたが6を三連続で出す保証なんて、()()()無いのだから」



 逆嶋は露骨に舌打ちをした。

「知れたことを。どうせ手札二枚では、返しに30のライフは削れへんやろ」

「やらなければ判らないでしょう。それともここで吝嗇(りんしょく)ですか?」

「キサマは!」


 逆嶋は怒りにまかせて、三つのダイスを机に叩きつける。当然それらは弾け、偶然尭史の手元に届いた一個を除いて、どこかへ行ってしまった。

「出目が見たけりゃ探しくされ!」

「……いえ」

 手元の一つは6の目だった。それで十分だと尭史は思った。


「生き残りで殴り殺す。死にさらせ」

「負けました」

 辛うじてジェローナに届くほどの小さな声で、尭史は言った。


 ジェローナは、大丈夫かと尭史を見上げる。

 しかしその顔は意外にも平然としていた。

(このままやれそうね)

 そう判断して、セディアルの方へ向き直ろうとしたとき。

 尭史は突然、こんなことを言い出した。



「逆嶋さんも、本当はSNoWが好きなんですね」



「は?」

 そう言ったのは二人のFFの方である。そろってポカンとした。

 何を言っているんだこいつは、と思ったのも束の間。

「え、なに? どういうことこれ」

 その看破を聞いて、逆嶋が硬直している! その点に気づいてさらに驚愕(きょうがく)した。


「やっぱり、そうですか」

 尭史は嬉しそうに、月居の語るニヤニヤ笑いを見せた。

「押しつけコンボをしようとしたオレに怒るってことは、そういうことでしょう。逆嶋さんはこのゲームで、対話的なプレイをするのがお好きなんだ。カードに乗せたせめぎあいを求めているんだ! でなきゃ、いくら怒りっぽくても、あんなことでキレはしない」


「いや、しかし――」

 逆嶋はようやく口を開き。金には劣る、と続けようとして。

「図星かい、逆嶋! こりゃ傑作だ!」

 そこにセディアルの盛大な笑い声が割って入った。

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