77 邪悪の暴露
逆嶋の声はここにきて、少し低く、一語一語がはっきりとしていた。
その変化は尭史に、恐怖以上に警戒を抱かせる類のものだった。
「のう。さっき言うとったよなあ。SNoWを楽しみたい、真剣勝負を期待したい。その結果がコレか?」
「このやりかたは違う、ということですか」
「まだ言いたいことが判らんのか?」
尭史は黙っている。
「キサマがやろうとしとんのは、一人回しやろが。巡ってきた偶然に乗れるかどうかしか見れへん狡い手ぇと違うか。こっちの出方は全部無視、機が熟したら自ずから最後まで勝負決める気やろが? それが真剣勝負やて、笑わせるわ」
「判りませんね、その言いぐさは」
「なに?」
「一人回し、ええ、確かにその通りで。こういう戦法を嫌う人が一定数いることも知っています。けどおかしくはないでしょう? ワンショットコンボ、わずかな隙を突く地雷デッキ、そんなのは色んなゲームシーンに現れるものだ、そして認められたものです」
「論点をズラすな、ボケが。一人回しの実体と、真剣勝負ちゅう言葉の乖離を言うとるに決まっとるやろが」
「つまりオール・インのデッキでは真剣勝負にならないと?」
「なるとは言わせへんぞ。勝負と言ったら、殴り合いが筋に決まっとる」
「解せません。多種多様な戦法を包含してこその、TCGでしょう」
「多種の中から正々堂々を選ぶのが、真剣勝負やろがい!」
「――ッ!」
この言葉で、尭史の勇気は根負けした。
彼なりになんとか言い返そうとはした。だが所詮ただのオタクである。口喧嘩の用意も経験も語彙も、圧倒的に不足していた。
「キサマの負けや」
無意識に目を逸らしていた尭史に、逆嶋は吐き捨てた。
尭史は何も言わない。言えなかった。
「ターン貰た。コンバット、フルパン。11点」
「通ります」
「残りライフ12点、FFのカットインで実質18以上。セディアルの効果を使うだけの魔力もない。そいで耐えられる計算やったか、あ?」
「……」
「舐めるな、チキンが。お望み通り使たるわ。『永訣と進軍』」
『永訣と進軍』(黒)(赤)(緑)(1)
エポック
Fmになるときアンステディされる。
戦場にあるとき、種族: 火口の住人をもつ。
このカードが場に出たとき、ダイスを三回振る。出た目の合計によって、以下の効果を得る。
・18――このターンの後、追加のターンを得る。さらに、以下の効果からひとつ選んで発動する。
・13から17――場のFm以外のカードを二枚、または相手の手札を見ないで二枚、選ぶ。それらを破壊する。
・9から12――鋭敏をもつ、BP1000 / HR1 の火口の住人・トークンを四体場に出す。
・4から8――あなたは5点のダメージを受ける。
・3――あなたのFmと手札を入れ替える。
もはや逆嶋は、サイコロに目を向けることもない。振るだけ振って、すぐに手を動かす。
「エクストラターン獲得、あとその手札二枚捨てろ。一体目の『勘違い』は死ぬが」
それでも『テンラ』の第二効果により、三枚目の『勘違い者』が場に出される。
「さらにワイのターン。ドロー、『テンラ』、『勘違い』二体、『巨人』の順に攻撃」
「『巨人』の解決前に『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』の第三効果使います。魔力を16消費してライフを8回復」
「ライフ3点余るからなあ! 返しのターンにワンショット決めるつもりやった、か?」
鼻で嗤う逆嶋。尭史はやはり何も言わない。
「第二メイン。ここで『永訣と進軍』」
「……二連打」
ぼそりと尭史は呟いた。
手を口で覆う。逆嶋に見えないところで、下唇を噛む。
残った手札で、このカードを止めることはできないし。
もしできたとしても、返しに『鎌の白鬼』を押し上げる糧がなくなるだけだった。
敗北は必定だった。
「ふん、ダボが。煽るなら負け惜しみにならんようにせえ」
逆嶋は場のカードに手を伸ばす。勝利を確信したがゆえに、片づけを始めるかのように。
「待ってください」
「なんや」
ぎろりと向いた目つきに、尭史は息を呑む。また大きな恐怖に負けそうになる。
それでも、二度言い負けるわけにはいかなかった。
「サイを振ってください。あなたが6を三連続で出す保証なんて、本当は無いのだから」
逆嶋は露骨に舌打ちをした。
「知れたことを。どうせ手札二枚では、返しに30のライフは削れへんやろ」
「やらなければ判らないでしょう。それともここで吝嗇ですか?」
「キサマは!」
逆嶋は怒りにまかせて、三つのダイスを机に叩きつける。当然それらは弾け、偶然尭史の手元に届いた一個を除いて、どこかへ行ってしまった。
「出目が見たけりゃ探しくされ!」
「……いえ」
手元の一つは6の目だった。それで十分だと尭史は思った。
「生き残りで殴り殺す。死にさらせ」
「負けました」
辛うじてジェローナに届くほどの小さな声で、尭史は言った。
ジェローナは、大丈夫かと尭史を見上げる。
しかしその顔は意外にも平然としていた。
(このままやれそうね)
そう判断して、セディアルの方へ向き直ろうとしたとき。
尭史は突然、こんなことを言い出した。
「逆嶋さんも、本当はSNoWが好きなんですね」
「は?」
そう言ったのは二人のFFの方である。そろってポカンとした。
何を言っているんだこいつは、と思ったのも束の間。
「え、なに? どういうことこれ」
その看破を聞いて、逆嶋が硬直している! その点に気づいてさらに驚愕した。
「やっぱり、そうですか」
尭史は嬉しそうに、月居の語るニヤニヤ笑いを見せた。
「押しつけコンボをしようとしたオレに怒るってことは、そういうことでしょう。逆嶋さんはこのゲームで、対話的なプレイをするのがお好きなんだ。カードに乗せたせめぎあいを求めているんだ! でなきゃ、いくら怒りっぽくても、あんなことでキレはしない」
「いや、しかし――」
逆嶋はようやく口を開き。金には劣る、と続けようとして。
「図星かい、逆嶋! こりゃ傑作だ!」
そこにセディアルの盛大な笑い声が割って入った。




