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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
76/106

76 大規模な奇襲

 たった一日前の尭史であれば、逆嶋の態度に()じ気づいていただろう。

 それだけ彼は弱かった。弱いうえに、心技体がバラバラだった。


 だがいまは違う。信頼と応援を受けた彼は万全だった。

 たしかに人一倍驚くし、恐れる。ビビりもする。

 だが、もう退かない。正面切って戦う気概(きがい)を失わなかった。


 あるいは今ようやく、彼は本気になれたのかもしれない。


「それで、逆嶋さん」

 サイドボーディングの短い時間、尭史の口は自然に開いていた。

(あれ? なんでオレ話しかけてるんだ)

 尭史自身も不思議に思いながら、言葉はそのまま流れた。

「あのカードは、いつ使ってもらえるんですか。ダイスが操作できるなら最強になろう一枚、『永訣と進軍』は?」


「童貞風情がワイに指図(さしず)か、ああ?」

「いえそんな、けど負ければ形無しでしょう」

「減らず口が!」


 逆嶋は腰を浮かせがちでもある。こんな場でなければ、とっくに殴りかかっているだろう。

 そうしないのはやはり、大金のかかった舞台であるからに他ならない。


 対する尭史はそんなもの、知りもしない。

 もっとも知っていても、同じことを言っていたかもしれないが。

「というか、使って欲しいんです。オレが全力でSNoWをできるのは、多分、この大会が最後だ。戦えるだけ楽しみたい」



「なんやねん、それは。気色悪いな」

「いけませんか。カードゲームの全国大会で、カードゲームの真剣勝負を期待することが? たとえそれが、≪デッキトップ操作≫と≪サイの目操作≫という異能に左右されたものだとしても」

「ちゃう。お前が、気持ち悪い」

 尭史には意味が判らなかった。


 逆嶋は小さくため息を吐くと、また作業に戻ったようだった。

 尭史は少し、反応を待っていたが、そのうち手元に目線を戻した。



(じゃ……、どうすっかな。一本取れたわけだから、ここは能力消費の少ない勝ち筋を拾ってみたい)

 イメージするのは、敵の全力の攻勢である。

 それに対する最低限の守りと、それにより保ちうる時間。


(『打ち抜き好み』が見えた以上防衛持ちには頼れない。サイドアウトした可能性に()けるほどの価値はないしな。能力のツケがまた色事故に回ると考えて、シンボルの濃くないやつを選ぶと、やっぱり『獰猛な中隊長』になるか? 細かい火力とかなさそうだし、弱小トークンに『首狩り陣形』や『招雷』を使ってくれりゃ、かえって都合がいいくらいだ。ローナの回復力込みで四回表まで首の皮一枚(つな)がると見込むと、四回裏にワンショットを狙うのが節約になりそうだ――なら、『鎌の白鬼』を試すか)




『鎌の白鬼』(赤)(2)

プログレーー悪魔

 このカードは防御できず、生け(にえ)にできず、戦闘以外でダメージを与えられず、鋭敏を得られない。

 貫通(戦闘に勝利したとき、それが攻撃時ならば、HR分のダメージを相手に与える)

 いづれかのプレイヤーが顕現を行うたび、このカードに人魂カウンターを一つ乗せる。このカードがダメージを与えたとき、すべての人魂カウンターを取り除く。

 このカードのHRは、このカードがもつ人魂カウンターの五倍に等しい。

BP4000 / HR0 / RV(同色)




(四回表まで耐えれば、返しに軽量ドローとピッチスペルの連打で一気に三十点奪える。逆嶋さんの昨日のレシピから推測すると、BP4000は召喚された直後に除去するのは難しいはずだし、いける)

 尭史の意思は固まった。



 ほどなくして、先に逆嶋がデッキを組み終える。尭史もそれに続く。

「やりましょうか」

 逆嶋の返事はなかった。やや音を立てて、自分のデッキをディール・シャッフルするだけだった。



 お互いのシャッフル、そしてカットののち、六枚の手札を引き入れる。尭史はジェローナに、『獰猛な中隊長』のみリクエストした。

(ま……素の状態じゃやっぱ、うまく働きそうなカードは引けないか)

 そう思った直後。

 逆嶋が「先攻はもろたで」と言ってプレイを始めようとするので、尭史はつんのめった。


「なんや。審判(しんぱん)も見えへんし、ワイの希望が通るルールやないか」

「それは……まあ、そうですけど」

 カードアニメのノリかよ。内心ツッコむ。



「プラグから『火山口の勘違い者』。エンド」

「ドロー前に手札の『獰猛な中隊長』を使います。トークンを二体生成。ドロ、プラ、エンドまで」

「ドロプラ、『マントルよりの巨人』。出目5」


 先ほどはいの一番に除去した一枚。ジェローナからも驚異の度が知れた大きさ。

(それを通すのは、結構勇気が要るな。けど)

 尭史自身で決めたプランに従うためには、放置するしかない。

 もっとも、今さら何もできはしないが。


「コンバット、『勘違い者』でつつく」

「トークンでブロック」

「エンド」

「ターンもらいます」

 逆嶋は眉をひそめる。


「ドロプラでエンドまで」

「ワイのターン。『金色の火猫、テンラ』を召喚」




『金色の火猫、テンラ』(黒)(赤)(緑)

プログレ(ファーリーチ)ーー獣 / 火口の住人

 Fmになるときアンステディされる。

 種族: 火口の住人が場に出たとき、すべての対戦相手は相手自身のプログレを一体選ぶ。それに2000のダメージを与える。

 あなたのターン終了時、ダイスを一度降る。奇数の目が出た場合、あなたのデッキから点数で見たコストが1以下の種族: 火口の住人を選び、バトルエリアに出す。

BP5500 / HR3 / RV(火口の住人)




「火力でトークン破壊、ええな。そのままコンバットやが」

「はい」

「『勘違い者』、続けて『巨人』で攻撃」

「通ります」

「あ?」

 来たか、と尭史は思った。

「そんだけか。やる気あんのか、キサマ?」


 尭史のライフは23点。

 その数字以上に、逆嶋の場に四体の種族: 火口の住人が並んでいる状況(盤面)が、明確な危機を示していた。壁となるトークンすら存在していない。


「なんのことでしょう」

 尭史はつとめて、冷静でいようとした。

 素知らぬふりでもするように、カウンターを移す。

 心の中ではジェローナを呼び、狙いのカードを引き寄せる。

「オレの番ですか。では、『鎌の白鬼』を召喚」


「……ああ?」

 カードを見た瞬間に、逆嶋の怒りはあらわになった。

「なめとんのか、コラ。ワイにハッタリかましたんか」


「え?」

 意味が判らず、とっさに逆嶋の顔を見た尭史は。

 まさに蛇ににらまれたカエルのような心地を味わった。

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