表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
66/106

66 次元の突破口

「サンキューな、月居。おかげで気が晴れたよ」

 はっきりそう言うと、尭史はコンテナから飛び降りた。

 たかだか二メートル余りの高さではあったが、運動不足の脚は強い衝撃を感じた。

「行ってくる。おれが楽しんで、おまえが救われる、そういう戦いをしてくるよ」


「あ……うん」

 それだけ聞くと、尭史は歩き出した。

「じゃあ、ね」

  小さくそう言われた気もしたが、振り返りはしなかった。



「いくじなし」

 月居が見えなくなったころ。ジェローナはそう言った。


(あん?)

「これだけ想ってくれる人がいるんでしょ。甲斐性見せたらいいじゃない」

 尭史は思わず脚を止めた。


 なんのことだ、ととぼけることもできた。しかし、そう出掛かった声を寸でのところで止めた。

 飲み込むように息を吸い込んで、思い切りむせた。

「なにやってるのよ」

 呆れが丸出しのジェローナの言葉。尭史はそれを、半ば無視するように。


(そいつは、本心で言ってるのか?)

 するとジェローナは押し黙った。

 ポケットから取り出して顔を見たってよかったが、そうすると自分の顔も見せることになる。それが躊躇われて、そのままにしていた。


(なにも、なにもおれだってさ、気づいてないわけじゃねえよ。あれだけおれのことを見てくれる人、今まで一人も居なかった、って思ってる)

 そこまで念じて、急に喉が渇きだした。思いを口に出しているわけでもないのに。

 ゲーム中とはどこか違う手の震えも感じた。気味の悪い汗が吹き出した感覚もあった。

 しかし、止めてはいけない気がしていた。


(月居はさ、あいつは……おれを支えてくれると思う。倒れそうになっても、下から抱き上げてくれる。思い込み入ってるかも知らねえけど、そんなふうに感じさせる)

 唇を噛む。きっと顔は赤かった。


(そいつは間違いなく幸せだろうよ。互いが互いのことだけ考えて、互いに溺れられるような気がするんだろ。世の中におれと月居だけ、二人だけ幸せになれらばいいって、それだけ目指して生きていけたら、きっと楽だよ)

 (うつむ)きながら、それでも本心を打ち明けようと決めた。でもさ、と。



(それじゃいけねえと思ったんだ!)

 強く、ジェローナに語りかけようと。



(おれを受け入れてくれるのは心地いいよ。おれを支えてくれるのは幸せだ、間違いなく。でもそんなの、甘えじゃねえか! 弱いおれのまま、伊奈を救うこともできねえまま、普通の男になっちまう。ただの男と女だ、弱さや傷を舐め合うような。それじゃいけねえと思ったんだ)


「考えすぎよ、尭史」ようやくジェローナが口を開いた。

「ひょっとしたら、今の月居さんは、あなたが言う通りの人なのかもしれないわ。でも人間はきっかけがあれば変われるでしょう? 尭史が望むなら、そんな悲観する通りにはならないはずよ、きっと」


(違うんだ。いや、ローナの言い分が合ってるかどうかっていうのは、おれにとっちゃ二の次なんだよ。つまりさ、その。おまえは)

 無意識に手で口を覆っていた。高まった緊張は、もうどうすることもできなかった。



(おまえだけは、おれを導くってことをしてくれた。どんな人も言ってくれない言葉を、おれにかけてくれた。強がってくれて、力をくれて、知恵をくれた。そう、一人だけなんだよ。おれを、上に引っ張り上げてくれるようなやつは。他に一人といない)

 自分の胸を叩く。もう後には引けない。覚悟を決めた。

(好きだ、ジェローナ。おまえだけが)



「へっ」

 ジェローナはしばし、その言葉が飲み込めなかった。やたらに激しいまばたきだけ顔に表れて、あとは固まっていた。

 五秒も経つとにわかに顔が赤らんで、反動のようにとちりだした。


「えっいや、いやいやいや! そんなだって私、だって、えー!」

(なんだよ)

「いやだからほら、ねえ! いやいや、そんな、あのだって、さあ」

(なにもわかんねえけど)

「ちがうのよ、その、なんていうか、私! あれよ! ほらあの」

 尭史さえ見ていないのに手で額を覆って、何者かと距離を取るような、珍妙な動きをするジェローナ。

 何度か口をぱくぱくさせた後、辛うじてこう言った。


「だって、私、尭史は月居さんといるのが、幸せだろうなって、絶対」

(なんで)

「いや、ほら、すごい楽しそうだったし、そうかなって」

(ローナ見てる方がずっと楽しいけど。今なんか特に面白いだろ)

「ああっ見ないで! ちょっと! 出したら絞める!」

(できないくせに)

 あまりの狂いように、尭史はちょっと余裕が出てきていた。


「それにほら、だって私、騎士なのよ。女だてらに筋肉こんな付いちゃって」

(カッコいいじゃん。むしろそれがいいんだよ)


「いや、そもそも私、カードなのよ! 無理があるでしょ、色々と」

(そうか?)

「いやだって、生物ってんでもないでしょ。ここから出られないんだから」

(些細なことじゃねえか。ローナ、おれを誰だと思ってる)

「誰よ」

(ちょっとゲームが上手いだけのよくいるオタクだ)

「それがなに」

(次元を超えた愛なら経験豊富なんだ)

「うえっそれで口説いてるつもりなら大間違いよ!? 気持ち悪いから!」

(ストレートすぎてつらいなあ)

 頭をかく振りをしながら、尭史はそっぽを向く。


「……でも、本気なの?」

 ややもすれば聞き逃しそうな声で、ジェローナが言った。

(ああ、本気だ)

「ありがと」

 間髪もない、真っ直ぐな尭史の思いに、ジェローナは小さく微笑んだ。



「私も好き」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ