64 予想外の潜在力
「タケシ、またローナから連絡が」
中村は気の抜けた顔でポップコーンを頬張りながら、なおも目線は動かさない。
(んー? なんだ、せわしないな。俺はさっき見かけた可愛いレイヤーのtwitterアカウント探すのに忙しいってのに)
「そういう人はどうせ恋人がいますよ」
(ゆ、言うねえ……)
ちょっと気が逸れて、中村はアンネシーラを見た。
「それでなんですけど、逆嶋って人も生きたFFを持っているそうなんですよ」
「おー!?」
中村は一度飛び上がるようにして、
「おー、おう」
すぐまた席におさまった。
「なんですかその反応」
(いやなんかやっぱまだ生きたカードっての慣れてないんだけど、逆嶋が持ってんのはむしろ自然だなって思いなおした)
「ご丁寧にありがとうございます」
(その逆嶋ってのがどんなのか、アンネ……とジェローナは知ってんのか?)
「知らないそうです。わたくしも」
(マジか? アンネはアレだけど、ジェローナは三回戦の様子とか思い出せねえかな。あんときから、鮎川とほぼ同じレベルで監視を受けてるヤツがいたって)
「そうだっけ? だそうです」
まあいいけど、と中村は頭を掻いた。
(逆嶋の方にはもっと、古典的なイカサマが疑われててよ。あいつは三回戦から、自分でサイコロを握っていない)
「サイコロ?」ジェローナは怪訝そうな顔をした。「それがどうしたっていうのよ」(「なにかと使う場面は多いぜぇ。最初に先手・後手決めるのもサイだし、出た目で強さが変わるカードもあっからよ。代表的なのは『首狩り陣形』……つっていまジェローナには見せらんないか)
『首狩り陣形』(赤)(1)
エポック
・このカードはアンステディ状態で場に出る。
・このカードが場に出るに際し、ダイスを振る。出た目の数に等しい進駐カウンターをこの上に乗せる。
・進駐カウンターを好きなだけ取り除く、アンステディする: プログレを一体選ぶ。それに取り除いたカウンターの数の1000倍に等しいダメージを与える。
・進駐カウンターを好きなだけ取り除く: プレイヤーを一人選ぶ。取り除いたカウンターの数に等しいダメージを与える。
そういうのもあるのねとジェローナは納得しつつ、思ったままをアンネシーラに投げる。
「だと、逆嶋……さん? のFFの能力も、そういうことでいいのかしら」
聞いた中村の答えは、やはりジェローナの思った通りだった。
(なんじゃねーかな。ヤツは間違いなく! ――ダイスの目を操る能力を持ってやがる)
しばし、ジェローナは考えて。
ぼそりとアンネシーラにこぼした。
「それって、事前に知っておくことで何か対策が敷けるものなの?」
(どうかな)それが中村の答えだった。
(常に相手が最高の目を出して、ブン回った動きをするだろうっていう覚悟で挑む。それくらいしかないかもしれねえ。サイコロを振るっつー行為そのものに対する上策は、ねえからよ)
「……」
ただ、と中村は続ける。
(黒赤緑っつーカラーリング、それとミッドレンジっつーアーキタイプについて言えば、どこかのタイミングで急に大きく攻勢に転じられたときが弱点にはなる。極端なトコならよ。ヤツは『清涼で甘美な日々』を止める手段を持たない)
中村にとっていやな沈黙が、しばらくあった。
「ローナ、息を呑みましたよ」アンネシーラが心配そうに言う。
(冗談過ぎたかな)中村はバツの悪そうな顔をした。
「あ、あと何回、ドローを操作できるんですか?」話を逸らすように、アンネシーラが訊く。
「39回」
「それは……」
ジェローナの短い答えに、アンネは思わず呆気にとられた。昨日より明らかにペースが上がっている。それで『清涼で甘美な日々』が撃てるとは、到底思えなかった。
「……はっ」
数秒経って、アンネシーラは口を覆った。励ますつもりだったのにと。
「ごめんねさいね」
沈んだ調子で、ジェローナが言った。アンネシーラがハッとしてからすぐのことだった。
「気を重くするようなこと訊いちゃって。邪魔したわ」
「そんなことは! ジェローナ」咄嗟に呼び止めても、答えはなかった。
中村の手の中で、アンネシーラは明らかに肩を落とした。
(ま、なんとかなるだろ)
焦りを隠せず、中村の声は上擦る。
(さっきの三本目みたいに、また鮎川自身でやれるだろうし)
「そういうことじゃないです!」
アンネシーラの急な叫びに、中村は飛び上がった。
「ジェローナの気持ち、判ってあげたらどうなんです。にぶい!」
「ん? あ、ええっ?」
「これがオタクというものですか!」
しどろもどろとする中村に。アンネシーラはその白い手で、嘆かわしげに顔を覆うのだった。




