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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準々決勝
57/106

57 永遠の見守り

 青年はしばし、言葉が出なかった。

 様々な思いが、浮かんでは消えた。


 それは2ターン目にして決まってしまったワンショット・キルへの快感であったり。

 SNoWを知って一週間の少女の戦略が、国内最大規模の大会で通用したことの驚きであったり。

 野次馬の言葉を真に受けてしまった自分への恥ずかしさであったり。

 自分の気も知らず、一方的にプレッシャーをかけてきた両親への憤りであったり。

 妹を救うという目的へ、一歩前進したことへの昂揚(こうよう)であったりした。


 けれど今。

 それらが、ひとつの思いによって塗りつぶされたような。力強い感覚があった。

「ありがとう、ローナ」

 そしてそれは無意識に、青年の口から漏れて出た。


「ちょっと。聞こえちゃうわよ」

(あーーいや。情けないな、オレ。こんだけ世話になったくせに、他に言葉が出てこねえし、なんていうか)


「気にしないで。私はただ大きな博打(ばくち)を打って、それに勝っただけよ」

(でも)

「それだけのことなのよ」

(……)


 俯いていながら、ジェローナと顔を合わせようとはしなかった。

「顔を上げなさい、尭史」

 その態度を気にとめる風もなく。

 ジェローナは毅然として、語りかけた。


「今のことは、いくらでも思うことがあると思うわ。でも勝って(かぶと)の緒を締めるものよ。まだ三本目だって残ってるんだから」

 その声色は言葉に違わず、凛として尭史の心に響いた。

「昨日の覚悟を忘れないで。感想も反省もーー全部、勝ってからに」


(……そうだったな)

 驚くほどに気分が軽かった。鬱屈(うっくつ)とした諦観が、自分の足下で(しぼ)んでいる。尭史はそんなイメージを覚えた。

(希望が見えてきた。ローナ、今は戦おう)


「いい目よ」

 ジェローナは微笑みながら、続けた。

「それで、どうするつもり? 今度は同じ手は使えないでしょう」


(ああ。もちろんだ。さっきのは、対策しようと思えば方法は色々あるからな)

「それっていうのは、逆手に取れたりしないの?」

(ホント、いい見方をするようになったよな)

 尭史は目を丸くした。口角は少し上がっている。

(ただ今回は、それが割に合う価値を生み出すか怪しい)


「割に合う価値っていうのは、昨日の『不平等統制』(11話参照)のようなものかしら」

(ズバリそれだ! あれは4コスト分以上の働きをした。あの一枚で、月居の動きを3ターン以上制限することができた。それによって、こっちが最終的な勝ち手段を用意するまでに大きな余裕ができたわけだから)


「伊豆浜? さんが次に使いそうなカードに対しては、それに値するようなものがないと」

(そうなる。おそらく、二本目にあたって抜いていた『ジーニアスの悪戯』なんかを再投入してくるだろうが、そうした敵の脅威を打ち消すカウンターカードそれ自体は、逆に利用するのが難しい)

「カウンターのカウンターは難しいと」

(出来なくはないけど、それが特別強いわけじゃないってこと。矢吹丈じゃないからね)

「矢吹丈」



『ジーニアスの悪戯』(青)(1)

スプレー

 ジーニアスの悪戯の顕現コストは、手札の白か黒のカードを捨てて支払うこともできる。

 召還または顕現一つを対象とする。それを無効にする。

 ジーニアスの悪戯を顕現してから最初のあなたの第一メインフェイズ終了時、このカードで無効にしたカードの点数で見たコストに等しい数の(青)を支払う。出来なかった場合、あなたはゲームに敗北する。



(こうなったらもう、小細工はやめだ)

 困ったような顔をしたジェローナに対し、尭史は意を決したように。

(真正面から打ち合いにいく)


「わかったわ」

(今度は何も訊いてこないのか?)

「ええ。はじめに言っていた、相性有利の戦いに戻るだけでしょう? それに」

 意味ありげにつま先で一回転してから、続ける。

「これからは一緒に戦えるような気がするから、ね」


(オレも、そう思うよ)

 尭史はふと、自分の思いがちょうど落ち着いたように感じた。

 一人じゃなかったという安心感だった。

 自分をずっと、見守ってくれている人がいる。

 伊奈のため、共に闘ってくれる人がいる。

 青年の恐れは、いまや完全に吹き飛んでいた。

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