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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準々決勝
56/106

56 速さの炸裂

 TCGをプレイすることによる疲労感を、筆記試験によるそれと同等だとする意見がある。


 机に座り続け、考えることを止めてはいられない。その点については変わらない。

 相手と自分の行動を把握するためには、数百枚のカードを暗記する必要もある。

 ややもすれば、どんな科目のテストよりも、問題が目に見えにくい面もある。

 

 対戦相手の一挙一動に目を配っては、行動を予測する。

 自分の手札、残った山札から取り得る行動を吟味する。

 すべて可視可されているとは限らないし、メモをとることもできない。


 そういったことが引っ切りなしに行われる一方で、確率を凌駕する事態が常に起こり得る。

 そのたびにプランを練り直さなければならないのだから、気を緩められない。


 ある意味ではテストよりも難しいといえるかも知れない。

 ベスト8の大半は今、そんなことを痛感していた。


 衆目にさらされながら、国内最高峰の対戦を強いられ。

 慣れない布団で一夜を過ごし、今日もまた闘いに臨んでいる。

 難敵を前に(くじ)けそうになっているのは、なにも尭史だけではないのである。


 

 パーミッション相手に腹のさぐり合いを強いられている佐藤にせよ。

 逆嶋の眼光に気圧される光場にせよ。

 二連覇のプレッシャーを受け続ける北田気にせよ。

 あの逆嶋や、焔村でさえ。

 いま、八人が全員、苦しみのただ中にいるのだ。


 ――ただ。

 尭史には一つ、他の七人とは違う強みがある。

 その苦しみを分かちあえる、心強い騎士が、すぐそばにいる。





「ステディ、ドロースキップ。『間欠泉狼』をプラグ、さらに『孤島住まいの老僧』を召喚します」


 そう言ったのは尭史である。ただしセリフはジェローナの復唱にすぎない。

 すべてが彼女の思うままである。

 開始時の手札、そしてこれからのドローも含めて、いまや尭史の意志はいっさい介在していなかった。


「通るわ」

 付け加えるなら、伊豆浜の反応も含めて、である。

 ただ、言葉の裏にある伊豆浜の苦悶までは、ジェローナには読みとれなかったが。



(1コストの鋭敏持ち? こんどは何する気なのよン)



『間欠泉狼』(2)(青)(赤)

プログレ――獣

 (能力なし)

BP1500 / HR1 / RV(同種族)



『孤島住まいの老僧』(赤)

プログレ――人間

 鋭敏

 欠片つなぎ(あなたが顕現を解決したとき、いずれか選ぶ。ターンの終了時までそれを得る。 ・このプログレのBP+1000 ・このプログレのHR+2)

 BP2000 / HR1 / RV(同名)



(ドローが噛み合えば突破力が青天井の、速攻用生物。やられたわネェ。ピッチ(0コスト)スペルはサイドアウトしちゃったし、返しのターンに除去する手段は手札にナイ)


 Fmコストの代わりに手札や魔力を要求するピッチスペルは、長期戦に不向きと見込んで抜き去ったのである。

 肩でもすくめたかったが、今はおくびに出すわけにもいかない。


「では、『老僧』でアタックです。1点のダメージ」

「いいわよ」

「その後エンドまで」


(いったい何をする気なのヨ。あの生物は何かの布石? それともただのブラフかしら)

 最小サイズの生物ながら。あるいはだからこそ、伊豆浜は深く考える。


 伊豆浜にとっては、試合が長引けば長引くほどに、こうした生物を除去するのは楽になる。

 反面、序盤での除去はそう得意でもない。手を焼いていると自分に有利な盤面を作るのも遅れてしまう。

 かといって放置しすぎても、速攻で勝負を決められかねないのだ。

(今の手札に除去する手段はないことだし、後で除去しやすいようFFを『老いるもの』にしとこうかしら)

 水晶を回転させてから、伊豆浜はカードを一枚引く。



『喰い滅ぼし』(白)

エポック

 このカードが場に出たとき、各プレイヤーはそれぞれの対戦相手のプログレを一体選び、追放する。

 これにより追放されたプレイヤーは、自分の山札の一番上を公開する。それぞれの対戦相手は、それを手札に加えさせるか、アンステディ状態でFmにするか選ぶ。



(あら、一応引いちゃったわね。除去手段)

 運命的なものを感じつつも、考え続ける。

(今これを使えば、ひとまず『老僧』は除去できる。……だけど、手札を増やしてあげちゃうことになっちゃうし。次に2コストの生物を出されたら意味が薄いのよね)


 もともと、『マーメイド』を引きすぎたときか、大型生物を除去するときを想定して差した一枚である。『老僧』のような超小型に向けることは、一切考慮していなかった。


 ゆえに、伊豆浜は。


「プラグからエンドまで」

 これをそのままFmにして、ターンを渡した。



「ここまで計画通りね。さ、一気に行きましょ。すぐキメちゃうわ」

 それを受けてのジェローナは。

 少し鼻息を荒くして、そう言った。


(あ、ああ)

「尭史ったら、やっと返事してくれたわね! どう、ちょっとは落ち着いた?」

(なにかこう、頭が強制冷却された気分だよ)

 ついでに肝まで冷えてきた、と漏れかけたのを、ギリギリでこらえる。

 その程度には、冷静になれていた。


 しかし、と。

 ジェローナに読まれないよう気をつけながら、尭史は考える。

 オレなんかに比べたら、ローナの肝はどれだけ太いのか? と。


(これからローナがやろうとしてることは、昨日の地点では一応、オレの想定内にあった。だからこそ今サイドボードに入ってるわけで。……でも)

 もし自分のコンディションが万全だったとして。この方法を選ぶことは出来ただろうか?

 おそらく不可能だった。そう自答する。


(この大舞台で用いるには、あまりにもリスキーだ! だからこそ、相手の警戒も緩むってこと、か?)

 そこまで読んでいるのかは、判らない。

 ただ今は、聖女の判断に任せるだけだ。



「では、ターン貰います。プラグから、『鮮血の呼び起こし』。カットインなければ、続けて『英霊の遺恨』を召喚。『老僧』へ憑依します」



『鮮血の呼び起こし』(赤)(赤)

スプレー

 あなたが次に使う赤の召喚・顕現は、コストが(赤)四つ分少なくなる。鮮血の呼び起こしをFF(フォアフロント)エリアに置く。

 毎ターンのステディフェイズ時、鮮血の呼び起こしがFFエリアにある場合、あなたのライフカウンターを二つ取り除く。



『英霊の遺恨(いこん)』(赤)(3)

プログレ――ゴースト

 連撃

 憑依(ひょうい)(このカードが召喚されたとき、場のプログレを一体選ぶ。あなたはこれをそのプログレにつけてもよい。憑依されたプログレは、このカードの能力、BP、HR、RVが付け加えられる。)

BP1500 / HR3 / RV (ゴースト)



「え……えっ?」

 あからさまに狼狽(ろうばい)したのは伊豆浜である。

 理解が追い付かず、かえって笑みさえこぼれてきた。

(なによ。なんなのよ! 三枚揃って速度が違いすぎるゥ!)


 たいていのカードは、それぞれが最も活躍できるターンや、デッキを持っているものだ。

 『老僧』なら、一ターン目から殴りかかる速攻。

 『鮮血の呼び起こし』は、2ターン目以後にサイズの大きい生物を呼び出すミッドレンジなど。

 『英霊の遺恨』は種族を生かした中速ビートダウンが有名だ。

 つまるところ、属するものがてんでバラバラなのである。


「通りますね?」上目遣い、値踏みするような尭史の目。

 それに少しドキっとしながら、伊豆浜。「え、ええ」


「『呼び起こし』の解決に際し、『老僧』の欠片つなぎが発動。HR+2です。ではコンバット入ります」

「いいわよ。防御者もいないわ」

「では攻撃者は『老僧』。ダメージ前ステップに『癇癪玉』と『悪用された本能』をプレイ」

 ついに伊豆浜は、耐えきれずに笑いだした。


『癇癪玉』(赤)

スプレー

 癇癪玉の顕現コストは、4点のライフカウンターを取り除いて支払うこともできる。

 以下から一つを選ぶ。

 ・プログレを一体選ぶ。それに1000のダメージを与える。

 ・プレイヤーを一人選ぶ。それに1点のダメージを与える。



『悪用された本能』(緑)

スプレー

 『悪用された本能』の顕現コストは、4点のライフカウンターを取り除いて支払うこともできる。

 プログレ一体を選ぶ。それのBP+2000 / HR+4 する。



「『老僧』のHRは本来1。『鮮血』『癇癪玉』『本能』解決による欠片つなぎで+6。『遺恨』により+3、『本能』自体の効果により+4。合計14。かつ、『遺恨』の連撃を引き継いでいますので--プレイヤーに28点のダメージ」


「私がピッチスペルを持ってるとは思わないワケ?」伊豆浜はまだ笑っている。

「コントロール相手じゃ邪魔になる。『甘美な日々』が怖いとはいえ、わた……オレがそれを撃つ頃ならもっと効率のいいカウンターを用意するのは簡単だ。だから抜いた。違うかし……ますか?」

「FFを『生けるもの』のままにしてたら、首の皮一枚繋がってたわよぉ?」

「そしたら次に『招雷』か何かで削りきってやりますよ」

「もー。敵わないわネん!」

 そう言って、伊豆浜は手札を投げ出した。


「では、前のターンの1点と『癇癪玉』の1点が合わさって、合計30点。削らせてもらいます」

 声を合わせるジェローナは、両手を投げ出して喜んでいた。

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