42 突然のショック
ラップトップではライブストリーミングが流れている。『北田気の源世界』。
昨年チャンプである北田気が、大会状況を自ら語るという趣旨のネット配信動画である。
今回のテーマはもちろんスクロールカップ。
自身の試合やカバレージを引き合いに、彼ならではの見解を語っていた。
四人はそれをBGMにしながら、話し合いを続けていた。
「各FF固有の能力外のものとして、距離に関わらずFF同士で念話できるというものもありますよ」「なんじゃそりゃ」「わたくしとジェローナさんは、今後いつでもどこでもお話ができるんです」「私のことローナでいいわよ」「つーと試合中でも間接的に中村とコンタクトできるのか。一種のカンニングだな」「でもカンニングって対象が正解を知らないと共倒れよね」「それって俺のこと遠回しにバカにしてる?」「まあ中村のスペックはこの際二の次だよ。それが何の役に立つのかが問題だ」「お前ら揃ってさあ」「テストの答案と違って解答を出せるカードがデッキになければなんの意味もないってわけか」「そうなるんだ。だから結局はデッキありきってことになる」
そうした議論が遅々として巡り、なかなか進行を見せなかった。
「なんかわりいな鮎川。うまく力になれなくて」
「んなことねえよ。カードゲームってのは相手の出方が極度に流動的である以上、万能な解答ってのは存在しない。もしあるとしたら、それは『清涼で甘美な日々』のようなリスクを伴う」
「そうかもしんねけど」
「ローナのことを知ってくれて、少し肩の荷が下りた気分だ。それだけでも助かってるよ。言わせんな恥ずかしい」
「なによ。私のことがお荷物だって言うのね」
「だからなにピリピリしてんだよ」
「お二人仲良いんですね!」
「「どこが」」
その声に続いて。
ドアが二つノックされた。
「なんだ?」
尭史は時計を見る。21時。ホテルマンにしては少し襲いというか、無遠慮な気がした。
「パパラッチだったりしてな」中村が言う。
「そりゃ、ぞっとしねえ」
尭史はそっと歩き、魚眼レンズから外を覗いた。
「早崎……さん?」
そこにいたのは。
二回戦の相手、早崎常麿だった。
(なんだろう。この人にはすっかり嫌われたものだと思ってたけど。いやむしろ、だからか?)
ドアを開けたものか、悩む。
だが今は中村が一緒にいることもあって、会ってみることにした。
「すまなかった」
開けると同時に。
早崎はそう言って、深々と頭を下げた。
「え、……うぇ?」
尭史にはなんの心当たりもない。ちんぷんかんぷん、ただ戸惑った。
説明が続くだろうと早崎の言葉を待ってみる。
しかし彼は黙ったままだった。
そのまま数十秒が経った。
「えっと、とりあえず、入ってください」
どうにもらちが空きそうになかったので、とりあえず誘ってみた。
「いいのか?」「いいですよ」「わたしは招かれざることをしてしまったというのに」「え、なんですかそれ」「なに?」
ふたたび謎の沈黙が訪れる。
「うん、まあ、話聞くんで、とりあえず入ってください」
会話の噛み合わなさを感じながら、尭史は部屋の中へと入った。
後に続く早崎を見て、中村が雑にお辞儀をする。
「あれ。この人って」
やはりジェローナも不思議そうな声を上げた。
尭史が中村とともにベッドへ座り、早崎は備え付けのスツールへ。
「詫びと頼みがあって来た」
座るなり、彼はそう言った。
「二回戦の戦いぶりが、わたしはどうしても受け入れられなかった。怒りに任せるまま、鮎川氏のデッキレシピをネットに公開した。それを謝罪したい」
そして再び頭を下げた。
「えっと」
まくしたてられて腰が引ける尭史。ただ、言いたいことはもう決まっていた。
「頭を上げてください。オレはそんなの気にしてないし、結果的に勝ち進んでるわけですし。そもそも早崎さんがそんなことをしていたことも、全然知りませんでした」
「しかし馬渡氏は、間違いなくそれを見ていた。でなければ『相対性の看破』や『鶴の仇返し』を投入したことが考えにくい」
なお引かない早崎。それがちょっと鬱陶しくて、尭史は話題を変えた。
「でもオレは勝ちました。それより頼みってなんですか?」
「ああ、そうだ。こんなことをしておいて、烏滸がましいとは思うのだが」
早崎は背筋を伸ばす。そして、またもや頭を下げた。
「焔村光秀と必ず闘ってくれ。そして必ず勝ってくれ!」
ややもすると、頼みでもなんでもないような言葉。
しかし言外の違和感が、尭史に付きまとった。
「それは優勝してくれってことじゃねーの?」中村が問う。
「その通りだ。しかしそれだけではない」早崎が答える。
「要領を得ませんね。詳しく話してください」尭史が言った。
「判っている。ただ」
「ただ?」
「わたしは口下手だ。いわゆるコミュ障と言っていい。手間を、取らせると思う」
「そんな気はしてました」「今の話し方でも判っちゃったぜ」「だと思ったわ」「自覚あったんですね」
「む……」
(半分は聞こえていないとはいえ)四者の同意に複雑な顔の早崎。
「まあ、良い。では聞いてくれ、焔村の――あの男の本質を」
早崎は話しだす。
その語りはたどたどしく、尭史と中村は途中何度も口を挟んだ。




