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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
一日目: 閉会後(夕)
36/106

36 滅びへの選択

 静寂がはじめに訪れた。

 司会者も言葉を失った。観客は水を打ったような静けさに取り巻かれた。

 もちろん馬渡たちも黙り込んでいた。

 沈黙はどこまでも伝播した。


 飲み込める者がいなかったのだ。

 今しがた起きた出来事のことを。


 そのうち誰かがブーイングを始めた。すぐに止んだ。

 尭史の監視は誰よりも厚く行われていた。

 イカサマができる環境ではないと誰もが判っていたのだ。

 たとえ偶然にしては出来すぎているとしても。


 司会者がマイクを握った。白々しいことを言った。

 場を操る力はなかった。

 いたずらに時間が過ぎた。


 ふと、観客席から拍手が起きた。

 最初に気付いたのはジェローナだった。

「尭史、あそこ」

 人差し指の先。席から立ち上がっている誰かが、尭史にも見えた。

 あまりに遠い。顔まで判別できない。

 しかし何者かは、特定できた。


「……月居」

 白いシャツとオーバーオール。

 大勢と違い、焼けた肌。

 そんな出で立ちのプレイヤーなど、他にいるはずがなかった。


 他に誰も続かないのに。

 たった一人で、拍手を送り続けていた。


「月居さんは、祝福してくれるのね。誰よりも、私達の勝利を」

「……!」


 その瞬間、彼女の言葉がフラッシュバックする。

 訛りきった無邪気さが、尭史の頭にこだまする。

『ね。もっと勝ち進んでな。そんなら私も救われるわ』


「……オレは」

「尭史?」

「あいつが救われるような勝ち方ができたか?」

 言うが早いか、自分のカードを片付け始める。

 デッキをまとめ、カバンに突っ込む。


「ま、待って。尭史!」

 胸ポケットからジェローナが叫ぶ。

 しかしもう、尭史には聞こえていなかった。

 立ち上がる。審判の制止も無視する。

 静寂から逃げるように、尭史は会場を飛び出した。



 その後姿を、会場のあらゆる人間が見ていた。

 もちろん焔村や逆嶋も例外ではない。

 ステージ上のパイプ椅子に座り、にやにや笑いを浮かべていた。


「逆島サンはデウス・エクス・マキナって知ってますん?」

「なんや急に」


 勝ち進んだ上に、目の(かたき)が逃げ出した状態である。

 逆嶋にしては珍しく、上機嫌でおしゃべりに興じた。


「ラテン語で『機械よりの神サマ』。演劇手法の中で最も忌避されるモノの一つですのん」

 素直に相槌を打つ逆嶋。焔村にとって、始めて見る姿だった。

「古代地中海世界の演劇が元ネタだそうですん。物語の終盤、機械から唐突に神サマが現れて強引なオチをつけたとか」


「意味が判らんわ」

「じゃこんなラヴストーリーはどうでしょん? AくんはBさんが好きで、BさんはCくんが好きで、CくんはDさんが好きで」

「DさんはAくんが好き、か? ありきたりな話やな」


「途中まではそうなんですよん。ABCD入り混じって、ドコがくっつくかハラハラしますのん」

「やっぱありきたりやないか。ほんで最後は?」

 待ってましたと言わんばかりに、焔村は強く言った。

「突然妖精が飛んできて、四人にホレ薬を振りかける。その瞬間にABとCDがくっついて閉幕しますん」


「なんやなんや、そのクソ話。納得でけへんやろ」

「どうしてですのん?」

「どうもこうもあるか。人間同士の色恋モノに、突然出て来た人外がオチつけるて」

 そこでようやく、焔村の意図を理解した。

「――今の試合となんも変わらへんやないか」


 びっ、と焔村は親指を立てた。

「判ってもらえたみたいですねん。これがデウス・エクス・マキナ。話の流れとなんら因果をもたない事象によって、出来事を収束させる手法。広義では夢オチもこれに属しますん」

 だから間違いなく――と焔村は結論づける。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これだって、デウス・エクス・マキナ以外の何物でもありませんのん」


 観客にバレないようにして逆嶋は笑った。

「ええな、皮肉が効いとる。演劇とTCGなんざまるで別種のモンやけど、こと見世物となると結果は同じになる」

「そういうコトですのん。加えて、デウス・エクス・マキナが演劇において忌避されるように。これをカードで行った鮎川サンもまた、忌避されることになりますねん」


「はッ、愉快や愉快や! 焔村ァ、これがおまえの心理攻撃の結果ってことか!」

「そうとも言えますし、違うとも言えますねん。僕は単に、揺さぶりをかけてプレイング・ミスを誘うだけのつもりだったんですよん。だから半分以上は僕の手柄じゃないですん」


「その半分てのは一体なんや」

「馬渡サンがランプだったという偶然と、鮎川サン自身による自滅、ですかねん」

 ピンとこない逆嶋。


「彼は自分が見られているというコトを気にしなさすぎましたん。不利な相手にも確実に勝つことを目指すあまり、『持ち主』として悪目立ちすることを考慮しなさすぎたんですん。そこを用心してれば、あれほど目立つ場面で『清涼で(ハッピー・)甘美な(アイス・)日々(クリーム)』なんて絶対に使いませんのん」

「なんやヤヤコシいな」

「勝ち汚さを突き詰めた結果、穏便に済ませることを忘れてしまった。それにより、精神的に追い詰められる状況へと自ずから足を突っ込んだことになりますん」

「ま、あんなマネすりゃ印象最悪やな。グランプリのチェックパックドロップよりタチ悪い」


 結局のところ、と焔村。

「彼は試合に勝って勝負に負けた――ってことですよん」

「まー、それはなんとなく判るけどな」

「そういうわけで、これで鮎川サンに対する一般プレイヤーの風当たりは強くなるハズですよん。冷静にプレイするのが、一層難しくなるでしょうねん」


 逆嶋は相変わらず、肩を震わせていた。

「おもろいで焔村ァ。おまえのコト、信頼して良さそうや。決勝でも頼むで」

「それは良かったですよん。こちらこそよろしくお願いしますねん」



 ただし。

 口ではそう言いながら。焔村の心中はまた違っていた。

(それはそれとして。三回戦をごく普通にこなしていたことは気になりますねん。あんな風に疑われたら、本領を発揮できなくてもおかしくないのに?)

 尭史を支えるイレギュラーがあるのかどうか。そう(いぶか)しむ。

(もっとも本気で来たところで、勝つのは僕ですけどねん。ね、『スオウ』?)

 誰にも気づかれないように、内ポケットへと声を投げた。

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