35 禁じられた儀式
「決まったアァァァァ!! 磨き抜かれたパーミッションで長期戦を制しましたッ!」
尭史が考え込んでいるころ、実況席は盛り上がりを取り戻していた。
「キャリア一切不明!! 七人目は福岡のダークホース、焔村光秀だ~ッ!」
尭史たちから離れたテーブルで、焔村は席から跳びあがっていた。
「これで残るはあと一人ッ! 二日目へと駒を進めるのは、馬渡か鮎川か!? 注目の一戦をご覧ください!!」
メインディスプレイの映像が、ふたたび尭史たちに向けられた。
一方ジェローナには、試合前と同じ寒気がぶり返していた。
「他に方法はないの?」
妙な技は使わないに越したことはないんじゃないか。そう思ったのだ。
だが尭史はやはり、聞く耳を持たなかった。
(ああ、ない。あとはもう、それを確実に決めるしか)
「そっか」
突き詰めれば、勝利は全てに優先する。
自分のファジィな勘で、そこから遠ざかるわけにはいかない。
だからジェローナは。もう何も言わなかった。
(この必殺技は、通れば絶対に勝てる。けど『相対性の看破』なんかで無効にされたら元も子もない。そこで次のターンはブラフを仕掛ける。『乾荒原の拡大』を持ってきてくれ)
『乾荒原の拡大』(白)(青)(2)
エポック
Fmになるとき、アンステディされる。
(白): このカードを墓地に送る。そうした場合、すべてのプログレを墓地に送る。
尭史はそれを顕現すると、ターンを渡した。
(ホント、いい引きじゃん。『オーク』の攻撃宣言後にこの能力を使えば、1ターン以上時間を稼げる。その間に、さっきみたいな手間のかかるコンボを成立させようって魂胆だったんだろーな)
馬渡は思う。
(御免よ鮎川くん。きみのデッキは生物主体じゃないって判ってるから、サイドチェンジで打消しカードを増やしておいたんだ。それも取っ払えるよ)
馬渡のターン。『オーク』が攻撃し、能力が発動。
手札を捨てて、『大蛇』が墓地から出される。効果でFmのブースト。同時に『死ノ杜』で魔力を増やす。
防御者開始ステップ、尭史は『乾荒原』の能力を使用。
「ではそれを『鶴の徒返し』で上書きします」
馬渡は最後の手札を見せつけた。
『鶴の徒返し』(青)
スプレー
スプレー・エポック・アーティファクトの顕現または効果の発動を一つ対象とする。それを無効にし破壊する。それのコントローラーは、制空をもつBP3000 / HR3 の鳥・プログレ・トークンを場に出す。
「通ります」
尭史は手をひらひらとさせた。
「鮎川選手、これは痛いッ! 『オーク』のセルフ強化と『死ノ杜』のHR倍化で一挙16ダメージを喰らったアァ!!」
若き実況が唾を飛ばす。まるで疲れを見せない。
「『オーク』のみならず『大蛇』の存在までも許している状況です! 下手を打てば次のターンで負けかねないッ。先ほどの『ヴィシャス』コンボで勝つにはFmが足りていない! 果たして鮎川選手に打つ手はあるのでしょうかァー!?」
誰もがその試合を見つめていた。
このまま馬渡が殴りきるのか?
それとも尭史が再び華麗な勝利を見せつけるのか?
観客たちは、期待を込めた眼差しを尭史の右手に向けていた。
(馬渡は手札を切らした。オレたちの勝ちだ、ローナ)
相変わらず尭史には、観客たちの様子など届かない。
(『清涼で甘美な日々』をくれ)
だから、その指示を変える理由などなかった。
ジェローナはただそれに従った。
(考えちゃダメ)
そのカードを引き寄せるほど、悪い予感が警鐘を鳴らす。
(ダメよ、ジェローナ・メイル! 尭史は絶対に勝たなきゃいけない。約束したもの!)
ついにその一枚を、審判の手に握らせた。
「オレのターン」
最後の手番の宣言。
審判から一枚の紙を受け取る。
空中を泳がせ、ちらと見る。
『清涼で甘美な日々』。
リクエスト通りのカードだ。
手首を返す。
それが表向きになる。
そのまま。
手札にも加えず。
ふわりふわりと、場に落とした。
「このカードを顕現します」
『清涼で甘美な日々』(白)(白)(黒)(2)
スプレー
Fmになるとき、アンステディされる。
デッキの上から10枚を公開する。それらすべての、点数で見たコストの合計が31ならば、あなたはゲームに特殊勝利する。
これによりゲームが終了しなかった場合、10枚のうち望む枚数を墓地に置き、望む枚数をデッキの一番下に好きな順番で起き、残りをデッキの一番上に好きな順番で置く。
広大な会場が、一瞬で凍りつく、
「これ……は? どういうことでしょうか」
あれほど元気だった実況さえも、素っ頓狂な声を挙げる。
「昨年S.N.o.W.が某アイスクリーム・パーラーとコラボした際のプロモーションカードです。あまたのプレイヤーが使用を試み、すぐさま挫折したあの一枚を、鮎川選手がノータイムで使用しました……!」
今度は一転、これまでにない喧騒に包まれていく。
「鮎川選手なりの投了宣言でしょうか? それともなんらかのコンボの布石でしょうか。しかしFmはすべて消費されており、続けてのカード使用は不可能に見えます」
誰もが疑問を胸に抱く。
尭史のデッキには『虚空漂着』から『天界包囲の将、エートミア』までが入っている。
山札の順序入れ替えもなしに、よもや特殊勝利条件を満たせるわけもない。
皆がそう考えていた。
だがそれは、既存のTCGの理屈に過ぎないのだ。
(気を抜くなよ、ローナ。今から十枚すべてを操作してもらう)
尭史の指示など、誰が予測できるだろうか?
それまでの全ての駆け引きをなかったことにして。
一方的に勝利をもぎ取るなどと!
「ありがとうございます」
審判から十枚のカードを受け取る。
尭史はそれを机の中央に、裏向きにして置く。
そして一枚ずつ、表に返していった。
『招雷』(赤)
『虹色の平和』(白)(黒)(1)
『南国カジキ』(青)(緑)
『骨抜かせのくのいち』(黒)(2)
『血液呑みのオーガ』(黒)(赤)
『戦場の天変』(白)(白)(2)
『波状電流』(青)(赤)(1)
『闇を飲み干した者、今川』(黒)(黒)(6)
『不正規衛兵四人衆』(青)(2)
『大いなる拒絶』(白)(青)
「すべてのコストの合計は――31。特殊勝利条件を満たします」




