34 ひるまぬ勇気
「さあ。というわけで、鮎川対馬渡の二本目は鮎川選手が勝利を収めましたッ。三本目も気になるところですが……その前に。準々決勝進出者がかなり決まってきております! ここで錚々たるベスト8の面々を紹介しましょうッ!!」
実況の一声で、五人のオタクにスポットライトが当てられる。
「佐藤選手に続く二人目ッ! 単色のウィニー、小倉秀介!!」
小倉は小恥ずかしそうに頭を下げた。
「ビート対策は完璧だ! 白青コントロール、伊豆浜庄兵衛!!」
観客席へ投げキッスをする。なお伊豆浜は男である。
「ギャンブルなら絶対に敗けん! 浪速の魂見せたる。黒赤緑ミッドレンジ、逆嶋謙造だ!!」
逆嶋は仁王立ちしたまま、動じない。
「コンボデッキならコイツが怖い!! 石川のベテラン、光場賢一だ!!」
その場で回り、踊って見せる光場。
「若き王者が返ってきたッ。ご存じ三重の極み、北田気源の登場だーーーーッ!」
舞台慣れした様子で、北田気は手を掲げてポーズをとった。
「これで残るはあと二人ッ! それではここで、焔村対植木の戦いを見てみましょうッ!」
メインスクリーンの映像が、またもや切り替わる。
尭史と馬渡は、ふたたび静かに向かい合うことになった。
尭史のデッキシャッフルは変わらず審判が行う。
馬渡が当然のように先攻を宣言した後、互いに手札をチェックした。
(……果てしなく微妙だ)
尭史には、それ以外の感想が出てこなかった。
「それは、どのへんが?」ジェローナが問う。
(二本目は、『メルバリスのクローン実験』『糾弾』『慨嘆』と1コスの妨害カードが揃ってたし、残りもFmにちょうどいい多色カードだった。でもこの手札には、妨害が『慨嘆』の一枚のみ。多色もアンスディインが一枚だけだ。かといって一本目に比べたらだいぶマシなんだよな)
「悩むなら、能力使っちゃえばいいじゃない」
(そう簡単にいくかよ。『引きが悪くなる』っつーデメリットの兆候が出始めてる以上、回数の限られた能力を無駄遣いしたかねえ)
「ここで負けたら意味無いじゃない」
(優勝できなくても意味無いんだよ)
逡巡に逡巡を重ねる。
考え込んだ末。尭史はこう言った。
「キープします」
「じゃ、ターン貰います。プラグ、どうぞ」
そしておもむろに、三本戦が始まった。
「ドロー、プラグ。エンドまで」
「ドロプラ。『農民の捧げもの』でブーストです』
立ち上がりは二本目とさして変わらない。
どちらも生物を出さず、殴ることもせず。
一見すると穏やかなやりとりが、しばらく続いた。
だがそれも4ターン目までの話であった。
「ドロー、プラグ。『青空泳ぎの大蛇』召喚、通りますか?」
「……通ります」
一見すると尭史の顔は変わらない。
しかしジェローナにさえ、それが分水嶺だと感じられた。
実際その後の尭史の言葉は、彼女の予想通りのものだった。
(マストカウンターって用語がある)
沈んだ調子のテレパシーが飛ぶ。
口に出していれば間違いなくため息交じりだ。ジェローナはそう思った。
(意味はそのまま。妨害しなければ、圧倒的不利を被るカードのことだ)
「それが今回は『大蛇』なの? さっきの『マンモス』とか『ヴィシャス』に比べれば、あまり脅威じゃなさそうだけど」
(確かに『大蛇』の攻撃力はそれほどじゃない。でも一度コイツを出されると、相手のリソースをかなり潤してしまうことになるんだ)
「それってFmのこと?」
(珍しいな、50点の回答だぜ。『大蛇』の恐ろしさは、もう一つある)
返しのターン、尭史は『虚空漂着』で『大蛇』を除去する。
(これじゃ遅いんだよ)
その言葉の意味を、ジェローナはすぐに知ることとなる。
「ぼくのターン。『遺跡砕きの無法オーク』を召喚します」
『遺跡砕きの無法オーク』(黒)(緑)(5)
プログレ――オーク
Fmになるとき、アンステディされる。
無頼(このカードは、対戦相手がコントロールする顕現や能力の対象にならない)
このカードが攻撃したとき、または死亡したとき、手札を一枚捨ててもよい。そうした場合、あなたの墓地にある、点数で見たコストがあなたのFmの枚数以下のプログレを一体選んでバトルエリアに出す。ただし種族: オークのカードを選ぶことはできない。
あなたの墓地とFmの枚数が合わせて15枚以上なら、このカードの元々のBP10000 / HR8 になる。
BP5000 / HR4 / RV (オーク)
「墓地から直接呼び出すの!?」
(ああ、そうだ。それがタッチ黒の利点、リアニメイト。墓地を肥やすという準備を必要とする反面、比較的少ないリスクで生物を場に呼ぶことができる。その強力さは説明しなくても判るだろ)
ジェローナはぎこちなく頷いた。
(本来こいつも『大蛇』と並ぶマストカウンターなんだけど、通しちまったもんは仕方ない。次のことを考えないとならねえ)
そこからの尭史の思考は早かった。
(『オーク』の除去はできなくもない。『無頼』能力のせいで単体除去は不可能だけど、ジェローナの能力でも全体破壊でも、やりようはある。しかし誘 発 能 力で『大蛇』を呼び出されるから盤面的損失。全体破壊はコストが高いからテンポも損失する。全体バウンスなら誘発しないけど、そんなものデッキに入ってない。『氷雪嵐中の霹靂』? ダメだ、強化された『オーク』を焼くほどのコストは払えない)
用語のオンパレードには触れず、ジェローナは問う。
「さっきと同じコンボは決められないの?」
(不可能だ。『群れ』『ヴィシャス』どちらも手札にない。『オーク』が防御者を確保してくるからダメージ量も足りなくなる。そもそも今から引き寄せてたらその間に殴られて死ぬ)
「だったら」
やや不安げに尭史を見上げるジェローナ。
おぼろげだったその疑念はやがて、尭史が答えると同時に大きく膨らんだ。
(……あの『必殺技』を、使うしかない)




