32 応じ返し
選手たちのプレイをよそに、実況は叫び続ける。
「みなさんお待ちかねェー! 早くも準々決勝進出者が一人決まりましたアアアアっ! 栄えある先駆けはゴーストアグロの頭目・佐藤誠ォ~~~~!!!!」
盛大な拍手に包まれて、佐藤はガッツポーズをした。
「では他の試合を観てみましょうッ! どうやら鮎川対馬渡のテーブルは白熱しているようですッ!」
メイン・チャンネルのカメラが尭史たちに向けられた。
「オレのターンですね。ドロ、プラ」
もっとも当の尭史たちは、それに気付いていない。
スピーカーが調整されているし、みなゲームに集中しているからである。
「『まどろむ兎耳』を魂幹コストでプレイ。二枚ドローのち生贄にして、プラグ。馬渡さんどうぞ」
「ドロー。『天恵の乱獲』を追加。二枚を生贄にしてさらにFm追加します。残ったFmで二体目の『青空泳ぎの大蛇』を」
「待った」
ここで初めて、尭史の手が止まった。
(参ったな。ここで貴重な『抹消』を使っていいのか。普通なら絶対に召喚を許しちゃいけないカードだけど)
一枚だけの手札をちらと見る。
『抹消』(青)(1)
スプレー
多色の召喚をひとつ選ぶ。それを無効にする。
何を悩んでいるんだろう。
ジェローナはそう尋ねたかったが、尭史の集中を切らしてしまいそうだった。
(相手のFmは、すでに合計八枚だ。『大蛇』を通すと更に増やされる。ここから十二枚になって、6コスト級を一度に二枚召喚されるとお手上げ。でも相手の手札はもうないし、それは勘繰りすぎ……だよな?)
肘棒を付きながら、なお考える。
馬渡が指をパチパチと鳴らす音も、もう尭史には聞こえていない。
(8コスト以上の超重量級を召喚される可能性はどうだ。一本目ではそんなものは確認できなかったけど。でもサイドチェンジで投入……不可能じゃない。とはいえ青緑ランプのサイドは、たいてい速攻と即死コンボへの対策に向けられてる。もし一、二枚入ったとしても、この局面で今引きする可能性は低いはずだ)
可能性と確率。
その二つを尭史なりに考え、ようやく答えを出した。
「では召喚に際し、『メルバリスのクローン実験』の起動効果を使用します」
『メルバリスのクローン実験』(青)
エポック(ファーリーチ)
(青): 対戦相手の召喚ひとつを対象とする。各プレイヤーのフィールドに、そのプログレのコピーであるトークンを1体戦場に出す。
「了解しました。『大蛇』の召喚時効果でFmを二枚増やした後、ターン終了時に二枚墓地に送ります」
「ドロー、『乱暴な瀉血』後、コンバット」
「じゃぼくも。コンバットどうぞ」
「『大蛇』トークンで攻撃。起因効果でFmブースト」
「『大蛇』トークンでブロック」
「ダメージ前ステップ、『ジェローナ』の【解放3】。トークンを生贄に種族蛇の生物を皆殺しです」
「はい」
「鮎川選手、これはいいプレイングっ! 脅威の筆頭『大蛇』を逆手にとってFmを伸ばしつつ、『抹消』を温存。さらに除去もこなしましたっ! 見事。実に見事ぉー!」
相変わらず実況が、観客とネットユーザーへとマイクを握る。
「絶対有利かと思われたマッチながら、フタを開ければ馬渡選手の手札はゼロっ! このまま鮎川選手が押し切るかーッ!?」
実況者があおり立てると、観客席がざわめく。
疑惑のジェローナ使いが、不利なはずのランプを下すのではないかと期待が寄せられたのだ。
「ぼくのターン」
もっとも当人たちは、そんなことまったく気にしていない。
だから馬渡の一手が呼んだ歓声も、彼らにとってどこ吹く風だった。
「手札から『禍つ牙のマンモス』を召喚します」
『禍つ牙のマンモス』(緑)(緑)(6)
プログレ――古代生物
このカードの召喚は無効にされない。
鋭敏(このカードは場に出たターンから攻撃したり、アンステディして能力を使うことができる)
このカードが召喚されたとき、プログレおよびフォアフロント以外の、戦場にあるカードを最大三つまで対象とする。あなたはそれを破壊してもよい。これにより墓地に置かれたカード一枚につき、それのコントローラーはBP4000 / HR3 の象・プログレ・トークンを場に出す。
BP15000 / HR10 / RV(点数で見たコスト6以上)
尭史は芝居くさく、頭を抱えた。
「え、なになに」
その身振りがさすがに気になって、ジェローナが尋ねる。
(どうもこうもあるか。無効にされない超重量級だぜ。思いっきりアテが外れた)
「……あー、せっかくの『抹消』が使えないんだもんね」
二人の掛け合いをよそに、馬渡は続ける。
「効果対象はあなたの『クローン実験』と、ぼくのFm二枚。カットインありますか?」
「ずいぶん珍しいカードを入れてるんですね」
しぶしぶカードを墓地に送りながら、尭史が言った。
「悪名高い14弾のカードだから、まるで注目されてませんけど。個人的に気に入ってるカードじゃん、です」
「じゃんです」
「後半無意味になった『天恵の乱獲』を生物に変えられるし。こうしてドレッサーの掃除もできるし」
「自分のFmを象に変えて、ビートダウンへのブロック要員にもできます、ね」
「おっと。『死ノ杜』の起因効果も使いますよ。クローズした『大蛇』を墓地に送ったら、コンバット入ります」
『隠密の統領、死ノ杜』
フォアフロント――人間 / 忍者
点数で見たコストが6以上のプログレがあなたのコントロール下で場に出たとき、あなたは『隠密の統領、死ノ杜』があなたにそのHRに等しいダメージを与えることを選んでもよい。
【解放5】プログレを一つ対象とする。それの上に、元々のHRの値に等しい数だけHR+1カウンターを置く。
【解放8】ターン終了時まで、このカードは即斬(あなたがコントロールするHR6以上のプログレが攻撃したとき)を得る。(即斬をもつカードは、発動条件を満たしたとき、バトルエリアのカード一枚をクローズする)
LP30
「戦闘開始ステップ。『死ノ杜』の解放8を使用します。『マンモス』を攻撃者に指定。即斬が発動するので、象さん破壊してください」
トークンはクローズすると消滅する。尭史はそれをボードの外に置いた。
「防御者ありません」
「ダメージ前ステップ、今度は【解放5】を使用します。『マンモス』のHRを20点に」
大量のカウンターが、ジェローナの上に乗せられる。
『乱暴な瀉血』を使用したこともあり、残るライフはたったの5となった。
「信じられますでしょうかァ~~~~っ! なんとォ! たった一頭のマンモスが戦場を蹂躙ッ! 仲間の象まで率いてッ! にわかに巻き返しましたぁぁぁぁッ!!」
絵に描いたような逆転劇に、観客が盛り上がる。
「鮎川選手、これはキツいッ! 次のターンで決めなければ絶望的だァーーーーーっ!」
実況はそう言って、可能性を示唆するものの。
その場の誰もが、ここからの逆転は不可能だと思っていた。
そう何度も上手く行くものかと。各々のゲーム経験から、諦めていた。
だから今や、希望の灯を消さずにいる者は。
尭史とジェローナの他にはいなかった。




