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29 野望の代償

「スクロールカップ一日目もこれが最終戦! 激戦を勝ち抜いた16人の登場だ~~ッ!」


 けたたましい実況。

 それに続いて、大きな歓声が沸く。

 オタクたちは、そのまっただ中へと歩いていた。


「なんなの、この騒ぎは!」

カードの中で後ずさる。

「二回戦までとはまるで違うじゃない」


(そりゃあね。ドラフトやコスプレ目的で来た人も、この時間には用が済んでる。一日の締めくくりってことで、みんな観戦に来るのさ)

「そういうことなのね。にしたって、すごい人だわ」

(みんなSNoWが好きなんだよ)


 会場中央、八つ並んだテーブル。

 その一つを前に、尭史は座った。ほかの十五人もみな同じく。

 ただ、物々しいカメラが据えられていることだけが、唯一違っていた。


(これが監視用、ね。まったくご苦労なことだ)

 もちろんそのレンズは尭史にのみ向けられている。


 間もなく各テーブルに一人ずつ、審判がつく。尭史と馬渡のテーブルだけは三人。

 そしてプレイヤーに、自分と相手のデッキをシャッフルするよう促す。


「鮎川さん」

 だが尭史は例外だった。

 審判の一人がデッキを手に取り、代わりにシャッフルする。


(客席で噂してるやつもいるんだろうな)

 ため息交じりにそう思う。

「気にしても良いことないわよ」

(わかってるよ)


 互いにサイを振る。馬渡が先攻になった。

 その後のマリガン・チェックは、また審判の手が入る。

 混ざりきったデッキさえ、定位置に置かれない。

 審判の手から六枚が渡され、手札となる。

 その内容を見て、尭史の顔は一層険しくなった。


「マリガンしますか?」

 心配そうなジェローナのことなど知ろうはずもなく。

 審判はただ無機質に、そう言った。

「はい」尭史はそう言って手札を返す。


 入念なシャッフルと、馬渡によるカットののち。新たな六枚が配られる。

「尭史……?」

 青年の顔は、微動だにしなかった。


「ここで全員のマリガンが済んだようですッ!」

 実況の声が響く。それが観客のざわめきを押しとめた。

「それではこれより。第三回戦、開始イィィー!」


 あちこちから下手くそな英語が聞こえだす。

オレを(Ain't)消す(found)(a)(way)見つ(to)かっ(reveal)たか(me)?」

 馬渡も例外ではない。

 彼のFF、『隠密の統領、死ノ杜』にちなんだ口上を(そら)んじた。


サエナイ(My)因子を(sword)斬り(will)変えて(tear)あげ(your)るわ!(helix!)

 ジェローナもそう叫ぶ中。

 この場で黙っていたのは、尭史ただ一人のようだった。


「どうかしたの、尭史」

 真下からジェローナ。

(……二回戦の直前に、初手に多色のカードが欲しいって話をしただろ)

「え。そうね、覚えてるわ」


 言ってから、ハッとする。

「ひょっとして、いま」


(デッキの総枚数はFFを含めずに80枚。そのうち初手に欲しいカードは25枚。ここからランダムに6枚を引いた場合、90パーセントの確率でFmにちょうどいい多色が引ける)


 その先が、ジェローナには予想できた。

 できれば聞きたくなかった。はずれて欲しかった。


(マリガンをしても一枚も引けない確率は、十分の一×(かける)十分の一。つまり1パーセント)


 ジェローナの顔が青くなる。

「うそ、でしょ」

 尭史は首を振った。



(能力の代償ってのが、こんなに早く出るとはね)



 苦々しげに呟く。

 ()しものジェローナも、二の句が継げなかった。 

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