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27 はじける破滅

「助かったよ。迷惑じゃなかったらまた頼むわ」


 尭史は昼食を済ませ、会場へと戻っていた。

 友人の一人と落ちあい、馬渡に関する情報を受け取って。

 控室かどこかに腰を下ろそうと、のんびり歩き出した。


「どう、勝算は?」と、ジェローナ。

「そうだな……」尭史は考え込む。

 威勢のいい答えを期待していただけに、ジェローナは少し面食らった。


「どうしたの? 強気じゃないのね」

(ちょっとね。そんな気はしてたけど、今回はかなり分が悪い)

「ふうん?」

(すごく失礼な言い方になっちゃうんだけど、ローナが腐っちゃうんだよ)

「くさっ……!?」

 尭史を仰ぐジェローナは、鬼のような形相だった。


(そりゃ怒るよなあ。でもそういう用語なんだよ。判ってくれ)

「TCGってこんなに無礼な遊びなの!?」

(生きてるカードなんて想定してなかっただけだよ……)

 その剣幕には、尭史もたじたじだった。


「で。その人間性のかけらもない用語は、いったいどういう意味なのかしらね?」

(え、えーとですね)

 阿修羅もかくやという有様。

 尭史は思わず身を縮ませて、周りをキョロキョロした。


(対戦相手に対して、本来の力を発揮できない状態を、通例的にそう呼ぶんですよ。はい)

「腰が低い!」

(頭が高いじゃなくて!?)

「男ならしゃきっとせい!」

(なんで礼儀を示して怒られるんだろう!)

 もはや持ち主と所有物の関係はどこへやらである。


「ま、悪ふざけはいいとして。今回は私の能力が噛みあわないってことなの?」

(ええ……、うん。そうなんだよ。馬渡は今回、青緑タッチ黒のランプで来てるからさ)

「判らないのはそれよ。ランプってなんなの?」

(あれ、言ってなかったっけ?)

 話した気になってたよ、と首を傾げた。


(“Ramp”。単語では『詐欺』って意味だけど、TCG的には“Ramp-up”という熟語と同じ意味で捉えられてる。意味は『増加する』または『強める』。“Buildup”や“Increase”の類語だけど、“Ramp-up”の方がちょっと速度があるイメージ)

「すると、何かを増やして戦うわけね」

(そう。TCG全般として、生物を召喚するためのリソースを増やすことを指して呼んでる。S.N.o.W.においてはFm(フラグメント)がこれに当たるな)


 尭史は空いたベンチを見つけると、座ってメモとケータイを取り出した。

(馬渡は、それを地で行く正統派のランプデッキを使ってる。一番人気(Tier 1)か……は、意見が分かれるとこだけど。ここ一年の大会で何度も結果を残してるタイプだよ。強さは折り紙つきだぜ)

「それは手強そうね」

(ああ。でも流行で有名だからこそ、相手の出方が予測しやすいともいえる。差し当たって軸になるカードも、簡単に判る。それがこの三枚だ)

 スマートフォンを操作し、カードのデータを立て続けに見せる。



『天恵の乱獲』(緑)(1)

エポック

 このカードが戦場に配置されたとき、あなたのデッキの上からカードを1枚Fmエリアに配置する。

 あなたの『天恵の乱獲』を二枚生贄に捧げる: あなたのデッキの上からカードを1枚Fmエリアに配置する。



『わがままな贈り物』(黒)(緑)(2)

エポック

 Fmになるときアンステディされる。

 あなたのデッキの上から3枚を公開する。あなた、次いで対戦相手はその中から一枚ずつ選ぶ。前者をあなたの手札に加え、後者をあなたのFmエリアに配置する。残りを墓地に置く。



『青空泳ぎの大蛇』(青)(黒)(緑)(3)

プログレ――蛇

 Fmゾーンに置くとき、このカードはアンステディされる。

 制空

 このカードが戦場に出たとき、または攻撃したとき、あなたのデッキの上から二枚をアンステディしてFmにしてもよい。

 自分のターンの終わりに、自分のFmを1枚選んで墓地に置く。

BP7500 / HR3 / RV(同名)



(2ターン目に『天恵の乱獲』またはその同類。すると3ターン目にFmが四枚の状態でメインフェイズになるから、『わがままな贈り物』。同じ要領で4ターン目に『青空泳ぎの大蛇』を出す。あとはガンガン溜まるFmを使って、大型生物を連打するわけだ)

 メモに動きを図解しながら、尭史が言った。


「ずいぶん真っ直ぐなデッキね」

(そうだなあ。序盤の動きが常に同じって意味では、早崎のようなビートダウンより単純とも言えるな)


 ただ、と続ける。

(単純なデッキほど、ブレずに力を発揮しやすい。抽象的に言うと、押し付ける力が強いんだ。だから単純さは、特徴とは言えるけど弱点とは言い切れない)

「複雑なデッキだと違うの?」

(繊細で、実力を発揮できないこともある。でも、相手に合わせて戦術を変える器用さがある。一長一短さ)


「なんだか突っ込んだ話みたいね」

(判りづらいなら、そうだな。テニスに例えてみよう。それは知ってるだろ?)

「馬鹿にされちゃ困るわ」


(オーケイ。単純なデッキが熱血単細胞プレイヤー、複雑なデッキが陰険知能派プレイヤーとしよう)

「偏見入りすぎでしょ」


(熱血くんはパワーが強い。ストロークを叩き込んで攻めまくる。しかし弱点がある)

「その心は」

(マイペースなんだ。相手のテンポに巻き込まれると勝てなくなる。相手が自分より極端に速かったり遅かったりすると攻めきれない。言い換えると、ネット際の攻防やロブによる時間稼ぎで調子が狂う)

「だから偏見……」


(陰険くんはとても柔軟だ。相手にとって嫌なコースを的確に狙える。でもやっぱり弱点がある)

「なんか判ったかも」

(底力で熱血くんに劣るんだ。陰湿なショットを繰り返してテンポを奪えれば勝てる。それに失敗して均等なペースでの打ち合いになると押し負ける)

「陰湿なショットなんて聞いたことないわよ?」


(結局のところ、最強ってのは存在しないのさ。長所と短所が表裏一体になることなんて間々ある)

「ここまでの流れに反するカッコつけたまとめですこと」


 つっても、と尭史は言う。

(テニスはそこまで顕著じゃないだろうな。生身の人間である以上、TCGほど弱点がハッキリするわけがない)

「TCGだって生身の人間がプレイするじゃない」


(そうじゃねえんだ。試合中にデッキの中身が変えられない以上、TCGの対戦で出来るコトってのは必ず限られてしまう。んで出来るコトがハッキリすると、それ以外は出来ないコトとしてハッキリしちまうわけで)

「同時に弱点も露呈される?」


(判ってきたじゃんか。もっとも実戦に活かすとなると、簡単じゃないけどな。弱点への対策が複数あったり、それぞれの対策で精度が違ったり。大会では複数のプレイヤー・複数のデッキ・複数の弱点を狙っていかなきゃいけなくもある)

「ホントに簡単じゃないわね」

(ああ。この辺のことは、ローナが自分で大会に出るときにでも理解すればいい)

「冗談としてはイマイチね」

(本題じゃないってことさ)

 尭史はそう言ってボールペンのキャップを外した。


(さて。今回のマッチアップでは、馬渡が熱血くんでオレが陰険くんにあたる)

「もともと根暗男だもんね」

(うるせえ性悪女。そんで熱血くんは、4ターン目までに準備を完成させ、5ターン目から8ターン目前後までの猛攻で勝負を仕掛けてくる)

 尭史はメモ帳の左端に1から15までの数字を書いて各ターンに見立てた。続けて2から4に先ほどのカードをそれぞれ併記し、5から8に『攻撃』と書いた。

(となると陰険くんはどうしたらいいと思うよ?)


「そこでもテンポをずらす……となると、4ターン目までに素早く攻め込むか、9ターン以上に試合を引き延ばして追い詰める?」

(たまには間違えたっていいんだぜ)

 ジェローナの言う通りにペンが動く。


(4ターン目までに馬渡のライフを削り切る。確かにそれが理想的だ。脅威である大型生物をまったく無視できるからね)

 赤ペンで1から4にまたがって『速攻』と書いた後、その上にバツを上書きする。

(でもオレのデッキでそれは不可能だ。1,2コストの速攻用生物なんて入ってない)


「相手はネット際が弱いと判っていても、自分も得意じゃないから、対策としては不十分。と」

(そういうこと)


「じゃあ試合を引き延ばすわけね」

(そうする他ない。しかしこれが簡単にはいかない)

 こんどは青ペンを取り出して続ける。


(4ターン目まで、つまり相手の準備期間には、相手の妨害をしたい。手札を破壊したり、『不平等統制』(11話参照)に似たFmへの使用制限(ロック)を課したり。そうすることで馬渡の展開を遅らせたり、狭めたりできる)

 1から4まで、大きく『妨害』と書く。


「どうして?」

(『天恵の乱獲』や『わがままな贈り物』を手札から捨てさせれば、馬渡は準備に手間取ることになる。大型生物を捨てさせれば、攻撃の息切れが早くなる)

「ふむふむ」

(ロックをかければ、せっかく増やしたFmでコストが支払えず、思ったようにカードを使うことができなくなる。そうして相手の展開を先延ばしにすればするほど、こちらも妨害しやすくなる)


「じゃ5ターン目からは?」

 尭史は黒い『攻撃』に並んで、またペンを走らせる。

(『除去』?)


(ああ。戦場に出て来た生物を処理しないとライフが危ないからさ。しかしここで最初の問題にぶち当たる)

「私が役立たずの木偶の坊になると」

(そこまで言ってないだろ……)

「でもあながち間違ってもないんでしょ」


(なんだよ、つっかかるなあ。おまえの強さの源である【解放3】【解放8】がちょっと使い辛いってだけだよ。馬渡の生物は、種族がバラバラだから全体除去の効きが悪い。コントロール奪取の範囲にも入らない。それだけなんだ)

「素人だからって、それがマズいってことは感じられるわよ)

(回復の【解放X+X】までは無駄にならないんだって)

「フォローしたい気持ちは受け取ったわ。ありがと」


(そうして耐えきった後で、温存した手札からコンボを決めれば勝てるんだけど。言ってみれば序盤・中盤・終盤で、求められる動きが変わってくるんだ。その見極めが難しいし、見極めても相手の調子が良いと手がつけられない)

「底力は熱血くんが上、だもんね」


(結論としちゃ、『馬渡の攻撃を8ターンくらいまで耐えて、その後それを上回るカードを使えば勝てる』『耐えるために必要不可欠な除去力に心配がある』ってこった)

「よく判ったわ。それで勝率は?」


 それを訊かれると、尭史は目を逸らした。マズいことを言ったかな、とジェローナは思う。

(三割)

「半分以下、か」

 彼女まで気が重くなった。


(S.N.o.W.において、FFの長所が生かせないっていうのはそれだけ大きいんだ)

「なんだか御免なさいね。私がもっと強かったら」


 しゅんとしたジェローナ。

(……あー)

 初めて見るしおらしさに、尭史はどぎまぎしたモノを感じた。


(気にすんなよ。こんなこともあろうかと、オレには必殺技がある)


「え?」

 ジェローナは尭史をまじまじと見た。

(ホントだぜ。文字通りの、必ず殺す技だ。だから気にすんな)


「あ、うん」

 なんとなく相槌を打ったものの。

 彼女の直感は、なにか腑に落ちないものを読み取った。


 ちょうどそのとき、三回戦出場者を召集するアナウンスが入った。

(呼び出しだ。行こうか)


「……」

(どうした?)

「ううん。なんでもない」


 ジェローナは勘の良い少女である。

 尭史が無理を言っていることが、言外に判ってしまった。


 必殺技は間違いなくあるのだろう。嘘ではなさそうだった。

(でもそれはきっと、使ってはいけない手段なんだわ)

 得体の知れない寒気が、彼女を襲った。

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