24 生命の遺産
「やっぱり、こいつが」
尭史は映像の中のジェローナと、同じ眼をしていた。
碧い瞳に映る姿は、やはり不定形。一秒と経たずに形を変える。
その像は尭史のイメージとすら合致しない。
人類にはあまりにも大きい存在であることを思い知らされた。
おもむろに、創世導師が手を伸ばす。
時に大きく、時に小さい右手が、てのひらの数さえ変えながら、ジェローナの頭に置かれた。
瞬間、ジェローナの身体が跳ねる。まるで電撃でも受けたかのように。
「創世導師は意志を伝えるのに、言葉さえ必要としないの」
弁士は語る。
「今の一瞬で、必要最低限の知識が私の霊にインプットされたわ。脳に直接ね」
「最低限って、今まで話してきたことか?」
「そうよ。創世導師そのものの概要や、その能力。メンブレンの解釈や、私自身の境遇。そしてこれから、新たなメンブレンの人間の元に召還されること」
創世導師の手が、ジェローナから離れる。
過去のジェローナは口を開きかけて、ーー何も問うことがなく、すぐに閉じた。
それをみた創世導師は、頷いたように見えた。
あるいは笑いかけたのかもしれないし、あくびでもしたのかもしれない。
とにかくなんらかの挙動をした後で、今度はジェローナを突き飛ばした。
その身体は瞬間的に、奈落へと沈んでいった。
「用が済んだところで、彼は私を創世の座から降ろしたわ。いま、多次元の壁を越えて。やがて、一つの平面に収まった」
『聖女の檄』は、そこで動きを止めた。
「行き着いた先は、尭史も知っての通りよ」
「ありが、とう」
頭の中を整理しながら、尭史。
「そうか、それが創世導師の正体。そしておまえのルーツか」
ジェローナは話し疲れたのか、胡座を崩して大の字になった。
「ええ、そうよ。何か判らないことはある?」
「そうだな。一つ、まったく予測がつかないことがある」
「なに?」
「おまえが投影されて、この世界に召還された理由は何だ? そこが不明瞭だ」
ジェローナはそのままの体勢で、眼を閉じた。
「暇つぶしよ」
「おいおい」
尭史はあんぐりと口を開けた。
「本当のことよ。少なくともそういう情報をインプットされてる」
「神様ともなると暇つぶしさえ壮大なのか?」
「そういうことでしょうね」
ジェローナはごろりと身体を転がし、頬杖をついた。
「そもそも尭史のメンブレンが、彼の暇つぶしとして作られたものよ」
「なんじゃそりゃ」
「私の平行世界が『創世導師の預言を授かる世界』だったように。あなたの世界は『創世導師の魔法を授かることが可能な世界』なのよ」
「」
さすがの尭史も、頭がパンクしそうになった。
「まあ、それは別の話かしら。最初の質問に戻るなら、創世導師はすべての平行世界の観測者であり、私は別の平行世界に生まれた美少女のコピーってことよ」
「コピー、ね」
なんとはなしにジェローナへ眼を向ける。尭史のことをじっと見ていた。
「ん、なんだよ」
「べつに」
「ツッコミ待ちだったのか? 怒られそうだから止めといたんだけど」
「そういうんじゃないわよ」
「じゃあなんだよ?」
その問いには答えず、ジェローナはまた大の字になった。
「喋るだけじゃなくて映写までしたから、疲れたわ。ちょっと寝させて」
「変なヤツだな。知ってたけど」
ジェローナはすぐに寝息を立て始めた。
疲れるものなんだな、と尭史はあまり気にせず。昼飯をどうしようか、などと考え始めた。
ただ、実のところ。彼女は寝たフリをしていただけだった。
言いたいことを押しとどめ、聞きたいことを我慢していたのだ。
自分自身の、立場について。
苦しさのようなものを感じながらも、それを口にはできなかった。
「用語集」の第五話解説分を誤ってこっちに投稿していたので、大急ぎで修正しました(2015/08/13 22:17)。




