22 現実の造形
「一体何だ、とは随分な言いようねっ」
舌を出しておどけてみせる。
「それ以外、言葉にできねえよ。判るだろ」
「冗談よ」
「で、どうなんだ?」
ジェローナはカードの中であぐらをかいた。
「創世導師について知ってるかといえば、イエスよ。私自身、いつか言わなきゃいけないとも思ってた。あなたと出会った次の日にでも」
「そうだったのか」
「調整で忙しそうだったから、切り出せなかったけど。今からでは遅すぎるというわけでもないわ」
それはいいとして、と続ける。
「いざ話すとなると、どこから言えばいいのか判らないわね、……あ。そうだ。尭史いま、わたしがいた世界を表したカード、持ってる?」
「15、16弾のカードってことか? どうだろ。今日の手持ちは少ないけど、探してみよう」
「じゃ探しながら聞いてくれるかしら」
黙ってうなずいたのを確認して、ジェローナはこう言った。
「そもそも地球には、無数の平行世界が存在するわ」
尭史の手がはたと止まった。
「おいおい、いきなり何を言い出すんだ? オレは創世導師と、ローナについて訊いたはずだぜ。SFまして、相対性理論の話なんてのは」
「だから、創世導師の話よ。彼について、尭史も少しは知ってるんでしょ。だったら思い当たるフシがあるはずだわ」
尭史は押し黙った。
そういった単語が出てくることは、実のところ可能性としては考えていた。
ただどうしても、にわかに信じがたかったのだ。
「続けるわよ。四十何億年か前に誕生したときから、地球はさまざまな発展の可能性を孕んでたの。その可能性群は多次元の壁を挟んで、平行世界の中で各々に広がってる。そして別々の生命が息づいているわ」
尭史はもう、下手に口を出したりしない。ただ、手を動かしていた。
「人工知能が古くから発達した平行世界。繁茂しすぎた大自然が人間を淘汰し、獣人を生み出した平行世界。長らく恐竜が絶滅しない平行世界。過酷な地球環境が、人類をさらなる進化に導いた平行世界――とかね。創生導師は、それぞれの平行世界をメンブレンと呼んでたっけ」
そこで尭史は数枚のカードを見つけ終わり、ジェローナに目を向けた。
「オレたちの世界も、ローナが居た世界も、数あるメンブレンの一つってことか」
そうよ、とジェローナ。
「これらすべてのメンブレンを、平行世界を。多次元の壁を跨いで、同時に見続けている。あるいは、見終えている! 唯一にして絶対の観測者、それが創世導師よ」
「……ひ、ひ」
思わず乾いた笑いが漏れる尭史。
「喋るカードとはスケール違うっつーか、ジャンルが違うっつーか。とんでもねえ話だな」
創生導師は運命探知の魔眼でも持ってんのか、と適当なことを言った。
「とんでもなくたって、本当のことよ」
とジェローナ。
「普通の生き物が認めるには、創生導師はあまりにも、強大で深遠で複雑で難解で希薄。だから、彼を示す決定的な証拠はないの。苦しいかもしれないけど、尭史には――」
「カードが喋ってることと、物理を飛び越えた超常能力から推して知れってんだな」
「それもイメトレの賜物?」
もはや感服ものね、とジェローナは両手を挙げた。
「そりゃ、そういう理由もあるさ。オタクだから耐性あるってのは確かだと思う。でも今回はそれに加えて、ある意味馴染みのある話だって面もある」
「馴染むもなにもあるの?」
「あるよ。それってつまり、SNoWの背景ストーリーが押し並べて本物だってことだからさ」
尭史の意に反して、ジェローナはあまり驚かなかった。
「ま、薄々そんな気がしてたわ」
「なんだ、そーなのか」
「私たちのメンブレンを表した……16弾だっけ? の描写があんまり正確すぎてたし。尭史が言ってた創世導師の話もそうだし。なにより私自身の存在からして、そうだろうってね」
「すると簡単にいえば、創生導師は宇宙を見守る神に近しいモノとして実在する、っつー解釈でいいのか?」
「それでだいたい合ってるわ。ただ観察するばかりであまり干渉しない。つまり、見守ってるって点も含めてね。それに、彼を神として預言を授かるメンブレンもあるの」
「ひょっとするとそれは」
「ええ、私の世界よ。破戒僧クィールが語り、元山賊にして私の実父オルギンが信じ、聖染騎士団が崇める神。その正体は創生導師だと、彼自身が言っていたわ」
「なるほどね」
昼時だからか、相変わらず周囲に人は少ない。
尭史も腹が減ってよさそうな時間ではあったが、ジェローナと話しているとあまり気にならなかった。
「しかしなんだ。その口振りからすると、ローナは創生導師に会ったことがあるみたいだな」
「そうよ。……正確には、あなたの目の前にいるジェローナの人格が、だけど」
「どういうことだ?」
「ここの説明が、ちょっと難しいのよ。あっそうだ、さっきのカード。見せてくれるかしら」
尭史は四枚のカードをベンチに並べた。
『クィールの学徒』『包囲の完成』『聖女の檄』『神繕されし血染めの剣』。
「そうね、『聖女の檄』がちょうどいいか」
「思いっきり自分が主役のカードじゃねえか」
「いいから。その上に私を重ねてくれるかしら」
「こうか?」
「もうちょっと下。『聖女の檄』のイラストが見えるように」
『聖女の檄』の下半分、テキスト部分にジェローナが重なった。
「それでいいわ。ごらんあれ」
「なに、うぉっ!?」
ジェローナがこれ見よがしに指を鳴らすと、『聖女の檄』のイラストがたちまち変わった。
「これから見せるのは、私の記憶の一部分。ティリオン大陸から尭史の元に来るまでの、創世導師の戯れの記録」
小さな紙片をスクリーンにして、短い映画が始まった。




