20 大切な仲間
「なんなのよ。気にしないでって言ってるのに」
(そういう強がりは、オレの言葉を否定してからでないといけないんじゃないか)
「なっ」
うっすら赤くなるジェローナ。尭史の指摘が当たっていると言っているも同然だった。
「特に何もなければ、三体でアタック。オルギンの常時効果も加わって10点のダメージでいいですか」
早崎の確認。しかし尭史はジェローナに注目するばかりである。
「聞いているか、鮎川氏?」
「つまり、その」
もはや尭史に、早崎声は届いていないようなものだった。
「私が私の言葉に従えていないような気がして、嫌だっただけよ」
(ローナの言葉?)
「答えないなら進行させてもらうぞ。10点引いて、そちらの残りは4点だ。20対4でよろしいか」
「だから、その。尭史を優勝させるって言っておきながら、何もできてないこととかよ」
(なんじゃそりゃ)
「今日の私はなんの役にも立ってないでしょ。バトルに口出すどころか、応援の一つもまともにできてないもの」
疑問を感じながらも、尭史は黙って聞いていた。
「あと私のこと信じろって言ったくせに、私は尭史のこと信じてなかったことも」
(ん。そうだったのか?)
「そうよ。一本目、絶対尭史が負けると思ってたもの!」
彼女はまた、叫んだ。
しかし今度は、先ほどよりもどこか弱々しかった。
「相手は強そうだし、場は明らかに劣勢だし、尭史は何も言ってくれないし。ダメなのかなって思っちゃったのよっ」
(さっきオレのことを怖いって言ったのは、そういうことだったのか)
ジェローナの訴えにしっかりと向き合いながら。
同時に尭史は、16弾拡張パックの背景ストーリーを思い出していた。
(おまえってヤツはホントに、神の教えやら騎士道やらに忠実なんだな)
敬虔な信徒にして聖戦の立役者、オルギン・メイルの娘に生まれた彼女は。
誰よりも、それらの教えを崇めているのだ。
だから。
自分の言葉を遂行できていないことに、必要以上の責任を感じているんじゃないか――と。
尭史は『考えて』、『推し図った』。
「よろしいのか、鮎川氏? 問題なければターン終了だ」
「笑ったらいいでしょ。結局私は、口だけの女だったのよ!」
早崎とジェローナの声が重なった、そのとき。
「にひ、ひひひ!」
笑いが堪えきれなくなった尭史が、声をあげた。
「ん?」
「なっ!」
自分が笑われたと重い、二者が別々の反応を見せる。
かたや片眉をひそめ、かたや更に顔を赤らめ。
「何よ! 正直に言ったらホントに笑うなんて!」
(おっと。ひひ、悪いな。つい)
もちろん尭史は、ジェローナの言葉しか耳に入ってはいなかったのだが。
(要するによ、おまえはオレと同じコトで気を揉んでたってことだろ。それがおかしくてさ)
「どういうことよ」
尭史は努めて気楽そうに振る舞いながら、ジェローナに語りかける。
(そういうことよ。昨日今日のオレの悩みが、そのまま裏っ返しになっただけだろ)
うっかり声に出してしまいそうなのを抑えながら、尭史は続ける。
(優勝しなきゃなんねえって、言っておきながら。昨日のオレは、オレ自身の目標に潰されそうになっちまった。無力感に負けそうになっちまった)
昨日の夕焼けが、尭史の瞼の裏に浮かぶ。
(さっきだって。おまえの能力を前提にしたデッキを組んでおきながら、その真偽を直前まで疑ってた。おまえのこと、信じ切れてなかった)
右の拳を胸に当てる。
(ほら、一緒だろ)
「……トコロドコロ、違うじゃない」
(うるせえな。大体同じじゃねえか)
「理屈がメチャクチャよ」
(細けえこたァいいんだよ! となれば今度はオレの番ってことだ――)
「鮎川氏、手番だぞ」
「うるせえな! 今大事な話してるんすよ!」
「!!??」
片眉では収まりきらないような疑問符が、早崎に浮かんだ。
(くそ。さっさと終わらせてからにすっか。その方が手っ取り早いだろ)
「ちょ、ちょっと」
(ここで一発、ドカンとやってやる。そしたらオレのコト信じろ)
「そんな、勝手な――」
と言いつつ、ジェローナは改めてフィールドを見てみる。
早崎の場には五体の生物、こちらは皆無。
さきほどの『連鎖する変異』を使っても、こちらに生物が居ないため意味がない。
そのうえ、『ラオービン』の存在ゆえに全体破壊は効果が薄い。
絶体絶命としか、思えなかった。
「――いいえ。この状況をひっくり返せるっていうの?」
だからいつの間にか、そう訪ねていた。
(ああ。『氷雪嵐中の霹靂』、持ってきてくれ。それから)
尭史のデッキがまた、白く光る。
(忘れんじゃねえ。こんなバカげたデッキ操作ができるのは、おまえだけなんだ)
「失礼。ターンもらいます。ドロー」
(おまえがいなきゃ、一本目は勝てなかった)
早崎への対応と、ジェローナへの回答。二つを同時に進めていく。
「デッキトップ、『氷雪嵐中の霹靂』の神代能力を発動」
(下手すりゃ月居にだって負けてたかもしれねえ。なんでか判るか)
『氷雪嵐中の霹靂』(X)(青)(赤)
スプレー
このカードがFmになる場合、アンステディされる。
神代(X)(あなたがこのカードを引いたとき、それがこのターン最初のドローだった場合、あなたはこれを神代コストで使用することができる)
すべてのプログレは、500×(X+1)のダメージを受ける。
このカードを正規のコストを支払って使用していた場合、あなたはこのカードによって破壊されたプログレ一体につき一枚、カードを引いてもよい。
【制限カード】
「赤のスプレーだと!?」
「……どうして?」
「神代コストで使用する場合、赤いFmは必要とされません。X=5として発動。すべての生物に3000のダメージ」
(昨日、おまえが見栄切ってくれなかったら。きっとオレは、本気で闘えてなかった。おまえがああしてくれなかったら、オレはダメになってた)
「これですべての生物が処理されましたね」
(両親でも妹でも友人でもなくて。偉そげで。紙っきれで。何より一緒に戦ってくれるおまえじゃなきゃ、きっとオレの心は奮わなかった)
それぞれへの、まったく違う言葉。
それらはそれぞれへ、まったく違う形で突き刺さった。
「あとはFFの第三効果で回復して、エンドまで」」
(そんなおまえは、そこにいるだけで、オレの力になってんだよ)
「……負け、ました」
「……尭史」
そして、それらの言葉は。
小さな勝利と小さな信頼とを、もたらしたのだった。




