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2 主導権の奪取

 流れる金の総髪に、(あお)い瞳と白い肌。

 磨いた板金重ねた鎧は、海に沈みし西日の如く。

 ミスリルの兜、アダマスの(つるぎ)

 聖染騎士の名に相応しき、美と巧みさを持てる騎士。


 ――S.N.o.W.の公式ガイドブックでは、『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』についてこのように設定している。


 たった今尭史が手に入れた一枚も、その設定が忠実に再現されていた。

 色彩鮮やかなイラストに、銀のエッチングが調和している。

 その絢爛(けんらん)さこそ、尭史に 『聖善繕いの騎士団』を購入させた動機そのものだった。


 だが。

 ついに手に入れたこの一枚が、何やら動いたり話したりする、とは。

 彼は露ほども考えていなかった。


「……」

 尭史は不貞腐れたように、真ん中のカードをスリーブに入れた。

「え、ちょ、ちょっと」

 ジェローナの顔に焦りが出始める。

「も、もし? 私の声、聞こえてるわよね? 動いてるってわかるでしょう」

 カードの中で、わたわたと動く。


 無色透明の袋に入れ終わって、尭史はようやくジェローナと目を合わせた。

「やっぱり、お前が喋ってんのか」

「ようやく話す気になったのね。そうよ、あなたが話しているのはこの私。『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』!」

「その名前、自分で言ってて恥ずかしくないか?」

「なんのことかしら」

 床に置かれたジェローナを、尭史はうさん臭げに見下ろした。


「理解したなら、やることは判っているでしょう」

「なんだよ」

「私をこんな貧相な袋に詰めるのはよしなさい。もっと煌びやかなものに!」

「……」

 尭史はまた黙って、ジェローナを見つめた。


「……。何よ。さっさとしなさいよ」

「ふむ」

 尭史はジェローナの下部(テキスト欄)をつまむと、そのまま上下逆さまに持ち上げた。

「な、何よこの持ち方!」

「いいかい、女騎士殿。メイル卿! 改めて問うよ。(けい)は一体なんだい?」

「ちょっと! 嫌よこの持ち方! 頭に血が昇る!」

「判ってないみたいだね」

 とかく、感情を込めず。冷静に、尭史はこう言い放った。



「おまえはオレの物だ」



「はあ?」

 ジェローナは耳を疑った。口説き文句じゃあるまいし、と首をひねった。

「そのままの意味だよ。おまえは売られてたカードの一枚。オレはおまえを含めたボックスに金を支払った購入者なんだ。お互いの立場、判るよね」

「ゴタクはいいわよ。いいからおろして! 持つなら上下正方向に」

「礼儀を見せたらどうだい、騎士殿? オレは今、お前の主に等しいハズだ」

「誰が主よ、無礼者! おろしなさいって」

「おろしてください、だ」

「あなたねえ……っ!」

「おろしてください、は?」


 ジェローナの顔は真っ赤だった。それは果たして怒りのせいか。それとも頭に血が溜まってきているせいか。

(両方だろうな)

 尭史は涼しい顔で、そんなことを思っていた。


(こんなサエない男なんかに。くやしい……! でも……頭に血が昇っちゃう!)

 ボーッとする頭で、それでもジェローナは尭史を睨みつけていた。しかし間もなく限界が訪れ、結局はこう言った。

「……おろしてください」


「よし」

 尭史はジェローナを床の上に戻した。女騎士はカードの中で、ぐったりと横たわった。


「あなた、なんでそんなに冷静なのよ……」半開きの眼で、尭史を見上げる。「私の他に、喋るカードなんて見たことないでしょう?」

「それはまあね。オレが持ってるほかのフォイル版スーパーレアだろうと、再録版の『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』だろうと。会話ができるカードなんて、お前が初めてだ」

「なら、どうして? 普通の人間は、カードが喋ったら腰を抜かすって聞いてたのに」

「カードゲーマーはオタクの結晶だからかな」

「意味判らないわよ」

「無生物やら、未知の生命体やらが言葉を発しながら主人公をトラブルに巻き込む。そんなシリュエーションは散々予習しているってことさ。オレみたいなヤツらは大概ね」

「大したイメージトレーニングね」

「それに屈したのは誰だよ」

「あーあたまがふらふらしてきたわー」

 ジェローナは眠ったフリをした。


「つっても、ほんとになんなんだ。なんで紙切れと会話が出来る?」

「私が特別な存在だからよ」

「おまえ、ナルシストな」

「そういうんじゃないわよ! 私が他のカードとは違うってこと」

「はいはい」

「最後まで聞きなさいよ! あっこら私を他のカードと一緒にケースにしまうのやめなさい」

「なんだよ、うるさいなあ」

 尭史は開封済みカードを整理し始めていた。

「薄っぺらいタワゴトに付き合ってるヒマ、ないんだけど」

「それはなに。私自身に厚さがないってこと、それとも私の言葉を馬鹿にしてるの?」

「両方だよ」

「とんだ余計なお世話!」

 ぐぬぬとジェローナは歯を喰いしばる。


「まったく。お目当てのカードを当てたと思ったらわけのわからん幻聴が聞こえるようになって落胆してる、こっちの気にもなってもらいたいね」

「ドライなのかねちっこいのか、よく判らない男ね……。ん」

 渋い顔をするジェローナ。そこでふと、まだ自分が大事なことを伝えていないのに気が付いた。


「ふふっ」

「今度は一人で笑ってんのかよ。ホント不気味なやつだな」

「私としたことが、滑稽だわ。もっと早く言うべきだった」

「流星映す剣聖って自称しちゃうのが何より滑稽だと思うんだけど」

 ジェローナはふん、と鼻を鳴らした。

「そんなこと言って、私が素晴らしい特殊能力を持ってると知ったら! あなた、目の色変えるわよ」

「お前のカードパワーなら、とっくに把握してるけど」

「そういうんじゃないわよ。私を使えば、あなたはどんなバトルでも勝てるようになる」

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