19 洞察のひらめき
「さっきの試合は、見事だったわね」
早崎に目を向けたままのジェローナ。
表情は固い。
「デッキトップ操作の能力を、全力で駆使しての勝利。気持ちのよいものね」
テーブルではすでに、二本目の勝負が繰り広げられていた。
その立ち上がりは、一本目とほとんど変わりない。
ただ、一本目を落とした権利として、早崎は先行を選択。攻撃性を高めやすくしていた。
(割に、あんまり晴れやかじゃなさそうな様子じゃんか。言動不一致だぜ?)
早崎の指先を睨みながら、尭史は答える。
(なんか気にくわないことでもあったか)
「少なくとも、尭史にイラついてるわけじゃないわ。安心して」
(それじゃ引き下がれないな。何かにイラついてるのは確かなんだろう)
「なんでそんなに食いつくのよ」
(そいつは、そうだな。こういう言い回しは好きじゃないけど、あえて使おう。自分の胸に聞きな)
「……セクハラ?」
(なに言ってんだ、タコ)
ジェローナの返事がなかったので、尭史は試合に専念しようとした。
しかしどこか、物足りない。
ついこの間までは、こうして淡々とプレイするのが普通だったのに。
不思議なものだ、心に思った。
その間にも早崎は、先ほどより早いペースで生物を横に並べていく。
対する尭史戦略は変わらず。即効性の効果をもつプログレを壁にしたり、コストの軽いスプレーで除去したりで、ライフへのダメージを緩和していた。
では一本目と同じような戦況なのかといえば、そうではない。
攻め手が先行である分、早崎が一手先んじている。
一手の差は僅かではあるが、それこそダメージに繋がるもの。
そしてこの差はそのまま、ダメージ量の違いをも意味する。
ゆえにターンを重ねるごとに累加されていく――TCGとはそういうものだ。
(……いつもなら、そんな説明をするんだけど)
総髪を見つめながら、尭史は思う。
今のジェローナはどう見ても、そんな雰囲気ではない。
(なんだってんだよ)
「気にしなくていいってば。私の気持ちなんて、試合には関係ないでしょう」
「……?」
半ば投げやりなテレパシーに、過剰な反応のジェローナ。
それがかえって引っかかる。何かを閃きかけたような、そんな気がした。
そのときだった。
「鮎川氏」
「ん?」
物思いに耽った矢先、早崎が声を挙げた。
「そのカードの召還はできないだろう。色が足りていない」
「……あっ」
初歩的なミス。
召還コストの判断ミス。
初心者でもまずありえないような、ごく単純な間違いである。
「じ、じゃあさっきのFmを置き換えて……」
そこまで言いかけて、巡回する副審が睨んでいるのが目に入った。
「……いいわけないですよねー」
誤魔化すように笑うと、ほかのテーブルに目を向けた。
判ったなら良い、と言わんばかりだった。
「それじゃ、エンドまで……」
力なく、尭史はそう言った。
「ちょっと、何やってるのよ!?」
大げさに両手を広げる。
(何って。いわゆる一回休み、かな。一歩遅れてたのが、二歩遅れちゃったよ)
「ああもう。そうじゃなくて!」
今度は頭を押さえる。オーバーリアクションだな、などと尭史は眺めていた。
「私のことなんか気にしないでっていってるでしょう。試合に集中しなさいよ!」
怒声だった。
他の誰にも聞こえないせいだろうか。その言葉は、尭史の胸に強く響いた。
碧い瞳は僅かに潤んでいる。
それでいて、青年がこれまで見たことのない、強い眼光を放っていた。
(あいにくだね)
しかし尭史は怯まない。むしろ負けじと睨み返した。
(そう言われて気にしないでいるのが正解だった試し、なんてのはよ。オレの人生で一度もなかった。放ってはおけねえ)
「今回がその一度目よ」
(そうは思わないね)
「なんでよ」
(オレはおまえほど、人を『見る』ことに優れちゃいない。鋭い勘で『感じる』コトもできないよ。でもその分、目で見た事実から『考える』こと、『推し量る』ことは、徹底してるつもりだ)
「なにが言いたいのよ」
(おまえさっき、オレに怒ってないって言ったよな。でも今、間違いなく何かにイラついてる。その対象はなんだ? オレ以外に知り合いもいないだろう立場で、他に怒りの矛先を向けられるような相手っつったら。それはもう、ローナ。おまえ自身しかいない。違うかよ)
黙ってしまったローナ。彼女へ向くたった一人の眼差しは、そのとき柔らかくなった。
(なんだかんだ、おまえも嘘が下手だったんだな。そういうことなら、やっぱり――放っておくわけにはいかねえ。話してくれねえか、ローナが何を気にしてるのか」
その間にも、早崎は淡々とゲームを進める。
「『酒場守りの暴れ者、ラオービン』を召還」
彼も間違いなく強豪なのである。『二歩の遅れ』を見逃すような男ではない。
この状況を好機と見て、トドメを刺すための場を整えだした。
『酒場守りの暴れ者、ラオービン』(1)(赤)
プログレ(ネームド)――人間
このカードを生贄に捧げる、あなたのプログレをすべてアンステディする; このターンの終了時まで、あなたのすべてのプログレはカードの効果によっては破壊されない(戦闘やカードの効果によるダメージ、効果によるBPマイナス効果がプログレのBPを上回った場合は、状況起因処理によりクローズされる。これらはこのカードの効果の適応外である)。
BP2500 / HR1 / RVなし
「また召還に際し、場の『ゲイリー』の効果を発動。(白)を払って『誇りなき富豪』を破壊。通ったらそのままコンバットフェイズ入りたいです」
このとき早崎の場に生物五体、尭史にはゼロ。
うち三体で攻撃されれば、残りのライフは5を切る。
『二歩の遅れ』が呼んだ危機は、すぐそこまで迫っていた。




