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17 田舎の破壊者

 早崎常麿(つねまろ)に不貞不貞しいという自覚はない。

 ただ、自分が無愛想だというつもりはあった。


 彼は昔から、人と話すのが苦手だった。

 誰かに聞いてもらおうという事柄を覚えていることができないのだ。

 幼い頃両親と会話することが少なかったからか、などと思うときもある。

 けれど今更考えたところで、どうしようもない。


 人と話すのは下手くそなくせに、彼はTCGが大好きだった。

 正面にヒトを()えなければ遊べないにも関わらず――である。


 オンライン対戦が日進月歩で勢力を増しているとはいえ、TCGの主流はまだ実物(フィジカル)の対戦。

 となれば当然、人と接することも必要不可欠になる。

 誰かとの対面を避ければ、まったく遊ぶことはできない。

 しかしごく普通に人と関わることは、早崎には苦痛でしかなかった。


 そこで彼は考えた。

 いっそそれをキャラとして昇華し、こだわりとして表現しようと。


 その上で幸いなことがいくつかあった。

 まずS.N.o.W.という、骨太な背景ストーリーが添えられたTCGと出会えたこと。

 その背景ストーリーの中に、“厳粛”と“静謐(せいひつ)”を信条とするキャラクター『オルギン・メイル』がいたこと。

 早崎の得意なプレイが「間断ない攻撃」だったこと。オルギンのカードが、序盤の攻めにぴったりだったこと。


 かくして彼は、ビートダウンの愛好家として腕を上げていった。

 大会で使うFFは、常にオルギンの名を関するものばかり。

 オルギンのファンだということにすれば、寡黙なままでもあまり問題はなかった。


 そうしていつしか早崎は、知る人ぞ知る「沈黙のオルギン使い」と呼ばれるようになった。

 あるいは小型を並べるデッキを多用することから、「大きな蝦夷(えぞ)の小さな破壊者」と――



(――などという話、いくら鮎川氏といえども知らないだろう)

 『聖ゲイルのエンブレム』使用後の余ったFmでさらに生物を召喚しながら、早崎は思う。

(わたしはこれまで、“静謐”のイメージを貫くためにあらゆる情報が漏れぬよう徹底してきた。しかも今月に入るまで、目立った活躍もしていない)

 自信を示すように頷きながら、早崎は更に攻め立てる。


(一方こちらは、鮎川氏の情報をかなり仕入れている。攻めをいなして後半につなげるプレイが得意で、コントロールをよく使う。一回戦の様子からして、今回は白緑黒コンだと判断していた)

 尭史の瞬間魔法により、HRが最大だった生物こそ破壊された。しかし残りのアタッカーで、更に5点のライフを奪う。

(もっとも実際は、赤以外の四色コントロールだったようだし――実際のところ、まだ勝ち筋(勝利へのプラン)さえハッキリしていないが。ここまでライフ差がつけば、なんであれ勝てるはず)


 7ターン終了地点で早崎のライフ18点に対し、尭史は6点。

 盤上の駒に至っては、質も量も早崎が圧倒している。

(もし次のターンに全体除去(リセット)が飛んできたとしても、所詮残りライフは6点。FFの第三効果で回復されても11点。直接ダメージ(火力)魔法か何かで削りとれる範囲だ。まさに万全)


 さきほどジェローナが感じた余裕を、まだ漂わせながら。

 早崎はまた、手番を渡す。


「オレのターン。ドロー、FFの第三効果でライフを五点回復」

 想定の範囲だ、と早崎は思った。


「でもって、『こだまの精霊』をセット」

 『若葉風を運ぶもの』と同類の、黒緑版縦置き(ステディ)Fm。

 黒い全体除去が来るか、と早崎は身構えた。


「で、エンドです」


「……!」

 肩透かしを喰らった気分がした。

(なんだ、手札事故だろうか? 苦し紛れにすらなっていないな)


 自分のターンでなければ、新たな器具(アーティファクト)時代(エポック)を使用することはできない。

 そして人気ある全体除去は、全てそのどちらかに属していた。


「ドロー」 

 となればあとは、殴るだけ。もうそれ以外のことを考える必要はないとさえ思った。

「メイン飛ばし、バトルフェイズ。全員攻撃(フルパン)

 ずずっ、とすべてのプログレを押し出した。


「……」

 かつて滝登りと呼ばれた、年下の敏腕プレイヤー。

 そんな彼が、こんな骨董モノのカードに負けたなら。一体どんな表情をするだろうか?

 あまり良い趣味ではないなと思いつつ、早崎は尭史の顔を見た。


 しかして、その表情は。

「フルパン、ですね」

 初夏の海のように穏やかだった。



「では手札から、瞬間魔法を発動。『連鎖する変異』――このカード、ご存じですか?」



「いや」

 早崎は決して、知識が浅い方ではない。

 それでも、そんなカードは聞いたこともなかった。

 差し出された一枚を、早崎は読み込む。



『連鎖する変異』(青)(青)(緑)(2)

スプレー

 Fmゾーンに置くとき、このカードはアンステディされる。

 すべてのプログレを追放する。

 それらのコントローラーは、自分のデッキを、プログレが出るまで一枚ずつ公開し続ける。そのカードを戦場に出す。それぞれのプレイヤーは、『連鎖する変異』によって追放された、トークンではない各自のプログレの回数、これを繰り返す。

 その後、これにより公開された他のすべてのカードを、デッキに加えてシャッフルする。



(なんだ、これは?)

 とても、大会での使用に堪える(トーナメントレベルの)カードではない。早崎ははっきりとそう感じた。


 まず、重い。点数で見て5点ものコストがかかり、色拘束もかなり強い。

 同じ条件で、強さの保証されたカードなどいくらでももあるというのに。

 こんなモノを使う必要性が理解できなかった。


 そして使いどころが判らない。

 一旦相手の生物を除去するにしても、同じ数の生物を並ばせてしまうのでは効果は薄い。

 自分の弱小生物を巨大な生物に変身させるにしても、もっと条件のゆるいカードがある。 


「どうも」

 総じて、警戒のしようがない。

 むしろ恐るるに足りないとさえ、早崎は思った。


「で、カットインあります?」

 尭史の問いに、早崎は首を振った。

「では効果処理。すべての生物を追放して、それぞれの場の生物の数が同じになるよう、デッキの上から生物を踏み倒します。じゃターンプレイヤーから」


 片や四体、片や一体の生物が、墓地の右隣に置かれる。

 早崎はデッキをめくっていき、上から四体の生物を場に出し直した。

 いずれもこれまで召喚したものと大差ない、小型生物である。

(結局、こうなるわけだ。次のターンを待って殴れば、わたしの勝ち)


「では、こんどはオレの処理ですね」

「……?」

 何気ない、尭史の一言。

 しかしその声のトーンは、妙に低かった。


(なんだ……?)

 謎の違和感は、しかしすぐに、絶望へと変わった。

「デッキの一枚目は、『天界包囲の将、エートミア』」

 その結果に、空いた口が塞がらなかった。



『天界包囲の将、エートミア』(白)(白)(黒)(黒)(緑)(緑)(4)

プログレ(レジェンダリー)――ソウル

 このカードはFmゾーンにあっても、有色のコスト支払いに使用できない。

 躍動

 このカードが場に出たとき、取り除かれたライフカウンターを最大十個まであなたのライフゾーンに戻す。その後、ターン終了時まで、フィールド上のすべてのプログレのBP-4000する。

BP14000 / HR8 / RVなし



「これでオレのライフは21点に戻りました。さあ、バトルを続けましょう」

 今度こそ尭史が、余裕の笑みを浮かべた。

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