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11 運命の操作

 尭史の表情が堅かったのは、心のどこかに一抹の不安があるためだった。


 もしもジェローナが、嘘を吐いていたら。

 もしもトップデッキの操作など、できないとしたら。

 もしも優勝できないとしたら。


 ――いまだ一度も使っていない、超常の異能に際し。

 青年は、小さな恐怖を抱いていたのだ。


(ローナ。おまえのこと、信じていいんだよな)

 月居のターン終了時、尭史はそう念じる。

 感情は顔に出さないままで。


 果たしてカードの中の女騎士は、その胸の内を知ってか知らずか。

 腕を組んで、こう答えた。

 真っ白な歯を見せつけて。

「当たり前でしょ。信じなさいな!」


(ああ、そうだよな)

 尭史の脳裏に、昨日の光景が浮かぶ。

 その姿が、夕陽のシルエットと重なって見えた気がした。

(なんかごめん)

「え、何が?」

(ちょっとね)

「? いいから、デッキに手をかけて」

 言われた通り、腕を伸ばした。


「それじゃ、いくわよ!」

 ジェローナが、右手を高く挙げる。小さな紙片が輝きはじめる。

(――――ッ!?)

 白い光は徐々に強まる。やがて、尭史を包み込んだ。


 ほんの一瞬。

 彼の視界は、雪の色に(くら)んだ。

 何もない、誰もいない。ひたすらに白い空間。

 

 その中心に一つだけ、人の影がうごめく。

 女子供のような姿が、にわかに筋肉質に。

 かと思えば角が生え、果てに腕が増える。


 それは鬼か、あるいは神か?

 やがて消えかかる幻に、しかし尭史には確信があった。

 力をこめて叫ぶ。



「――創世導師(ウォーロック)!」



 そう声に出せたか、どうか。

 尭史自身にも判らなかった。



 ふと気がついたとき、目の前には月居がおり。

 右手の中には、一枚のカードがあった――『不平等統制』。


(……ローナ)

 目線を下げる。

 見慣れた女騎士は、カードから立ち上がっていた。


「これであなたは、正式に私の持ち主になったわ。私の姿、立体的に見えるようになったでしょう」

(ああ)


 ジェローナは、先ほどまで自らがいたカードに足を乗せていた。

 すらりとした足がテーブルを踏み、尭史にしか見えない影をつくっている。


 そんな仲間の変化にも関わらず。

 不思議な幻が見えたにも関わらず。

 尭史は、落ち着いていた。口を開いて何かを言いかける。

 今しがたの幻のこと、真実だった異能のこと、初めて見たジェローナの後姿のこと。

 言いたいことは、たくさんあった。

(でも、……やめておこう。全部、勝ってからに)


 鼻の付け根あたりを指の腹で押す。心なしか、視界がクリアになった。

「メインフェイズ。まず瞬間魔法『乱暴な瀉血(しゃけつ)』を発動」



『乱暴な瀉血』(黒)

スプレー

 あなたは5のダメージを受けてもよい。その後すべての対戦相手は、対戦相手自身が5のダメージを受けることを選ぶ。

 カードを一枚引いてもよい。



「私はダメージ受けません」月居が言った。

「これによりライフが変換され、フロントの魔力は9。では続けて『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』の解放8を使用。対象は『捨て鉢のマイル』」



『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』

フォアフロント――人間 / 聖染騎士

 解放3(魔力カウンターを三つ取り除く)、あなたがコントロールするプログレを一体生け(にえ)に捧げる; 生け贄がもつ種族を一つ宣言する。宣言された種族をもつフィールド上のプログレをすべてゲームから追放する。

 解放8; BP7000以下かつHR4以下のプログレ一体を対象とする。ターン終了時まで、あなたはそのコントロールを得る。そのプログレをステディ(縦置き)する。それは鋭敏を得る。この効果は自分のメインフェイズにしか使用できない。

 解放X+X; 魔力カウンターをX個、ライフゾーンに戻す。

LP30



 マイルが尭史のバトルゾーンへと移動する。

「そして、時代魔法『不平等統制』を使用。マイルを生贄にする」



『不平等統制』(白)(黒)(2)

エポック(ファーリーチ)

 Fmゾーンに置くとき、このカードはアンステディ(横置き)となる。

 このカードを使用するに際し、あなたがコントロールするプログレを一体生贄に捧げ、このカードの下に置く。それはゲームから追放されたものとして扱う。

 生贄と同じ種族を含むすべてのプログレを召喚するためのコストは、追加で(2)される。

 あなたが召喚するプログレのコストは(1)少なくなる。



「マイルの種族は 人間 / ならず者。一方レクトルの種族は 悪魔 / ならず者 / 皇族 だ。これで召喚には更に2枚のフラグメントが追加で必要となる。次のターンにリンゲージ相手と同時に召喚することは出来なくなったな」

「ひ、ひぃ」

「特になければ、『誇りなき富豪』でアタックだ」

「通ります……」



 それを境に、月居は明らかに落ち込み始めた。

「ドロー。クローズしたレインを墓地へ。エンドです……」

「ドロー。『ケルネルの弔い人』を召喚、墓地のカードを二枚選んで追加のライフカウンターとして扱います。エンドです」

「ドロー。『田園育ちのセズー』をFmに。エンドです……」


「相手、なんにもしてこなくなったわね」

 不思議そうなジェローナ。

(月居は二体のプログレを同時に出してすぐにリンゲージさせたい。けれど『不平等統制』のせいでコストが余分にかかるため、それが出来なくなったわけだ。青・黒のリンゲージ持ちはほとんど人間、あるいはならず者だからさ)


「一本目みたいに、ドローの時代魔法や瞬間魔法を使えばいいのに」

(いいところに気付くじゃないか。ローナなら、なぜそれが今の月居に出来ないか、判ると思うぜ)

「えー? ヒントはー?」

(この試合で月居が使ったカードや、フラグメント)


 ジェローナは相手の場をよく見てみる。

 Fmはすべて生物(プログレ)。新たに置かれた『美しき怨霊』も同じだと気付き。

「ひらめいたっ。サイド交換でプログレを増やす代わりに、ドロー用カード(無生物)を抜いちゃったのね!」


 尭史は頷く。

(その通り。サイドボード使ってビートダウンに近づくというのは、コンボから遠のくのと同義だ。コンボを成立させやすくするパーツ、つまりドローソースが減らしたから、月居は何もできない)

「なるほどー」

(マイルでなくレインを破壊したことや、除去でなく『不平等統制』を引いてきたことを不思議に思ったかもしれないけどさ。長い目で見るとこのやり方の方が相手を支配できると思ったんだ)

「考えたわねぇ」


(もしビートダウンに寄せてなかったら。ここまで『不平等統制』の影響を受けることは無かっただろうね。ドローが多く出来る分、場にある限り効果を発揮し続ける時代魔法(エポック)への対策カードを引く期待値も高かったはずだ)

「二兎は追えないってことかしら」

(そんな感じだ。ま、ビートダウンに近づけなかったら相性的にオレの有利だし、月居からすればこうする他なかったんだろうけど)

「やるわねー。さすが滝登り」

(おまえあとで覚えてろよ?)



 月居が場にある『不平等統制』を除去できたのは、それから2ターンも後のことだった。

 しかし、その頃には尭史の場に重量級のプログレが二体並んでおり。


「まいりました」

「ありがとうございました」


 盤上の不利を返せないと悟った月居は、降参を宣言した。

 鮎川尭史、二回戦進出の瞬間であった。

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