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103 意思の力

「おやおや。ずいぶん運がないようですねん、鮎川サン? スゴク使いたかったカードじゃありませんのん、それ」

「これくらい想定の範囲内だね。お前の番だぜ、焔村」


「僕のターン」

 『脱走した僧兵』の姿は、変わらなかった。

「系譜を一つ得て、ドロプラ、ゴーですよん」


(ローナ。98番目、『ユキヲのエンブレム』)


(いいのね?)

 もはやジェローナは多くを語らない。

 強い眼差しで十分だった。


(ああ。こいつは『悪魔の応酬』と比べても、まったく遜色(そんしょく)ない。十分、勝負を決められる!)


 返事の代わりに、ジェローナの眼が光る。ドロー、プラグ。

「そして、『バークハード』! 焔村、おまえの余命宣告だ」


「まあ、そう来ると思ってましたよん」

 尭史の真似のつもりか、焔村もニヤリとする。

「それでもしぶとく生き永らえれば、僕の勝ちですねん。シンプルだ」


「そりゃ文字通り、往生際が悪いな。言うとおりにしとけよ」

「往生即ち負け、でしょん? 誰が言うこと聞くんですのん」

 言いながら、『質素な首飾り』。ドローし、系譜を一つ得る。


「もっとも、僕のやることは変わりませんけどねん。どうぞ」

 ドローして、プラグのみ。

 再び、尭史の手番。四回裏。



(『制覇の天令(ジャルリク)』――)



 尭史は静かに、目を閉じていた。

(99番。『糾弾(31話参照)』)


 ジェローナはやはり、黙っている。

 トドメを刺す能力が、そんな1コストのカードでいいのか?

 勝算はどれほどあるのか?

 気にならないと言えば、もちろん嘘になる。


 それでも彼女は、決闘者を信じ続ける。

 高まる青年の鼓動(こどう)を、(しず)めるかのように。

 力強く、笑っていた。


「オレのターン。『バークハード』で攻撃、4点のダメージだ。そして」

 今しがた引いた、99番目。

 汗まみれの手で、それを場に出す。

「『糾弾』を顕現する」


「それで危険(はい)を落としておこう、ということですかねん? 鮎川サン」

「そうかもな」

「また随分、穴だらけの余命宣告を出してくれたようですねん。ろくでもないカルテだ」


 焔村の手は速かった。

 ズダンと音を立てるかのように。

 合わせられたカードは、ジェローナにも見覚えがあった。


『足軽の陥穽』(99話参照)――ッ! 『糾弾』は無効化される!)


「その程度でよくも、余命などと言えたものですねん」

 (あざけ)る風の焔村。


 尭史は何も言い返さない。

 うるさいほどの心音を聞きながら。

 ただわずかに上唇を()めた。


「じゃあ、僕のターン。ドロー、プラグからターンを」

「待てよ」


 ぎょろり。

 細かった焔村の眼が、にわかに開かれた。


「どうかしましたか」

「第一メインの終わり。コンバットの前だ。オレはこいつを使う」


 す。

 とん。

 尭史のリズムは、わざとらしいほど穏やかで。

 スオウも反応が遅れるほどだった。


 それゆえに。


「ああ、なんだ。そんなもの――」



『ユキヲのエンブレム』(青)(黒)(1)

スプレー

 以下から一つを選ぶ。

 ・あなたはカードを二枚引く。

 ・対戦相手を一人選ぶ。そのプレイヤーは、自分の手札を二枚選んで捨てる。

 ・プログレ一体を対象とする。ターン終了時まで、BP-1000 / HR-2 する。



 焔村がその意味を理解するまで、わずかに時間を要した。

「――その、タイミングは――ッ!」


「インフォームド・コンセントを保証してやる。おまえが選べ」


 なお流れる冷や汗。

 いつまでも収まらない脈拍。

 それでも尭史の言葉は止まらない。

 強がってニヤニヤし続ける。


「『エンブレム』を通したっていいぜ。何かカウンターを撃ったっていい。もっとも、コイツを打ち消せば」


「てふだが。。。偶数に」

「……『ふるい』にかけられて……結局一枚になる!」


 焔村は、ついに。

 余裕ぶったポーカーフェイスを崩して。

 口が裂けんばかりに、歯を食いしばった。


「この、愚民が……ッ!」

 投げるように手札二枚を捨てる。

 『大洪水』と『将軍のつき返し』。


(やったわ、尭史! 焔村光秀の手札はもう、一枚よ!)

(いやまだだ)


 喜ぶジェローナを前に。

 尭史の鼓動はまだ、早いままだった。

 極度の緊張。

 張りつめた心。

 口の端がぶるぶると震えている。



(あのカードさえ、手札になければ――勝ちなんだ!)



 威嚇(いかく)するように眼光を飛ばす尭史。

 内心の緊張に、焔村はもう気づかない。

 余裕がないのは一緒だった。


「改めて僕の、第二メイン」


 今にも手札をグシャグシャにしそうな勢いのまま。

 カードを使う。



 尭史の祈りを無に帰す一枚を。



「『兵糧庫増床』」



 それは焔村にとっては、悪足掻きでしかなかった。

 すべてを計算し終えたスオウも、駄々をこねるようにジタバタしている。

 この試合において、勝ち筋というには――あまりに細すぎるのだ。


 なぜなら。

 もう一度制覇の天令(ジャルリク)を使われただけで、負けがほぼ確定するからであった。



(て、『天恵の乱獲』さえ)


 だが。

 今の尭史たちには。

 たったの一回が、どうしようもなく重かった。


(あれさえ使わなければ、99回で済んだのに――ッ!)


 まだ脈が上がる。

 胸が痛み、唇が震える。

 目の前の現実に、眩暈(めまい)までする。


 97番の裏目。

 慎重の反転。

 最悪の帰結。


 恐れていた事態がいま、現出した。




(100番目の能力を切らなきゃ、勝てない!)

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