表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/106

102 騙し討ち

(だいぶ。。。バレてるね)

 『傲慢のふるい』を一目見て、スオウが言った。彼女の頭脳を()ってすれば、尭史の使うカードのイラスト・効果すべてを暗記することなど、朝飯前であった。


(そういうことですよねん。やっぱり)

(さされた。。。『狩衣』の限界)

(ですねん。いきなり、対象の選択を迫ってくるとは)


 尭史が指摘する(94話参照)ところの、②――『狩衣』は、同時に二枚以上のカードを、歪ませる対象に選ぶことはできない。

 この仮説は、彼が調べた通り、真であり。

 それゆえに焔村たちは、諸刃の剣に対して手をこまねいた。


(『傲慢のふるい』はすべてのプレイヤーに(かせ)がかかりますから、一見すると認識を歪ませることで自滅に追いやることができるようにも思えますん。しかし)


(もしも。。。『ギルドのベテラン』みたいに(だま)せなかったら)


(ええ。『傲慢のふるい』にかけた『狩衣』を雑に解除すると、解除行為そのものを、他のカードに『狩衣』をかけたことの目印にされてしまいますん。同時に二枚以上のカードを選べないということに彼らが気づいていることを前提にするなら、ですけどねん)


(ぐうぜんじゃあ。。。ないと思う)

(そうでしょうねん。仮に楽観視したところでリターンが大きくなるでもないですし、腹と高を(くく)った方が勝率の上がる場面でもありません。『狩衣』の委細は知られている前提で動いた方がいいでしょうねん)


(さかてにとる??? あえて)

(というと、ミスリードを仕掛けるんですのん? うーん、これだけ推理力で出し抜かれた上で、有効なんですかねん)


(ひようは。。。わずか)

(なるほど。すべて勘づかれているという前提でミスリードを図れば、費用(コスト)は残弾だけですねん。やってみる価値は、ありそうですん)

 スオウはこくこくと頷く。


(はつどうする。。。『源三位の狩衣』)



 一方の尭史。

 ターンを終了する、と涼しい顔で宣言する。

(とはいえ……オレはさっき、『(とげ)刺す(うろこ)』を使ったんだっけか?)


 どうかしら、とジェローナが答えるうちに、焔村はカードを引き、Fmを増やす。

「それじゃ、『脱走した僧兵』を出しますねん」


「……!」

 その瞬間。

 『棘刺す鱗』だったものは、『傲慢のふるい』へと戻った。


(この場面で変わったってことは、あの『僧兵』はまた『破滅の扇動者(85話参照)』とかだってことかしら?)

(どう、だろう。もしかすると、別の理由があったりするのかも)


 ジェローナが無言で尭史の眼を見る。

(対戦相手のカードを一度でも『狩衣』の対象と(マーキング)することで、何かが起こる、とか)


(何か、ね。認識を歪ませるのとは別の能力は、持ってないはずよ。私の見立てだけれど)

(そうでなきゃ困るぜ。でもオレたちには見せてない『狩衣』の使い道が、まだ……あるかも)


(そんなこと、考えだしたらキリがないじゃない!)

 ジェローナの言葉はもっともだった。尭史自身、ほとんど同意する気でいた。


 だが。

 「もしも」「あるかも」という疑念は、頭脳戦(マインドゲーム)全般において()()()を示しうる。

 負け筋を適確に潰す(ケアする)ことが、丁寧なプレイングであり。

 丁寧なプレイングは、カードゲームの巧みさを(あか)すものの一つなのである。



(『制覇の天令(ジャルリク)』97番――『天恵の乱獲』(27話参照)



 そしてその丁寧さは、尭史の中で「Fmを増やす」という結論を導いた。


(Fmを増やして、テンポを上げる。あの『僧兵』が『扇動者』である可能性がある以上、プログレは出せない。2コストで積極的に使いたい手札破壊(ハンデス)もない)

 尭史の顔に一筋、冷や汗が伝うのを、ジェローナは見逃さなかった。


(Fmを増やしておけば、もし『狩衣』に隠れた使い道があっても対応しやすい。そんなものがなくても、『バークハード』を1ターン早く出せる。無駄にはならない)


(つまりゲームとしては、『天恵の乱獲』が一番適切なのね)

(……ああ)



 尭史の言葉の裏には、何かがある。ジェローナはそれを見抜いていた。

 だが問い(ただ)すべきなのかは、迷った。


 こんな状況で、絶対の正解などありはしないのだろう。

 それでも尭史は決断しなければならないし、それを自分が手伝うことはできない。

 ならば訊くべきではない。決闘者の決断を、迷わせてはいけない。 

 そう、思った。


(オレは楽しいぜ、ローナ)

 ジェローナの目線に、尭史が気づいた。

(未知だった能力、『源三位の狩衣』。それを解き明かす過程。仮説に基づいた対策で、勝って。今また、正解があるかも判らない選択を、迫られてる)


 冷や汗付きだが、ニヤっと笑う。

(新鮮だ。最後のゲームに相応(ふさわ)しい。感謝してるよ、ここに臨む勇気をくれて)


(お安い御用よ)

 フッと、笑いながら。

 ジェローナは安心して、背中を押す。

(さあ、続けましょう!)



「オレのターン。ドロプラ、『天恵の乱獲』を!」

「へーえ、なるほど。通りますよん」


 デッキトップを、そのままFmへ。

 表を見た瞬間。

 尭史の心臓は、飛び跳ねた。


(『悪魔の応酬(99話参照)』が、落ちやがった!)

最終話まで書ききりました。残り三話です。

103話を明日、104・105話を29(月)に投稿予定です。

ここまでお付き合いくださった皆様、どうぞ最後までお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ