101 適者生存
(一度だけ、質問させてくれ。ローナ)
(なにかしら)
(おまえはセディアルと同じようになりたいと、思ってるか?)
(それは、どういう部分で?)
(決まってるだろ。この世界に残りたいか、ってことだよ)
ほんの一瞬だけ間があって。
それからジェローナはニカッと笑った。
(あら、嫌ね。まだ私の気持ちが判らないっていうの?)
(オレは本気で訊いてるんだ)
尭史は取り合わない。
(お前の存在そのものに関わることだ。堅苦しく言や、人権だろ。残りたくないって言うなら、このゲームで100回。全部、使い切るつもりだ)
(残る気はない、なんて思うはずないでしょ)
語気は強いが、尭史と目が合わない。
(もし、元の世界でやらなきゃいけないことがあったなら、すぐにでも離れようとしたでしょうけど。オリジナルの私が、そこに残っている。私は転写した魂の複製で、元の場所に戻る手立てはない。なら)
目はおろか、身体ごと背を向けて。
「あなたといたい」
ごく小さく、呟いた。
尭史は咄嗟に右手で顔を覆った。
(あっああ安心したよ。おほっおオレも、おまえと、いたい)
(オタク)
(し知ってるわんなことは!)
尭史は照れ隠しのつもりで、サイドデッキを混ぜた山札を激しくシャッフルする。なにも隠れてはいないのだが。
(あー、うん。なら判った。なんとしても七回の『制覇の天令』で、勝負を決めよう)
(ええ。そうしましょう)
なぜかジェローナは、振り向かない。
(大まかな戦略はさっきと同じになるな。直接攻撃や超速攻、準々みたいな一撃必殺を狙うには、後攻っていうのがネックになりすぎる。他には考えられない。回数が足りないか、確実性が下がる)
(なるほどね)
(……ローナ? どうかしたか?)
ジェローナの背中に問う。
(いいえ。なんでもないわ。勝ちましょう)
ようやく振り返ると、拳を突き出す。
(? おう)
尭史もそれに倣った。
そうして気丈に振る舞いつつも。
彼女の胸中には、二人の男の姿が浮かんでいた。
父オルギンと、預言者クィール。
どちらも元の世界で、人の前に立っていた者である。
オルギンはどれだけ不利な戦場でも、常に堂々と戦士たちを率いていた。
クィールは明日の糧すら覚束ぬ時も、常に明々と貧民たちを導いていた。
どちらも辛い時ほど、周囲に辛い顔を見せなかった。
人の前に立つにはそれが肝要なのだと、ジェローナは理解していた。
(創世導師の不確かさを目の当たりにすると、なおさらクィールの素晴らしさが実感できるわね。人々を救おうとしていたのは創世導師ではなく、クィール自身だった。もしこの私がもう一度会うことがあったら、もう呼び捨てになんてできそうにない)
自分は強くあらねばならない。そのことを強く意識する。
『おまえだけは、おれを導くってことをしてくれた。どんな人も言ってくれない言葉を、おれにかけてくれた。強がってくれて、力をくれて、知恵をくれた。そう、一人だけなんだよ。おれを、上に引っ張り上げてくれるようなやつは。他に一人といない』
そう言ってーーどんな生身の人間よりも、カードの中の自分を必要としてくれた尭史のためにも。
自分は、強い騎士であらねばならない。
そうあるべく、覚悟を身に宿す。
(クィール、私の在り方は正しいわよね? お父さん、力を貸して!)
「準備はいいか、焔村」
サイドチェンジも済んだのか、尭史が言う。
「ええ。いいですよん」
焔村は小指の腹でスオウの頭を撫でていた。
「先攻はいただきます。よろしいですねん?」
「嫌だと言ったら譲ってくれるのか?」
「まさか。とてもできません」
どん、と山札を置く尭史。
(やろう、ローナ。最後の戦いだ)
(ええ。これで、優勝よ)
シャッフルにカット、そしてマリガン。
初手の『制覇の天令』は、三回。
93回目、『こだまの幽霊』。
94回目、『南国カジキ』。
95回目、『獣脚の蹂躙、バークハード』。
対する焔村は。
「僕のターン。プラグ、ゴーです」
わずかな動作のみで、尭史を試しにかかる。
「相変わらずのスタイル、だな。ならオレは」
『制覇の天令』、96回目。
「『傲慢のふるい』を顕現する!」




