100 世界を壊すもの
「げんこうは。。。神風が追い返したよ」
「日本史なんて中学校以来してませんけど、そのころの鎌倉幕府って既に執権の北条氏に牛耳られてませんか、ねん」
「こまけえこたあいいんだよ」
「そんなこと言っていいの? あなた歴史が専攻じゃなかった?」
「ネーミングなんてフィーリングで決めさせろよ! なんだよお前らそろってちくしょう」
尭史はちょっと涙目だった。
「いいか、鎌倉幕府は元寇の事後処理ができなくて崩壊するんだ。源氏が築いた牙城を、実質的にモンゴルが破壊したんだ! そうだろ」
「まあはい」
「だったらいいじゃねえか! すべての不可能を可能にする絶対の力、地獄よりの馬蹄はオレたちの力に比肩する」
「??? 何語話してるの」
「上天よりの運命をもって生まれた蒼き狼――これぞ地上の王ッ! かつて世を統べし最凶の男! 彼の口より宣した至上の命令、即ちッ!」
「恥ずかしいから早く終わらせてくれる?」
「『制覇の天令』ッ!」
静寂がはじめに訪れた。
その場の誰もが言葉を失った。
三回戦の際と違う点といえば、尭史の満面のドヤ顔と。
予想を超えるプレイに開いた口が塞がらないか、予想通りの中身のなさに閉口するかの温度差であった。
「なんか……言ってくれてもさあ。よくねぇ?」
しばらくして尭史がしおれた。
ちなみに。
後日焔村が調べたところ、蒼き狼はチンギス・ハンの異名である一方、日本侵攻を指示したのは孫のフビライ・ハンであった。
これにはスオウ共々ずっこけたという。
(いいからゲーム続けなさいよ)
(なんだ? 何がいけないんだ? やっぱ『成吉思汗ハ源義經也』ってことで、源氏と敵対するのは不適切なのか!?」
(技の名前に興味がないだけよ)
(ロマン! ローマンなんだよっくそ。『獣脚の蹂躙、バークハード』だ!)
ふざけているようでも、尭史の戦術に抜かりはない。
ただでさえ、青の濃いデッキでは対応が難しい『バークハード』。
まして手の短くなった焔村では処理などできず。
退屈そうにスオウが体育坐りをした。
「僕の、ターン」
焔村のデッキに、費用対効果の良好なドローも多くない。
そのうちの一つ『氏康の会合』は、使用コストに系譜カウンターを要する。
デッキリストをほぼ把握しているからこそ。
たった一枚の『ギルドのベテラン』は、最大の効力を発揮した。
「Fmを増やして終了ですん」
「いいのか、焔村? このまま殴り勝っちまうぜ」
「元よりそれが狙いでしょん。わざわざ聞くなんて人が悪いじゃありませんのん」
「それはあなたが言えた言い回しじゃないわよ。焔村光秀」
「なるほど。目の敵にするとゆーことだってんですねん」
五回表。
言葉通り『トコヤミ』と『バークハード』で殴ると、5点ものライフが消し飛ぶ。
20点あったライフも、残りは12点。
しかも手札は一枚。焔村に後はなかった。
五回裏。平静を装いながらも、ドローする焔村の指には力がこもる。
そこで引く一枚は、一縷の希望に等しかった。
「プラグから『兵糧庫増床』を顕現しましょん」
スオウが足を崩す。
「通すかよ! 『大いなる拒絶』だ」
即座に体育坐りに戻り、膨れながら尭史を睨んだ。
「悪いな、スオウ。このまま勝たせてもらうぜ」
「どうかな。。。連続で『兵糧庫増床』引くかも」
「それもそうだな。ならダメ押しのケアをするまでだ。『制覇の天令』!」
「やかましいからやめない? それ」
「なあローナ。技名は叫ぶものなんだ。判ってくれよぉ」
そのダメ押しとは、『にせ薬の流布』。Fmの制限までかけると、尭史の勝ちは盤石だった。
12点のライフは7点になり。
2点にまで減ったところで『悲壮破りの軍師、スオウ』の解放15が発動し、焔村はカードを三枚引く。
そこでようやく。
「参りましたよん」
焔村が負けを認めた時には、スオウは手足を投げ出してゴロゴロしていた。
「先行でマウント取られちゃ、さすがに無理筋でしたねん。まあいいですけど」
「言ってろ。オレたちは後攻からでもまくってやるさ」
そう言う尭史のそばで、ジェローナは難しい顔をしていた。
(やっぱり顔が怖いぜマイワイフ)
(……。あなた、『にせ薬の流布』で何回目の使用だったか、判ってる?)
(判ってるよ。92回目だ)
(自分で数えてたのね)
その眼光はきっと、腰元の剣よりも鋭かった。
(その通り。大詰めよ)




