表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

おんぶぱにっく (前編)

 『離乳食と食材調達』のあたりの出来事です。

 ある秋の日の午後、アサトは離乳食用にともらった作物を持ってシルトの家に遊びに来ていた。


『? なんだろー、これ』


 何気なくテーブルに座り、部屋の中を眺めていると、部屋の隅に変わった物が置かれている。気になって近くに寄り、それをしげしげと眺めると、紐が何重にも巻きつけられたクッションのように見える。しかし、紐は縫い付けてあるのか、引っ張ってもびくともしない。アサトはしばらく紐を引っ張っていたが、それを持ってテーブルへと戻る。そして、台所に向かって声をかけた。


『ねー、シルトー』

『ん?』


 茶の準備をしていたシルトが、その手を止めて振り向く。


『これ、何ー?』

『ちょっと待ってね』


 声と共に食器の擦れる音が響き、暫くして茶器を持ったシルトが応接間へと入ってきた。テーブルに茶器を置き、アサトの前に湯気の立つカップを置く。そして、その向かいにもカップを置き、座った。


『何の話?』

『これー』

『ああ・・・』


 アサトが先程のクッションのような物を差し出すと、シルトは苦笑した。


『これなにー?』

『それ、おんぶ紐だよ』

『おんぶ紐ー?』

『そう。ソルテスをおんぶしようかと思って用意したんだ』


 そう言って、シルトはアサトからおんぶ紐を受け取り、自分の背中に器用に括った。言われてみれば、クッションのようなところに赤ん坊一人が入りそうな隙間が空いている。


『こんな感じかな』

『ほんとだー。俺にも貸してー』


 シルトからおんぶ紐を受け取り、アサトも試してみる。意外に装着に時間がかかったものの、背中に当たるふかふかした付け心地に表情を緩ませた。


『おもしろーい』

『面白いかは分からないけど・・・これなら、離れてても大丈夫かなって思ったんだよね』

『そっかー』


 相槌を打ちつつ、おんぶ紐を外したアサトはあれっと声を上げた。


『でも、端っこに置いてあったよねー? 使ってないのー?』

『・・・・・・実は・・・ね』


 目に見えて渋い顔になるシルトに、アサトは首を傾げた。


『使えなかったのかー?』

『そういうわけじゃ・・・ないんだけどね』


 そう言って溜息をつくシルトを目を瞬かせつつ眺め、アサトは首を逆方向に倒した。




 それは、ソルテスの首がすわって暫くしたある日のことだった。


『できた!』


 シルトは縫い物をしていた手を止め、満足そうにそれを広げた。

 余っていた羊毛を詰めてできるだけふかふかさせた、クッションのついたおんぶ紐。最近ソルテスが一人になると泣き出すため、その解決策として3日で仕上げた改心の1作だ。


『(これで、泣かせなくて済むね)』


 離乳食を作りに台所に行ったり、洗濯のために外に出たりしているときに度々泣かれる日が続いていたため、好い加減何とかしなければと思っていたところだったから、余計に嬉しい。

 早速できたばかりのおんぶ紐を背負い、霊体(からだ)に密着することを確認すると、シルトはソルテスのベッドへと近づいた。


『ソルテス』

「あー」


 ベッドの中で柵を掴んでは放すを繰り返していたソルテスは、シルトの声に顔を上げた。


『おんぶ紐、できたよ』

「うー?」

『試してみようね』


 シルトはソルテスを抱き上げ、少しだけ解いたおんぶ紐に座らせると、自分の霊体(からだ)にソルテスが密着できるように紐を調整する。上手に背中にソルテスが収まっているかを確認し、シルトは軽く背中を揺らした。


『どう?』

「うー!」


 嬉しそうに振られたソルテスの手が背中に何度も当たる。その様子にシルトは顔を綻ばせた。


『大丈夫そうだね。これで、いっつも一緒にいられるよ』

「あう!」


 ソルテスの元気そうな声と共に、シルトの視界が開かれる。フードを下ろされたことに気づき、シルトは慌てて被りなおした。そして、背後のソルテスに言い聞かせる。


『ソルテス、フード取っちゃだめだよ。危ないんだから』

「う!」


 不満そうな声を上げ、ソルテスは再びフードを引っ張り下ろす。それをシルトが再び被った。


『だから、ダメだって!』

「あう!」


 ソルテスが下ろし、シルトが被る。それを何度も繰り返しているうちに、ソルテスはしっかりとフードを握り締め、放さなくなった。


『ソルテス、放しなさい!』

「うーー!」


 シルトとソルテスの間で、引き合いの攻防が始まった。何とかしてフードを下ろそうとするソルテスと、下ろすまいとするシルトは、互いに引っ張ることに夢中で布の耐久性を考慮してはいなかった。

 ビリリ!

 甲高い音と共に、フードが裂けた。


『うわっ』


 おんぶ紐を解いて、キャッキャと笑うソルテスを慌ててベッドに戻す。ソルテスは機嫌良さそうに、フードの切れ端を握って振っていた。


『あちゃー・・・』


 ローブを脱いで確認すると、丁度頭の後ろに当たる部分の布が盛大に裂けている。このままでは、おんぶは無理そうだった。


『繕わないと・・・』


 残りのローブの数を思い浮かべ、シルトの口から溜息が零れた。

 この一件から、シルトはソルテスのおんぶ方法を考えざるを得なくなった。



 読んでくださり、ありがとうございます。

 ソルテスがちょっとやんちゃです(^^)。小さい子って、何故かひたすら箱からティッシュ引っ張り出したりするの、好きですよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ