公園のボウカンシャ
平日の午前中の公園。いるのは、子連れの親子が大半だった。子供は、無邪気にはしゃいでいた。中には、はしゃぎすぎて泣いている子供もいた。母親達は絶賛井戸端会議に勤しんでいた。内容は大半、旦那のことだ。なんだかんだ言って旦那のことは気になるらしい。
「こないだ旦那が仕事でねぇ……」
「いや、うちの旦那なんてさぁ……」
「もう、こないだの旦那との夜なんてねぇ……」
しばらく私はお気に入りのベンチに座って観察していると、子供たちを連れて母親たちはどこかへ消えてしまった。どうやらお昼らしい。たしかに子供たちも、お腹が空いたような表情をしている気がした。そうか、そんな時間か。私も、そろそろ帰ってお昼ご飯を食べないとと思った。
帰ろうとした瞬間、近所のタクさんというおじいさんが私の前に現れた。
「やぁ、元気かい?」
タクさんは、70歳前後だと思われるが、背筋も曲がって無く身長もなかなか高い。近所では、流行りのタレントの愛称をあだ名としてつけられていたりもする。でも、本人はよくわかっていないと言っていた。タクさんはテレビというものをあまり見ないらしいからだ。
私は、タクさんの返事に首を縦に振った。そしたらタクさんは、そうかそうかと言って、私の隣に座った。
「実は、昨日妻が亡くなったんだ。とても悲しかった。20代頃に結婚してね。当時はまだまだ経済状況が安定していた時代じゃなかった。仕事だって今みたいに選べなかったんだよ。向こうの両親にも反対されたよ。こんな男と結婚するなってさ」
私は、タクさんの話をとなりで黙って聞いていた。
「でも、どうしても結婚したかったんだ。とても相手の女性が綺麗でさ。この人と今後の人生を送れたらどんなに幸せだろうかって考え始めたら、両親に反対されようが貧乏だろうがなんだろうが関係ないと思えたんだよ。恋というか愛というかさ。人間てそういう部分においては不思議なものだよね。一生懸命になってしまうんだね」
タクさんの表情が、明るいと思っていたら徐々に暗くなり始めた。
「でも、その後頑張って働いてなんとか暮らせるレベルになったんだ。頑張ったんだよ?今思うと、良い経験だったなぁ。成長を肌で感じることができたからね。それから何十年の月日が流れて今に至るわけだ。妻が亡くなった時は、妻との思い出が走馬灯のように巡ったよ。きっと天国で待っててくれるかな……」
私は、どうのような返答をしていいかわからなかった。悩んでいるとタクさんが話かけてきた。
「ああ、なんか暗い話をしてしまったね。すまないね。でも、なんかスッキリしたよ。でも、妻を看取ることができてよかった。だって、愛する人の前で自分の人生を終えることができたんだからきっと妻は感謝してくれてるよね。そうだ。きっとそうだ。そうに違いない。」
タクさんは、また暗い表情から明るい表情にもどった。そして、タクさんは無言で私の横を離れていった。タクさんの背中はどこか清々しいように見えた。
私は、お昼ご飯を食べてからまた公園のベンチに戻ってきた。時刻はお昼をとっくに過ぎ、夕方頃になってきて日も落ちかけていた。少々昼寝をし過ぎてしまったようだった。
公園には、学校帰りと思われる数人の子供たちが、ランドセルをその辺にほっぽりなげて、野球をやっていた。最初は、仲良く投げ合ったり打ったりと楽しそうにしていたのに、ある時一人の少年が泣き出した。
原因はよくわからなかった。ただ、少年はとても悔しそうに泣いていた。泣いている少年の前で、もう一人の少年の顔は強ばっていた。たぶん、怒っていたのだろう。そのうち顔を強ばらせた少年は、泣いている少年に対して罵声を浴びせて帰ってしまった。泣いている少年は、その場でわんわんとその後も泣き続けていた。
私は、その少年のことが少し気がかりになったので、話しかけることにした。少年は、私を見て少し泣き止んだようだった。
「ぐすん……。アイツ、酷いんだよ。お前のせいで野球にならないって怒るんだ。たしかに、僕はあんまり野球はうまくないんだ。でも、僕だって上手くなりたいのに……」
泣いていて感情が高ぶっているせいか、話の内容はよくはわからなかったが、どうやら泣いている少年は、怒っている少年に下手くそだなんだと罵られたようだ。悔しそうだったのはそのためなのかと納得した。
「たしかに、アイツはうまいんだよ。体も大きいしさ。僕は小さいからその辺で負けちゃうんだ。悔しいよ。僕だって大きくなったら、大きくなったらきっと負けないのに……」
少年は、また泣き出した。わんわん大声で泣き始めた。すると、通りかかった女性が少年に声をかけた。
「あら、ケンジこんなところで何泣いてるの!?」
少年は、驚いてその女性を見た。どうやら母親だったらしい。母親が来た途端、その少年はさっきまで泣いていたのが嘘のように泣き止んでしまった。
「ううん。なんでもない!」
少年は赤く晴れた瞼を擦って、泣いていたことを隠そうとしていた。
「あらそうなの……。もう、心配したじゃない。あ、今日ケンジの大好きなカレーだからね」
「本当!やった!ちゃんと、らっきょは買ってきてくれたの!?」
「買ってきたわよ。もう、小学生のくせに味の好みはおっさんなんだから……。ほら、もう帰るわよー」
「あ、うん!ちょっと待ってー」
少年は、急いでほっぽいておいたランドセルを肩にかけた。そして私の所に来た。
「じゃね、さっきはありがとうね」
少年はそういって母親の元に颯爽と戻っていったのだった。
放送が、流れた。
「公園内にいるみなさん、ただいま五時になりました。小学生のみなさんは寄り道をしないで帰りましょう。公園内にいるみなさん、ただいま五時になりました。小学生のみなさんは寄り道をしないで帰りましょう」
この放送がなると、小さい子供たちはみんな帰っていった。今日だけではない。昨日も一昨日も。そして、たぶん明日も明後日も。この放送がなると途端に公園内は寂しくなる。静けさにはなれているけれど、やっぱり寂しい。私は、人間が好きである。小さい子供も、中くらいの子供も。大人だってみんな好きだ。大抵の人たちは、私を見ると目を輝かしてくれるのだ。
「かわいい!!」
「ねぇねぇ、お母さん触ってもいい!」
「ん〜この猫さんは美人さんだねぇ……」
反応は様々ではある。私は人間の話している内容はなんとなくは理解しているつもりだ。しかし、この時の目を輝かしている時の人間は何を言っているのかよくわからない。興奮しているのだろうか。何を言っているのかよくわからないことが多いのである。人間とは、猫を見ると興奮状態に陥る人もいるらしい。気の毒だ。
私にとって一番好きな瞬間もある。たまに魚の缶詰やソーセージを持ってきてくれるおばあさんが来るときだ。いつも口癖で、おやおやと言いながら私に寄ってくる。その声が聞こえたときは私も、にゃーと言いながら寄っていく。おばあさんも嬉しいし、私も嬉しい。この時ばかりは持ちつ持たれつの関係であることは間違いない。
そして、時はながれ私がこの公園に来てから10年の月日が経った。私も10年の月日が経った、と言っているが間間で旅にでたりしているため、厳密には10年間公園に住み着いているというわけではない。10年間の間に、何匹ものメス猫を追っかけた。何度も、殴られてはおっかけ、殴られてはおっかけた。我ながら随分とワイルドな人生を送ってしまったものだ。
私はお気に入りのベンチに座っていた。しばらくして、目の前に丸坊主の青年が現れた。隣には可愛らしい女の子が居た。
「明日さ、野球の決勝戦なんだ」
「そうなんだ……。高校野球の決勝戦っていうことは、勝ったら甲子園ってこと?」
「まぁ、そういうことになるかな……。まぁ、決勝の相手は強豪校なんだけどね……。やっぱ私立は強いよな……」
「そんなことないよ!ケンちゃんなら勝てるよ!」
女の子は、青年を励ましているようだった。でも、どうやらその言葉は青年の耳には届いてないらしい。なにか、考え事でもしているのだろうか。
「あ、あ、あのさ……」
青年は、口をゆっくり開いて喋り始めた。
「明日の決勝戦に勝ったらさ……あの……お、お、お、」
青年は、緊張しているようだった。
「お、お、お、俺と……俺と……つ、つ、つ、」
相手の女の子は何かに気づいたようで、頬を赤くしていた。
「俺と、つ、付き合ってください。好きなんです……」
先ほどまで、仲良く喋っていたのにどうにも他人行儀な会話をしていた。人間とはよくわからないものだと思った。
「えっと……」
相手の女の子は少々考えていた。でも私にはそれは考えているフリであり、もう既に彼女の心の中では返事は決まっているように思えた。
「うん……私もケンちゃんのこと好き。ずっと好きだった。だから嬉しい。私も付き合いたい」
返事を聞いた青年は、涙を流していた。とても嬉しそうだった。
「って、泣くのは早いよ。明日の決勝戦に勝ったらでしょ?勝って私を甲子園につれっててよね」
青年は、はっとした顔をした。そう。まだ終わったのではなく始まったのだ。
「おう。明日は勝ってみせるよ。そして、甲子園に連れて行く。頑張らないとー」
青年は、大きく息を吸った。きっとこの青年だったらなんとかなると思った。いや、なんとかなってほしい、そう思うのだ。いろいろと考え事をしていると、女の子の方がわたしに気づいてこっちを見てきた。
「あ、猫だー。かわいいー」
私のあごの下をなでなでしてくれた。私は、気持ちよくて眠りそうになってしまった。
「たしかに可愛いな。って、さっきの告白を聞いてやがったのか。くー。恥ずかしいとこ見られたなぁ」
まったくだ。
「でも、可愛いよー」
なでなでは続いた。
「そういえば、俺が小学生くらいの時かな。この公園でさ、友達と喧嘩してないていたことがあってさ。そんときに猫が一匹寄って来たんだよね。なんか、泣いてる俺を励ましてくれてるみたいでさ。嬉しかったなー。そんときくらいから猫が好きになってさ。あの後、親に猫飼いたいーって、駄々をこねたの思い出したわ。」
「そうなんだ。じゃあ、ケンちゃんに取って猫は幸運の女神様なんじゃない?今しがたの告白も大成功だったようですし」
青年は、少々照れながら、そうかもな、と返事を返した。
「それになんとなく、あの時の猫に似ているような気がする。まぁ、昔のことだからあんまり覚えてないんだけどね。ははは」
二人は、手をつないで遠くの方へと歩いていった。幸せそうな二人の背中を見ていたら少し、眠くなってきたきがした。次に目が覚めたら今度はどんな人間に会えるだろうか。私は寝る前はそういう風なことを考えている。もちろん利己的な部分もあるけど、純粋に楽しみな部分もある。
さて、今日はもう寝ようかな。明日はどんな日になるのだろうか。良い日だといいな。
では、おやすみなさい。
この物語は、フィクションです。
描写力の技術の無さから、ん?と思われた方はたくさんいるかと思います。
すいません。そこは、どうか多めに見て寛大な心で見てやってください。
つまり、傍観者=ってことですので。