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第1話 別れ、旅立ち

はい、また新しいのです。

ジャンルがよく分からないのでこれ、と言うのがあれば断定してください。

「ほら、誕生日プレゼントだ」

俺は仕事帰りに買った人形を出迎えてくれた娘に手渡した。

「ありがとー、パパ大好き!」

そう言って嬉しそうな顔をする娘――真紀を見て頭を撫でる。

「お帰りなさい、あなた」

遅れて出迎えてくれた最愛の妻・美弥。

「ああ、ただいま」

ただいまのキスを交わす。

そう、今日は真紀の7回目の誕生日なのだ。





「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー。

 ハッピバースデイでぃあ真紀。ハッピバースデートゥーユー♪」


真紀がケーキに刺さった7本の蝋燭の火を吹き消した。


「おめでとう真紀」

「おめでとう、真紀ちゃん」

「ありがとう。ママ、パパ」

太陽のような笑顔を見せてくれる真紀。

「やっぱりショートケーキを買ってきて正解だったな」

「真紀ちゃんはいちごが大好きですからね」




「真紀、最近の学校は楽しいか?」

食事を終え、一段落した時に聞いた。

「うーんとね、さやかちゃんと、えりちゃんが昨日けんかしたの」

「そうなのか、それでどうなったんだ?」

「せんせいがね―――」

日常会話をするのはいつもの恒例行事みたいなもので、朝から晩まで働く中での癒しの時間の一つだ。

一軒家を買うために最大限の無理を押し通してローンを組んだ。

経済不況で厳しいながらも頑張れるのは、間違いなく娘の真紀と美弥がいるからに違いない。


「パパー、聞いてる?」

「ああ、聞いてるさ。よかったな、仲直りできて」

「うん♪」

そう、この笑顔を見られるなら俺は何時間だって働いてみせる。







「あなた、まだお休みにならないんですか?」

日付が変わる頃、美弥が2階の寝室から降りてきた。

「ああ、まだ仕事があってね」

そうですか、といい美弥はココアを淹れる。

「はい、飲んでください」

「ありがとう」

自分のものと、俺のものを持って来た美弥は俺が腰掛けているソファの隣に座った。

「無理、しすぎないでね?」

「大丈夫だ、自分の限界くらい分かってる」

「……限界まで働いちゃダメでしょう」

ボソボソと美弥が呟く。

「何か言った?」

「いいえ、独り言」

大方、俺を心配してくれたんだろう。

俺と美弥は大学時代に学生結婚をした。

俺の家系はそこそこ古くから続く旧家と呼ばれるやつだったから、猛反対を受けた。

やれ、こっちの良家のお嬢様がいいだの、そんな一般人の娘なんて……などなど。

ところが美弥はそれを全部ぶっ壊してくれた。

俺と二人きりでいるときは凄く柔らかい口調で、俺の親といるときは敬語を忘れない。

初めて俺の家に言ったときに美弥を見た俺の親は口をあんぐりとあけていたのを思い出す。

余りにも丁寧すぎて、どこからこのようなよい娘さんを見つけてきたんだだの、とにかく美弥をべた褒めしまくったのだ。

お陰で、ほぼ駆け落ち同然で結婚したはずの俺達夫婦は両親とも仲が良好なのだ。

美弥の両親は俺の親にびびっていたようだが、美弥が褒められるのを聞いていて仲良くなったらしい。

というか、最近では俺達を通さなくても普通に一緒に昼食を一緒にしているそうな。


何だその良い関係。


それはさておき、美弥の話に戻ろう。

彼女の仕事はいわゆる専業主婦というやつだ。

そこまで身体が丈夫ではないというのが大きな理由で、俺がより仕事に邁進する理由の一つでもある。

親も美弥の体調は気遣ってくれるため、そんなに俺は心配していない。

「哲弥、あのね」

考えに没頭していると美弥に声を掛けられた。

「どうした?」

「やっぱり、私も働いた方が―――」

「それはダメだ」

俺の返事も予想通りだったに違いない。このやりとりも何度か繰り返している。

「でも、佐々木さんが電話してきて教えてくれたわ。

 哲弥が無理しているみたいだって」

「そんなことはないよ。やりたいことをやってるだけなんだから」

佐々木さんとは俺の直属の上司だ。大学の先輩でもある。

同じサークルだったこともあり、美弥も俺もよくお世話になった。

結婚式のときの仲人もやってくれたくらいで、彼の奥さんにもよく会っている。

家族ぐるみの付き合いになっているのだ。


「でも……」

「わかった、今日はもう仕事はしない」

心配そうに俺を見る美弥の目を見れば仕事よりも優先事項が上になる。

「哲弥がいなくなったら、私嫌だよ?」

「俺も美弥がいなくなったら嫌だな」


「私達、ずっと一緒だよ?」

「ああ、ずっとだ」


いつもの言葉の交換。

プロポーズのときから使っているこの言葉は合言葉になっている。

互いに暗示を掛けているようなもので、効果は……俺達を見れば分かるだろう。

「さ、寝ようか。真紀をずっと一人にしちゃ可哀相だ」

「そうね、行きましょう」



部屋に戻ると真紀がベッドから落ちそうになっている。

「ああ、やっぱり」

俺はそう言って真紀をベッドの中央に戻す。

そしてその両側に俺と美弥が横たわる。

川の字だ。

「おやすみなさい。あなた、真紀」

「おやすみ。美弥、真紀」


そして俺達は眠りに就いた。










(起き……て……さい)

「……ん?」

「起きて……ださい」

「……美弥?」

「起きてください!」

「うわっ」

俺が目を開けると、真っ白な天井が見えた。

「ここは……!?」

目の前にいたのは謎の女性。

「ようやく目覚めてくれましたか」

「貴女は誰ですか?」

警戒心が跳ね上がる。

「私は神です」

「はい、神様何でしょうか」

俺の反応に戸惑ったのか、見た目に分かるくらいオロオロしている。

「その……驚かないのですね?」

「ええまあ……」

実際はもう驚きすぎて一周回って冷静になっているだけなのだが。

序に言えば、俺が勤めている会社は小説の印刷業だからという事もあるのかもしれない。

仕事柄そういう創作小説を読む機会が多いのだ。

話が逸れた。

「驚かないで聞いてくださいね。貴方の娘さんなんですが」

「何なんですか?」

真紀の事と聞いて若干真剣になる。

「このままだと、碌な死に方をしません。というか、天寿を全うできません」


「…………はい?」

「ですから、最悪貴方は真紀ちゃんが結婚するのを見ることが出来ません!」

ちょっとまて。

現在7歳になったばかりの真紀がいきなり死んでしまうなんていわれて納得できるわけもない。

「どういうことなんですか?」

だから俺が若干怒り気味なのもおかしくはないはず。


「貴方の娘さんは、特異点(・・・)なんです」

「特異点?」

「ですから、平行世界――パラレルワールドの影響が大きいんです」

平行世界が何なのかはまあ理系専攻だった俺は分かるが。

「要点だけ言うとどういうことですか?」

「平行世界の真紀さんが何らかの外的要因によって消滅した場合、全ての次元(・・・・・)にいる真紀さんが消滅します」


「何てことだ……」

信じろと言われても無理な相談だが、話している神様の真剣な様子を見ても嘘とは思えない。

「何とかならないんですか?」

「何とかなるかもしれないから貴方を呼んだのです」

「何をすればいいんですか!?」

「貴方が全ての次元の真紀さんを襲う外的要因から守ればいいんです」

俺が真紀を守ってみせる。


「何分難しいお願いだと思いますが――」

「俺、やりますよ」

「ですよね、やっぱり――え?」

「俺が真紀を助けられるならやってみせます」


「ではまず初めに、死んでいただかなければならないのですが」

「了解――ちょっと待ってください」

「何でしょう」

「この世界の真紀が守れないじゃないですか」

「ああ……それは私が保証しましょう」

「本当ですか?」

「そもそもこれはこちらの失態ですから、貴方の願いを幾つか叶えさせていただくことでお詫びするつもりだったんです」

失態、と言うところに若干疑問符がついたが詮索はしない。

「いくつまで叶えられますか?」

「4つほど」

「じゃあ順番に言っていきます」


1.真紀と美弥がこれからも幸せに暮らしていけるように守ること。

2.俺と美弥の両親も庇護下にいれてもらうこと。

3.真紀を救うために最大限の力を貰うこと。

4.二人に一言ずつ遺させてもらうこと。



「何と言いましょうか、これが親の成せる業なんですね」

女神が感心している様に見える。

「1と2は守りましょう。3は貴方次第です。4は今聞きましょう」

「わかりました」





「ほ、本当に……逝かれるんですね?」

「当然です。それでは」

涙を浮かべた女神を最後の情景に映し俺は眠りに就いた。









目覚ましが鳴り響いた。

それはいつも通りの日常の始まり。

ところがいつもは無機質なベル音が鳴る目覚ましからは声が出ていた。

美弥と真紀は目が覚めた。そしてその声を聞いた。



美弥、真紀を頼む。お前達は女神様に見守られている。俺は今から大事な仕事をしなくちゃならない。でも、俺のことは心配しなくてもいい。俺の事を忘れてくれてもいい。遠い、遠いところから二人を見ているよ。

真紀、ママの言うことを良く聞いて、楽しく生きなさい。さやかちゃんやえりちゃんもそうだけど、たくさんお友達を作りなさい。パパは忘れてもいい。ママが好きな人が出来たら応援してあげるのもいい。おばあちゃん達も大事にしてあげてね。


二人はもう一人のベッドの住人を見た。

その顔は、凄く安らかで。ただ眠っているようにしか見えない。

認めたくない。

「パパ……?」

「あなた……?」




その言葉に答えられる人は、もういない。

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