合わせ鏡の魔術師 -4-
昏闇。
どこまでも続く、昏闇。
微かな光さえも許さない、奈落のようなその闇の中に、何者かの声が響く。
『……残された時間は……?』
男の、声。
『……ふた月……いや、ひと月か……』
それに答える、男の声。
昏闇のせいで、声の主は見えない。
どこから聞こえているのかも、分からない。
『そう……』
『……あまり時間は残されてないようだね……』
複数の人間の声のようにも、一人の人間の声のようにも聞こえる、声。
『うん……もう時間は、少ない……』
それは、幼い無邪気さを孕んだ少年の声のようにも聞こえる。
『……もう、間に合わないのかな……』
頭の中に直接語り掛けてくるような声は、哀しみを帯びていて。
『……侵蝕は、待ってはくれない』
『そう、侵蝕は今も進んでいる』
……沈黙。
……。
……。
……。
……。
『……信じるしか、ない』
昏闇の中、無限に続いたようにさえ感じる沈黙が、破られた。
無邪気な、それでいて凛とした声に。
『……うん、信じるしかない』
誰かが、同意する。
『……きっと、彼なら大丈夫だよ。きっと、間に合わせてくれるはず……』
『……そう、彼なら……』
皆が、同意する。
昏闇の中の、微かな光≪きぼう≫。
『これ以上、蝕まれる前に……』
『全てが、侵蝕されてしまう前に……』
『……僕が、僕であるうちに……』
『……急いで…… … … ……』
………………。




