04 初陣
星系連合軍の艦隊は三つの艦種で構成されている
多くの反陽子砲と機動爆雷で武装し攻撃に特化した《孅滅艦》
強力な電磁防御壁を持ち文字通り艦隊の壁となる《護衛艦》
三種中、最も数多く建造され戦闘の主力である《高速戦闘艦》
イエハン統合同盟との戦争が長引きはじめた時、星系連合軍は新たな艦種の開発に着手した
それが孅滅艦から機動爆雷を取り除き、一回り小さくした第四の艦種《強襲艦》である
そして練習航行を終えたばかりの強襲艦部隊も第七艦隊のもとに向かっていた
「まもなく通常宇宙に出ます」
リンが報告した
「なんか前に知らない部隊がいるみたいだけど」
クロトが宇宙図を見ながら言った
ゴウラ星系門の外に見慣れない番号の部隊が先行している
目的地は同じようだ
「それは強襲艦ね」
ファンが答えた
「強襲艦、ですか?」
「最近出来た新しい艦種ね。簡単に言えば孅滅艦が小さくなった感じよ」
「へぇー」
「ゴウラ星系門通過、通常宇宙に出ました」
リンの声が艦橋に響くと同時に景色が灰色から黒に変わった
ここはもうゴウラ防衛線の目前である
「第七艦隊は?」
「現在も敵艦隊と交戦中です」
「第七艦隊に連絡を」
第七艦隊にこちらの所属を伝えると、すぐさま返信がきた
「さぁみんな始めるわよ」
《ラトレーニ》と他五隻の第一七九○戦隊は指示された宙域へ急行する
そのすぐ近くでは先程の強襲艦部隊がすでに戦闘を開始していた
「敵部隊を捕捉しました」
「総員戦闘準備。スメリア、お待たせ」
ファンは艦長席からスメリアを見下ろして言った
砲術士は戦闘時以外はあまり仕事はなく、時間を持て余していた
「大丈夫ですよ艦長。いつでもいけます」
「よろしい」
ファンはうなずいた
ほぼ同時に敵もこちらを捕捉したらしい
赤い輝点の集団から別れた六つの輝点が迫ってくる
第一七九○戦隊全艦は戦闘準備を完了し迎え撃つ
「有効射程まで五分」
ここから艦橋は沈黙に包まれ、リンの秒読みが進むにつれて緊張感も高まっていく
(いよいよ実戦か)
クロトの額にはうっすらと汗がにじみ、それを無意識に拭っていた
ふと横をみる
リンも緊張した表情で淡々と読み上げている
「一分」
肉眼でも敵部隊がはっきり見えるようになってきた
六つの光はほぼ横一線で近づく
「十秒前………三、二、一」
「攻撃開始!」
同時に可動砲と反陽子砲が一斉に放たれた
敵部隊の内一隻がプラズマとなって四散し消滅した
敵も負けじと撃ち返してくる
ファンは頭環の映像に集中する
敵の放った反陽子が迫る。艦を素早く横滑りさせて回避した
そのまま撃ち合いながらすれ違い、すぐさま艦を回頭させる
再び反陽子砲を放つ
敵艦に直撃、ほとんどが電磁防御壁に弾かれたが全ては防ぎきれず小さな爆発が起きた
「浅いか」
ファンは唇を噛み締めた
しかし敵艦は誘爆を続けついにはプラズマと化した
「よし」
残る敵艦は四隻
その四隻も瞬く間に撃破されていった
「こちらの被害は?」
「一番と六番が損傷、離脱しました」
「本艦は損傷なし」
「艦内環境も良好です」
「ご苦労さま、生き残ったわね」
周辺に敵はいない
宇宙図を見ても各宙域で連合軍は同盟軍を押し返し、戦局は逆転した
こうしてリンとクロトの初陣は無事に終わった
「なんとかなったね」
「うん」
二人はクロトの部屋で飲み物を片手にほっと一息ついていた
クロトは紅茶、リンは林檎茶だ
「リンはどうだった?」
「んー」
リンは少し考えてから
「やっぱ恐かったかな」
林檎茶の水面を見ながら言った
「よかった、一緒だね」
クロトは小さく笑った
「自分だけだったらどうしようかと」
「あそこで恐くない人なんかいないでしょう」
「それもそうか」
クロトは肩をすくめた
「私は自分のことで手一杯で恐怖を感じる暇もなかった」
「他の三人も必死だったね」
「あの三人は戦闘中は特に忙しいから」
その後もしばらく話していた二人はファンに呼び出されて艦橋に向かった
「艦長、お呼びでしょうか」
二人が艦橋に入った時ファンは退屈そうに椅子にもたれていた
「悪いわね、急に呼び出して」
「いえ、お話は?」
「話してないのはあなた達だけなんだけど、軍が再編されることになったわ」
同盟軍との戦争が始まり各地で激戦が続く中で連合軍は多くの兵と艦を失っていた
「今艦隊は穴だらけなのよ。そこを攻められれば第七艦隊の二の舞になってしまう」
再編成はその穴を埋めるために行なわれる
「で、再編成なんだけど……ねぇリン」
「はい?」
「あなた、艦長の適性試験受けてるでしょ」
「え、そうなの?」
今まで黙っていたクロトが驚いて言った
「うん」
「でも艦長は准尉十輝長からだし」
「一年経てば昇進試験もある。適性試験の結果だいぶよかったみたいだし、あなたならなれると思うわ」
「ありがとうございます」
その後艦隊は再編成された
人員は全員一度所属を解かれ、強襲艦を含めた新たな艦隊に配属されていった