02 迎え人
共通暦七○七年、惑星イエハンと星系連合との戦いは未だに続いていた
当初圧倒的に不利だったイエハンは、周辺星系に連合からの脱退及びイエハンとの同盟を呼びかけた
「我がイエハンに亡命してきた連合惑星の市民によれば、各惑星の自治権は保障し市民の生活は今までと変わらないと言っていた連合の言葉は全てが虚偽であり、実際は軍を降ろし武力によって市民を支配しているという!」
もちろんこれはイエハン側による策略であり、連合側は強く反発した
「今は静かでもそのうち大艦隊を引き連れて武力支配を強行するのは明らかだ!」
だが実際は連合の傘下に入ったばかりで浮き足立っている星系政府にはかなりの影響力で、イエハンの呼びかけに答え連合から脱退する星系が相次ぎ、そのほとんどがイエハンと同盟した
こうして瞬く間にイエハンを中心とする反星系連合は勢力を拡大し、≪イエハン統合同盟≫を結成し同時に星系連合に対して宣戦布告した
現在、共通暦七一○年――
惑星ファブリスは開拓以来連合軍の軍施設が多く作られ、住民の三分の一は軍人である
一般住民と軍人の居住地域はしっかりと区別され、それぞれの地域の中で全てが賄えるように店舗が作られている
そんな軍人地域の中央には宇宙港への昇降機がそびえ立ち、一度に一○○人近い人間を空に上げている
クロトは今まさにその昇降機に乗り込もうとしている
三年前、軍学校に入るためにこの星にやってきた時は初めての宇宙を経験したあとだったので妙に興奮していたのを覚えている
だが今回は違っていた
「き、緊張するなぁ」
軍学校をなんとか無事に卒業したクロトは今から配属先の戦艦に向かおうとしているのだ
宇宙港から戻ってきた昇降機が到着しクロトも乗り込んだ
扉が閉まり昇降中を示す赤ランプが点灯する
昇降機はものすごいスピードで上っているはずだが、重力制御されているため振動は全く感じない
「まもなくファブリス宇宙港に到着します」
乗り込んでから数十秒、アナウンスが入った。そして数秒後到着、扉が開く
途端に宇宙港の喧騒が耳に飛び込んでくる
宇宙港には一般住民地域からも昇降機が伸びており、広いロビーには軍人と一般住民でごった返している
人々は辺りを動き回る自走販売機から食べ物や飲み物を買い、置かれている椅子やテーブルで時間を潰す
クロトも自走販売機から飲み物を買い、近くの椅子に腰を下ろした
「ふーっ」
たいして疲れていないのに深い息を吐いたのは緊張のためか、クロトはドリンクを飲んで気持ちを落ち着ける
窓の外を見ると一般住民用の星系間旅客船と一緒に、何倍もの大きさの連絡艇が並んでいる
連絡艇は高戦艦や孅滅艦などは大きすぎて直接宇宙港に入れない
そこで連絡艇で物資や人を運ぶのだ
クロトも連絡艇に乗って配属先の戦艦まで行くことになる
しばらくすると宇宙港に一隻の連絡艇が港に入ってきた
「時間的に、あれかな?」
すると搭乗口から見覚えのある人物が出てきた
「あれって、もしかして……」
グレーの軍服を着たその人物は真っすぐクロトを目指してくる
女性のようだ。彼女はクロトの前で立ち止まった
クロトもとっさに立ち上がる
彼女は表情を変えずにクロトを見据え、敬礼をして
「クロト・シニスタ十揮長ですか?」
「は、はい。そうです」
クロトは彼女の迫力にたじろいだ
彼女はそんなクロトはお構いなしに続ける
「高戦艦から迎えに参りました。私はリン・ネフィール十揮長です」
「リン!?」
もしかしたらと思っていても本人の口から直接聞くと驚いてしまう
そんなクロトを見てリンはうつむいてしまった
「リ、リン?」
何かまずいことを言ったかと心配になったが、それが無駄な心配だったとすぐにわかった
リンの体が小刻みに震え、時折小さく吹き出している
「もう……だめ」
リンは顔を上げた途端堰を切ったように笑いだした
突然のことにクロトは呆気にとられている
「ごめんごめん。まさか、そんなに驚くとは、思わなくて」
リンは笑いすぎて言葉が続かなくなっている
「だ、大丈夫か?」
「あー、お腹痛い」
笑いがおさまると一度深呼吸をして話を続ける
「まぁ無事に会えてよかったね」
「まさかリンが来るとは思わなかったよ」
「私だって今回来るのがクロトだって聞いたときはびっくりしたんだから」
こうしてクロトとリンの三年振りの再会は無事に終了した
再会の挨拶もそこそこに二人は《ラトレーニ》に向かって歩きだした
つもる話しもあったが焦る必要はない
これからの《ラトレーニ》での生活でそんな時間はいくらでもあるのだから