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揃いのペンダント

 翌日、一枚の銅板を金細工の店へ持参した。

 金属には違いないのでどうにか頼み込む。それを眺め訝る主人だったが、創作意欲が沸いたらしく、すぐに着手してくれた。夕方ごろに顔を覗かせることを約束し、ガーベラは時間を潰す。

 太陽が水平線に沈むことに店に戻ると、豪快に笑う主人が出迎えてくれた。


「不思議な素材だねぇ、面白かったよ」

「まぁっ、素敵……!」


 出来上がった品を受け取り、感嘆する。

 戻ってきた銅板は、見事な薔薇の形にくり抜かれていた。鎖をつけ、首飾りにしてもらった。

 目を惹くそれは、評判が良い。何処へ行っても、「それは何か」と訊かれる。職人の腕がよかったので、異国の装飾品のようで注目を浴びた。

 会いに行くのを躊躇していたガーベラだが、我慢できずにその夜トランシスに会いに行った。遅れてしまったが、彼の為に誕生日の贈り物も用意して。


「こんばんは」

「……こんばんは、ガーベラ」


 溜飲は下がったらしく、トランシスは平然としている。しかし、口元に笑みを浮かべているが、瞳は笑っていない気がした。

 寒気がして、ガーベラは来たことを後悔する。だが、来てしまった以上、逃げられない。


「この間預かった不思議な板の代金よ、どうぞ」

「へ? ガーベラに返す金だよ?」


 近づいて金を渡すと、彼の瞳に光が戻った。そして、硬貨を返される。


「こうしたほうが、幾らで売れたのか解って安心でしょう? 着服していないか、私も疑われないし」


 悪戯っぽく告げると、トランシスは吹き出した。


「そんなこと思わない、ガーベラは真面目だから。アサギみたいに」

「どうかしら? 女はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ」

「こわっ」

「うふふ」


 微笑みながら、ガーベラは自分の手を擦った。

 トランシスと触れ合う機会が増えるので、計算して一旦渡したのだ。我ながら狡猾だと思うが、これくらいの褒美は許されると思い込む。戻った金を、丁寧に懐に仕舞う。


「あの板、とても好評よ。まだあるかしら?」

「そうなんだ、よかった。持って行ってよ」


 金になることが発覚したので、トランシスは銅板を数枚ガーベラに渡した。


「売れたら、報告するわね」

「ありがと、助かるよ」

「それから、これ。お誕生日の贈り物よ。お口に合えばよいのだけれど、人気のワインだそうよ」


 抱えて持ってきたワインを差し出す。小ぶりの木の樽に入っており、部屋においても見栄えが良い。

 トランシスは瞳を丸くし、それを受け取った。


「うわっ、美味そう! ありがとう、遠慮なくもらうね」

「えぇ、どうぞ。アサギは呑めないから、一人で愉しんで。私でよければ、いつでもお相手するし」

「ありがと」


 トランシスは微笑み、樽を受け取ると机に置いた。

 ガーベラの心が、泡のように爆ぜた。一緒に呑まない? と訊かれるのを心待ちにしたが、トランシスからの誘いはなかった。ソワソワと樽を見つめるが、呑む気はないようだ。

 気に入らなかったのかと、不安になった。


「では、……またね」

「うん、いつもありがと」


 居心地の悪さを感じ、パンケーキを渡して足取り重く帰宅する。高級な燻製肉を使って普段より豪華に仕上げたが、彼は気づいてくれるだろうか。

 片手を上げるトランシスに頭を下げ、ガーベラは惑星クレオに戻った。勝手に期待し落胆した自分が馬鹿だと嘆くものの、胸の首飾りを握り締めて耐える。

 報われないと分かっているのに、どうして続けてしまうのか。


 結局、加工した銅板は全てガーベラが引き取っていた。

 細工した物を売れば、金になると分かっている。だが、他人の手に渡ることを拒んだ。耳飾りに足首飾り、髪飾りに加工してもらい、全て自分の物とした。

 加工費は痛い出費だが、それを見につけているだけで幸福な気分に包まれるので満足している。

 いつしか、“トランシスから贈られた物”と錯覚していた。これは、二人だけの秘密なのだ。

 ガーベラの募る想いに拍車がかかり、ついに()()()首飾りを作ってもらった。それはとても簡素で、板の四隅を丸くしただけのものだ。

 一つを、トランシスに渡した。


「銅板が余ったから、無料で作ってくれたの。完済記念に持っておいたら?」


 そんな嘘を吐いた。


「えっ、借金返済出来たの!? あれで?」

「えぇ。これであのお洋服は、トランシスがアサギに買ってあげたことになったわね。おめでとう!」


 ガーベラは笑顔を浮かべて拍手をする。


「へぇ、ありがとう。あんなものが役に立つんだなぁ」


 トランシスは疑うことなくそれを受け取り、しげしげと眺める。


「面白みがないけど、なんにでも合いそうだ」


 早速首から下げた彼を見て、ガーベラの頬が赤く染まる。

 こっそり、服の下に()()()()()()()()()()()。そっと手を添え、晴れ晴れとした笑顔を見せた。


「そうね、今のお洋服に似合っているわ。貴方の惑星の素材だし、堂々と使って頂戴」

「うん」


 それがガーベラと揃いであることは勿論、形を変えた銅板全てをガーベラが所持していることも、トランシスは知らない。

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