開かれし扉
上空には、何体かワイバーンが浮いている。
しかし、それではない黒竜の出現にガーベラたちは悲鳴を上げた。何時の間に接近したのだろう、ワイバーンよりも確実に巨体で、眼光が鋭い。
「大丈夫です、この竜は私の友達です。とても優しく勇敢で、強い竜ですよ」
さらっと告げたアサギに、皆は面食らった。やはり、謀られたのではと勘ぐってしまう。
話によると、この竜の正体は先程までアサギの近くにいた黒髪の男だという。そんな話を信じられるか、と叫びたいのをガーベラは堪えた。
竜が人間に変化するなど、夢物語でしかない。
だが、渋々グランディーナは竜に乗ってアサギと共に去った。全てを鵜呑みにするほど馬鹿な彼女ではないが、選択肢はなかったらしい。卵を求めて館へ向かったのだろう。
残された人々は、唖然と空を見上げた。
「な、なんなの、あの子……。すっごく可愛い子だけど……。あんな綺麗な子、見たことある!? 本当に人間なの!?」
「悪い子ではないと思うけど……今は彼女を信じましょう」
キィィィィ、カトン。
ガーベラは不意に、何かの音を聞いた。アサギと名乗った少女が頭から離れないまま、何かが回転し、軋むような音を口ずさむ。
「ガーベラ、手当は?」
「大丈夫よ、怪我はない」
人々が金縛りから解けたように動き出す。
それでもガーベラは、空を見つめていた。
アサギは気さくで天真爛漫、しかし、物怖じしない度胸がある。声色は澄んでいて、容姿は非の打ち所がない。甘やかされた、引っ掛かりのない美しさで輝いていた。
「眩し過ぎる。……私とは雲泥の差ね」
とはいえ、二度と会う事はないだろう。妙に安堵し、おかしくなって吹き出す。
何者か知らないが、彼女は正義の味方。ワイバーンが卵を追って街へ侵入したので、止めに来た者。娼婦である自分とは、まるで接点がない。
脈が、通常に戻る。金髪をかきあげ、ガーベラは自嘲するように口角を上げた。
この時、向かうべき扉が開いたなどと、夢にも思っていなかった。