二分の一の帰り道
私は歩いていた
ただまっすぐにはだしのまま暗い中を
ただひたすらにまっすぐと
それがどこに届くかもわからないまま走り続けて
結局どこに行きたかったのだろうか
そんなことを考えながら思いっきり伸びをしていると椅子から転げてしまった
ゴロゴロと転がってそのまま布団にたどり着く
暑い
夏とはそういうものだと言って仕舞えばそれまでなのだがそれにしても暑い
テレビでは地球温暖化がどうとか言っているがそんなことどうでもいい
今すぐにでも地球をガラスか何かで覆って大規模な冷房計画でも建ててほしい
いやまじほんと
先ほどまで手をつけていた作文は真っ白だ
もう2時間ぐらい机にへばりついているのに
冷房もつけないで
本当に勘弁してほしい
私は諦めて本を読むことにした
本は好きだ
誰にも邪魔されないし側から見れば頭が良いかのように映る
対して頭が良くなくても見栄えだけは一丁前にしとけば大抵のことはうまくいく
今日は猫の本を読む
昔から好きだ
異世界ファンタジーで猫が魔法を使って大活躍!
なんて素晴らしいものではなく
猫とおじいちゃんのほのぼのの日常を描いた漫画だ
小説も読むが最近は眼精疲労が顕著なのでできる限り目に優しいものを選んだ
なんてことない日常
なぜだかわからないが私はそれがとても尊いことだとしている気がした
朝起きてご飯を食べて学校に行って
授業を受けて部活をして家に帰ってきてご飯を食べて風呂に入って寝る
たまに風呂に入らないこともあるが夏なので
汗臭いまま布団に入るのは流石にやめている
「ただいま〜」と妹が帰ってくる
私は返事をしなかった
めんどくさかったからだ
私は基本怠惰に生きている
極力省エネで
日々を全力に楽しんでいる人を見ると羨ましい気もするが
同時に疲れてしまう
毎日を疲れ切って終えるのは遠慮したい
「うわっお姉が転がってる」
「転がっているんじゃないねころんでいるんだ」
そう答えてもう一度本を読む
と言っても漫画だしそれは数ヶ月前に出た最新刊であるため内容はすでに知っている
いわゆる時間潰しだ
宿題をするのは面倒だし
外に出るのも
この暑さではなかなか勇気がいる
「そういえば学校から帰る時に猫にあったよ」
へえ
興味がないように相槌をする
本当は好きだ
いや大好きだ
動物は基本的には好きだが猫は特別好きだ
可愛いしもふもふしている
頭もいいし
「飼う?」
「いいねそれ」
久々に妹と意気投合した
妹は2つ年下だ
私が中学3年生だから中学1年生
ギリギリ同じ学校だ
田舎だし1つしか学校がないこともある
「どこに行ったのかな」
「餌で誘い出すか」
近くのスーパーで1番小さい猫のおやつを買う
ちょっとお高めのやつだから出費としては痛い
「おやつだよ〜」
と買ってきた高級おやつを振り翳してみる
にゃー
声がした
慌てて駆け寄ると黒い猫がいた
「お前、うちの子になるか?」
そう言いながらおやつをあげると食べたので連れて帰ることにした
名前はクロノスケだ
かっこいいだろう
家まで大人しく抱き抱えられたクロノスケはそのままお風呂でも暴れることはなかった
清潔になってとても良い匂いがする
お日様のような
後から帰ってきた両親にはこっぴどく怒られた
幸いうちのマンションはペット可だったがそういうことではないらしい
それから数日経って作文も3割程度が埋まってきた頃
ふと外にアイスを買いに出掛けて帰ってくるとクロノスけが2本足で立ち
歩き
部屋を物色していた
しかもしゃべっていた
「おやつねえな〜」
どうやら初めて会った時に食べさせたあの高級おやつが食べたいらしい
「あんた喋れるんだね」
「にゃ!!!!!」
いまさら猫のふりしたって遅いよばーか
「オイラは魔法使いなんだ」
へえ、歩いて喋れる猫が魔法使いね
情報がてんこ盛りすぎでは?
「魔法の失敗で猫に?」
「オイラは最初から猫だ!最初から歩いてしゃべれた素晴らしい猫なんだぞ!」
じゃあなんで魔法使いなのか?
「オイラの村ではその年の最も賢いものが魔法使いになれるんだ」
へえ
「すごいんだぞ!なんたって使えるのは1度きりの運がちょっと良くなる魔法なんだ!!」
ちょっとかあ・・
でも二分の一は外さないらしい
それはちょっとすごいかもしれない
でも人生で1度きりなのはなあ
「それって私が欲しいって言ったらかけてくれるの?」
「ニャン生で1度きりだぞ!そんな簡単にかけるわけないだろう!」
と言われてしまった
じゃあいいや
高級餌を返してもらおう
「そんな殺生な!!考える!!検討するから!!」
と言われてしまった
仕方ない
心優しい私が高級餌をめぐむのは至極当然のことだ
なんたって優しいからな
そんな感じで喋る魔法使いこと賢い猫との同居生活が始まった
と言っても私が家にいる時は他の家族も家にいるためほとんど喋ることはない
喋りかけられても「餌くれ」「水くれ」「おやつくれ」のどれかだ
最も賢いとはこれいかに
そんなある日
部活が長引いてしまい夜遅くに帰ることになった
優等生なので自転車でも車道を走るしきちんと電気もつける
横断歩道は降りて押して渡る
そんな私だがその日はあいにくの大嵐だった
カッパを忘れてしまったのでそれはもう急いで帰ることにしたのだがそれが悪かった
角を曲がった時にぶつかってしまったのだ
車に
ライトをつけていなかったから気が付かなかった
ドンッ
正面からきちんとぶつかって私は近くの畑に自転車ごと吹っ飛ばされた
身体中に刈り取られた稲穂が刺さっていたい
いろんなところにぶつかった
きっとあざだらけだろう
ここで死ぬのか
そう思って体が雨でどんどん重く
手足はどんどん冷えていくのを感じていたらどこからかあいつの声がした
「にゃー!」
いまさら猫ぶんなよって
そう思ってたらいつの間にか意識を失っていた
私は歩いていた
足元を見ても真っ暗で何もわからなかったがそれは確かに道だった
いくつもの分かれ道があって
私は何も情報がない中でただただ進んでいた
時には走ったりもしたかもしれない
まっすぐ進むのか
それとも違う道に行くのか
ただ元来た道に戻ることはできなかった
それだけがどうにも悔しくて
悲してくて
それでもただ選択を続けていた
ずっと2つの分かれ道だったのに
気がつけば1本の道になっていた
なんだか光が見えたような気がして
かけだした
ただ真っ直ぐに
にゃー
病院にいた
お医者さんからは奇跡だと言われた
体全体でぶつかったからどこかが特別悪くなったわけでもなく
切り取られた稲穂の残骸がクッションになってくれていたらしい
しかもたまたま海外から視察に来ていた凄腕の医者がいたらしい
あんなに痛かったのに全身打撲で1週間も入院せずに家に帰ることができた
奇跡だ
家に帰ってからクロノスケの様子が辺だ
まるで普通の猫になったみたいにこちらをじっと見ている
何か言いたいことがあるのかと声をかけてみたが何も答えなかった
周りに誰もいなかったのに
私は思い出したクロノスケが言っていた2分の1が当たるようになる魔法のこと
それを使ったらどうなるかまで教えてくれなかったけど
きっとふつうの猫に戻ってしまうんだとそう思った
私が意識を失っていた時に見ていたあれはきっとクロノスケが言っていた魔法なんだろう
二分の一を間違えない魔法
そのおかげで私はここにいる
クロノスケはもう話さないけど猫なので感情表現は豊かだ
私も察知する能力が上がった
なんでもない日常に一瞬だけいた魔法使い
私の記憶の中にしかいないけどそれでも心の支えにはなっている
いつも迷った時にあなたの選択肢は間違いじゃないんだよと言ってくれるような
そんな心強い味方ができたのだ




