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第7話「11日」

 寝台に座って、スマホの画面を見つめている。


 78%。


 お披露目の変身でLEDをフル稼働させた。その前にカメラを何回か使った。フラッシュも。到着してから二日で、7%減った。


 指が画面の上で計算を始める。電卓アプリを開く。78÷7×2。……22.28。


 「二十二日……いや、戦闘で使ったらもっと減る。LED全力だと一回で何パーセント持ってかれるかわかんないし……」


 仮にLEDを使う場面が五回あったとして。一回あたり3%消費として。78−15=63。63÷(7÷2)=18日。節約してぎりぎり18日。でも写真も撮るし、フラッシュライトも使うし。


 「……11日くらい、かな。安全に見積もって」


 11日。魔王城までの旅路が何日かかるか、まだ誰も教えてくれない。


 電卓アプリを閉じた。画面の明るさを最低まで落とす。自動ロックを30秒に設定し直す。ほんの少しだけど、これで節約になる。たぶん。ならないかも。でもやらないよりまし。


 スマホを裏返しにして寝台に置いた。画面を下にすると、通知で画面が光るのを防げる。通知なんか来ないけど。圏外だし。来るわけないけど。


 ……癖って抜けないな。


 窓辺で何かが光った。


 ティックだ。窓の桟に腰掛けて、外を見ている。四枚の翅が月光を受けて、薄い虹色に透けていた。


 「ねえ、あの大きい光は何ー?」


 指差しているのは月だった。満月に近い。丸くて白くて、ホームの蛍光灯とは全然違う光。


 「月だよ」


 「つきー」


 ティックが口の中で転がすように繰り返す。


 「つきー。きれいー。あったかくないけど、きれいー」


 LEDの光には頬ずりしたくせに、月には触ろうとしない。遠くにあるってことはわかるんだ。


 「ねえ、あの光も聖女が作ったのー?」


 「作ってないよ。月は最初からあるの」


 「ふーん。最初からあるのかー。ティックより先かなー」


 「……たぶんね」


 ティックの横に座った。窓枠が冷たい。でもいい。月を見る。知らない星座。知らない空。でも月は丸くて白い。それだけで、ちょっとだけほっとする。


 ……ベルにも妖精の相棒がいた。ギアっていう名前の、しっかり者の妖精。敵の弱点を分析してくれたり、変身のサポートをしてくれたり。ベルが泣きそうなとき、「泣いてる暇があるなら回路を組みなさい」って叱ってくれたり。


 横を見る。ティックはLEDに頬ずりして、ハンカチを盗んで、光るものに突進して、「きれいー」しか言わない。


 「……ギアはもっと頼りになったんだけどなあ」


 「ぎあー? 何それー」


 「……ううん。なんでもない」


 ティックが首を傾げる。すぐ興味を失って、また月を見る。「つきー」。


 窓の外に目を戻した。月明かりに照らされた石造りの街並み。屋根の上に見張りの騎士が立っている。聖都。今ここにいるこの街は、もうすぐ出発するらしい。あの怖い騎士と、微笑みの裏で何か書いてるシスターと、LEDに頬ずりする妖精と一緒に、魔王城とかいう場所に行く。


 ……ベル。私、ここでやっていけるのかな。


 ベルはアニメの第一話で言ってた。「やれるかどうかじゃない。やるんだ」って。かっこよかった。泣いた。三回見た。


 でもさ、ベル。あのときベルにはちゃんとしたステッキがあったじゃん。ギアもいたじゃん。変身したら空も飛べたじゃん。


 私にあるのは、レプリカのステッキと、残量78%のスマホと、アジシオだよ。


 返事は返ってこない。スマホの壁紙のベルは、いつも通り笑っている。メガネをかけた変身前の姿で、ちょっとだけ不安そうな目をして、でも笑っている。


 ……そっか。ベルも不安だったんだよね。アニメの第一話の前半、めちゃくちゃ震えてたもんね。


 スマホを裏返しのまま、寝台に横になった。石壁の天井を見上げる。


 残り78%。11日。


 目を閉じる。明日のことは、明日考える。

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