だって仕方なかったんだと言い訳する婚約者に傷ついたので、隣国で騎士団長と幸せになりました
だって仕方が無かったって、婚約者をないがしろにした男って許せないと思いません?後から理由を言われたってなんだかな。
アイフェリーナ・アルドス伯爵令嬢はそれはもう、可愛らしく美しい令嬢だ。
金の髪に青い瞳で、幼い顔立ちは17歳という歳の割にはもっと幼く見られるそんな令嬢だ。
アイフェリーナにはマルディス・ロイド伯爵令息という婚約者がいる。
金髪美男の彼との婚約は、アルドス伯爵家とロイド伯爵家の政略で結ばれた婚約。
アイフェリーナは、マルディスの事をあり得ない男だと早々に思った。
学業が忙しくて暇がない事を理由に、アイフェリーナと全く交流を持とうとしないのである。
王立学園は男女が全く別の校舎で、顔を会わせることがないのだ。
マルディスは休みも多忙らしく、会う暇がないと。
マルディスの顔を見たのは、婚約を結んだ時だけである。
初めて会った彼は美男だったなぁという印象で、彼は予定があるとかで、ゆっくり話す機会もなかった。
結婚するのよ。政略だとしても、相手の性格を知りたいじゃない?
そう、アイフェリーナは思ったけれども。
全く交流が無いのである。
友人に相談したら。
「そういう男は、仕方がなかったから、って先行き済ますタイプじゃないかしら。政略だから結婚するしかないと思うけれども、大変だわね」
と同情された。
手紙一つある訳でもない。
あまりにも酷い対応に、直接、マルディスに会って文句を言おうと、ロイド伯爵家に伺っていいか使用人に手紙を持たせた。
手紙の返事は、
「多忙で会う暇がなくて申し訳ない」
まさにそれだった。
あまりにも変なので、使用人に頼んで調べて貰った。
どうもロイド伯爵家の派閥のトップにいるアルバン公爵家の公爵令嬢と頻繁に一緒にいるというのだ。
彼女の名はディアナ・アルバン公爵令嬢。
学園では他のクラスだが、廊下ですれ違ったことがある。
アイフェリーナの家のアルドス伯爵家とは違う派閥だ。
今回、事業の関係で違う派閥だが、手を組む必要があったので、結ばれた婚約。
ディアナは黒髪の凄い美人で、マルディスの事を気に入って連れ回しているとの事。
苦情を言いたい。わたくしの婚約者よ。
でも、苦情を言ったら、マルディスの、ロイド伯爵家の迷惑になる。
アイフェリーナは思った。
どうしようもない事情だから、君に会えなかった。
どうしようもない事情だから、君に手紙も書けなかった。
そういう理由で交流がないなんて、女として許せない。
事情って何よ。その間、わたくしは傷ついているのよ。
それなのに、どうしようもない事情だからって、マルディスは会いに来ない。
手紙も寄越さない。
そりゃ政略での婚約者なのだから、愛情の一つもないわよね。
ディアナの機嫌を損ねたくないのだから、わたくしに会いに来ない、手紙も寄越さない、
わたくしだって、一度会っただけの貴方なんて、愛の欠片もないわ。
それなのに、結婚しなくてはならない。
でも、受けた傷は深いのよ。
わたくしは、どうしようもない理由だからとわたくしに取った態度を一生許さない。
許さないわ。
やっと、交流が持てたのは、婚約して一年経ってから、王立学園を卒業間近で結婚式が近づいてからであった。
マルディスはにこやかに、
「やっと、ディアナ様がご結婚される。私は自由の身だ。今まですまなかったね。私がマルディス・ロイドだ。君と交流を持つことはディアナ様の機嫌を損ねてしまうから出来なかった。これからは沢山、交流を持とう。君と私は結婚するのだから」
そう言われた。
でも、その頃にはアイフェリーナの心は冷え切っていた。
今更、何よ。
この人は、もし、ディアナ様が不倫しましょうとなんて言ったら、逆らえないからって不倫するんだわ。
わたくしをどれだけ傷つければすむと言うの。
だったら、わたくしは‥‥‥
「わたくし、隣国へ行くことに。結婚式は三か月後でしたわね。なるべく早く戻ってきますわ」
「え?今?支度とか色々とあるだろう?」
「仕方が無いのです。わたくしのデザインした指輪が隣国の皇太子妃様の目に留まって、色々なデザインを見せて欲しいって言われたのですわ。なるべく早く戻って参りますから」
この男との結婚式の支度なんてしたくない。
隣国の皇太子妃様と親しくなった。留学中に色々と案内してあげたら、気に入られたのだ。
キアラ皇太子妃様。
アイフェリーナは王立学園を卒業したらすぐに、隣国へ渡った。
三か月後に結婚式が控えているのに。
指輪の新たなデザインをキアラ皇太子妃様の為にしたり、色々と忙しくしていたら、あっという間に二か月過ぎてしまった。
手紙が来て、両親からいい加減に戻って来いと言われた。
だから手紙に書いてやった。
―わたくしが指輪のデザインで成功すれば、いずれはアルドス伯爵家の事業に役立つでしょう。誠にすみませんが、ロイド伯爵家との婚約を解消して頂けませんか―
両親から、叱られる手紙が来たが、婚約は無事、解消された。
一週間後に、来客が現れた。
マルディス・ロイド伯爵令息だ。
「婚約解消ってどういうことだ?」
「仕方ありませんわ。わたくし、指輪のデザインをずっとやりたかったの。皇太子妃様に認められて。わたくし、この国で生きていきます。我がアルドス伯爵家の為にもいずれ役に立ちますわ」
「うちの事業はどうなんだ?」
「貴方とわたくしが結婚しないとならないのでしょうか?婚約は解消されたのでしょう。手紙で書いてありましたわ。貴方の態度が悪かった慰謝料と、事業提携解約で被るロイド伯爵家の損害と相殺されると。両家の話し合いで結婚しなくてよくなったのでは?」
「だって仕方なかったんだ。ディアナ様にかまけて君との交流を行ってこなかった事は謝る。だから再び婚約をしてくれないか?」
「わたくしの心はどうなるのです?貴方がわたくしを無視してきた期間に傷ついた心は。貴方に対する信頼はなくなりました。二度と許さないわ。だから貴方とは婚約解消致します。
信頼できない人と結婚は出来ません。そもそも、わたくしと結婚しなくても貴方、困らないでしょう」
「いや、確かに困らないが」
「なら、良いではありませんか」
だって仕方なかったんだ。だなんて言い訳をする人なんて大嫌い。
わたくしは、言い訳をしない信頼できる人と、幸せになりたいの。
マルディスに背を向けた。
後悔なんてしない。後悔なんてしないわ。
隣国でキアラ皇太子妃に気に入られたアイフェリーナ。
「アイフェリーナの作る指輪はどれもデザインが素敵で。でも、ずっと結婚しないのはどうかと思うの。わたくしが貴方に合う人を紹介してあげるわ」
「ドットベルトだ」
髭の生えているでかい男が現れた。
歳はアイフェリーナより10歳年上の29歳。
歳よりも上に見えるのは老け顔のせいか。
キアラ皇太子妃は慌てたように、
「タイプじゃなかったら断ってくれてもいいのよ。彼は我が帝国の騎士団長なんだけど、なかなか良い結婚相手に恵まれなくて。とても真面目でよい男よ」
「ドットベルト・アッテムだ」
バっとドットベルトは跪いて、アイフェリーナを見上げた。
「俺は今まで仕事に忙しくて、結婚を考えてこなかった。だが、いい加減、結婚したくなった。だって仕方なかったんだ。だなんて言い訳をする奴が嫌いだそうだな。俺は言い訳なんてしない。言い訳をするくらいなら、頭を下げて謝る。それが男というものだ。当然だろう」
「は、はい。そうですわね」
「だから、俺との付き合いを考えて欲しい。アイフェリーナ嬢。び、美人だな」
真っ赤になったドットベルト騎士団長。
彼が可愛いとアイフェリーナは思った。
「貴方が言い訳をしない方なら考えてもよくてよ」
「言い訳はしない。言い訳は。だって仕方なかったんだなんて男の風上にもおけん」
ドットベルトと付き合う事になった。結婚を前提に。
ドットベルトは無骨な男だったが、忙しい合間を縫って、必死に会いに来てくれた。
「うおおおおおっ。アイフェリーナ嬢。会いに来たぞ。ああ、空の月も霞む位に、日の光も霞む位にアイフェリーナ嬢は美しいっ」
アイフェリーナの住む街の家の前で、ドットベルトは叫ぶので、近所で評判になった。
アイフェリーナはドットベルトと、デートをした時に、道を歩きながら、
「わたくしね。寂しかったの。王立学園時代に、婚約者に見向きもされなかった事を。だって仕方なかったんだって言われたの。確かに仕方ないわよね。派閥のトップの令嬢に付き合えと言われたら。でも、わたくしは傷ついた。婚約者で、いずれは結婚するなら、ドキドキするじゃない?恋人らしく過ごしたいじゃない。それなのに、あの人は、全く無視をして、交流も出来なくて。傷ついて悲しくて。だから、わたくしは一生許さないと思った。傷ついた心が泣いているの。今も泣いているのよ」
ドットベルトが手を握り締めてくれて。
「相手の仕方なかったんだという理由も解る。解るが、アイフェリーナ嬢の傷ついた心を相手を思いやったのだろうか?悲しかったな。辛かったな。俺はアイフェリーナ嬢を悲しませたりはしない。一生幸せにする」
そう言って熱烈にプロポーズをしてくれた。
とても嬉しかった。幸せだった。
二人は半年の付き合いを経て結婚した。
後に、アイフェリーナの母国と、この帝国と戦になった。
騎士団長としてドットベルトは騎士団を率いて、戦いに赴いた。
「俺は仕方なかったんだという言い訳は言いたくない。手紙を書く。毎日書く。必ず戻って来る。俺はいつでもアイフェリーナの事を思っているぞ」
「有難う。お帰りをお待ちしているわ」
最初の頃は、頻繁に届いていた手紙も、だんだん届かなくなった。
帝国と、王国との戦は長引いていた。
王国に残して来た両親の事が気にかかる。
でも、屋敷でドットベルトや両親の無事を祈るしか出来なかった。
一年後に、戦が終わった。
両国で戦は激戦を極め、沢山の人が亡くなった。
ドットベルトがそれでも生き残って戻って来た時に、アイフェリーナは泣きながら駆け寄った。
ドットベルトはその前に地に両手をついて頭を下げた。
「仕方なかったんだという言い訳なんて、俺は言わない。手紙を書けなくて申し訳ない。寂しい思いをさせて申し訳ない。俺は沢山の仲間を死なせてしまった。本当に申し訳ない。生き残ってしまって申し訳ない。ああ、アイフェリーナ。それでも君に会えたことを喜ぶ俺は愚かだろうか?」
アイフェリーナはドットベルトに近寄って抱き締めた。
「貴方に会えて嬉しいわ。よく帰って来てくれたわね。謝らないで。愚かではないわ。貴方の事を愛している。愛しているわ。会えて嬉しいのよ」
涙がこぼれる。
再びドットベルトと会えた。とても嬉しかった。
王国の両親は無事だとしばらくたって手紙が来た。
両親が生きていてくれてよかった。
ドットベルトが、
「王国は荒れている。君の両親も大変だろう。我が家へ呼んだらどうだ?」
と言ってくれた。
両親を呼ぶことにした。
キアラ皇太子妃と久しぶりに会ってお茶をした。
キアラ皇太子妃は、
「ドットベルトのお陰で我が帝国が勝利したけれども、沢山の人が亡くなったわね。戦はもうこりごりだわ。そうそう、マルディス・ロイド伯爵令息って、貴方の元婚約者だったわね」
「ええ、マルディスがどうかしたのですか?激しかった戦で亡くなったとか?」
「それがその‥‥‥彼、戦に出るのも嫌がったらしくて、ディアナ・アルバン公爵令嬢、いえ、アルバン公爵令嬢は王国の第二王子に嫁いでいたわね。彼女と不倫していたらしくて。
さらわれたそうよ」
「話が飛んでよく解らないんですけど」
「ほら、あの変…辺境騎士団。屑の美男をさらうという。彼らは金髪美男が特に好きらしいわ。屑認定されたのかしら」
アイフェリーナは思った。
「だって仕方が無かったんですわ。屑認定されてしまったのですもの。さらわれて当然ですわ」
そう言ったら、キアラ皇太子妃に笑われた。
今となっては、まぁ、派閥のトップのディアナ様に逆らえなかった気の毒には思えるけれども、でも不倫までしてねぇ‥‥‥それに、わたくしの心の傷は消えないのよ。
いまだにきっと‥‥‥
愛しいドットベルトと共に、屋敷の庭のテラスでお茶を飲む。
「ドットベルト様。お子が欲しいですわ。貴方との子が」
「ああ、アイフェリーナに似た子が欲しいな。俺に似たら可哀そうだ」
空は抜けるように青い。
愛しい夫と共に空を見上げるアイフェリーナであった。
後に、アイフェリーナはドットベルトとの間に、三人の男の子に恵まれた。
ドットベルトは子を可愛がり、帝国の騎士団長としてしっかりと王国ににらみを利かせて、二度と王国との間に戦は起こらなかった。
アイフェリーナは騎士団長夫人としてしっかりとドットベルトを支え、二人は子供達と幸せに暮らした。
子供達に、アイフェリーナは、
だって仕方がなかったんだと言い訳をする大人になるんじゃないわよ。と常々言い聞かせていたと言われている。
とある変…辺境騎士団
「やった。屑の美男ゲットだ」
「しかし、金髪美男多いな。金髪美男ハーレムだな」
「ハーレム♪ハーレム♪」
「さぁ、新たな美男を探しに行くぞ」




