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第9話 魂で創ったシナリオは具現化する


「それは容認できない」


よく知った声が聞こえて、三人は、ぱっと振り向いた。

そして目を見張ると、同時に叫んだ。


「先生!!」


 小羽は、コック姿だったが、変装はしていなかった。

 もう隠すつもりがないからだ。

 予期せぬ事態に三人は驚いたが、王子たちは顔をしかめた。


「人の魂を奪うつもりなら、協力しない。モデルにするイコール魂の奪取だ。魂で創ったシナリオは、具現化する。畑中の親御さんを死なせるわけにはいかない。生徒を殺人犯にするわけにもいかない!!」


 三人は、何の事かさっぱり分からず、目を丸くして聞いていたが、ロトンが舌打ちして毒づいた。


「ほら、みろ、裏切った。魂ごときで騒ぎやがって。どうせ腐った脳みそだ。死んでくれた方が、歩佳あゆかって子も喜ぶんじゃねーの?」


 ロトンが言い終わった瞬間、優子が非難を浴びせた。


「喜ぶわけないでしょう?優しい子だって言ったでしょう!何の事だか皆目分からないけど、もしも私たちが殺人犯になれば、間接的に歩佳もそうなるわ。お義母かあさんの事は、歩佳から聞かなければ、知らずに済んだ話だもの」


 憤慨する優子を見て、小羽が落ち着いた声音で話した。


「おまえたちに非はない。誰にも非はない。アイドルは、運命のつなぎで、本物の胸キュンと出会うまでの、仮の胸キュンだ。人によって程度も違う。熱狂的な分だけ、本物の胸キュンが大きい。仮に、畑中のお義母かあさんが大怪我をして入院したとする。その時、大好きなアイドルが駆け付けてくれるか?違うだろう?自分の娘の、歩佳だ。そこで、ようやく目が覚める。誰が一番大事か分かるだけじゃない、新しい絆が生まれる。冷酷な継母が、優しい母親に変わる瞬間だ」


 蓮華は、小羽の話を誰よりも熱心に聞いていた。

 モデルにしようと言い出したのは、蓮華なのだ。


「本物の胸キュンと出会う瞬間は、人それぞれだ。何年もマーメイドに恋をしていた男に、突然彼女が出来た。どちらが大事になる?彼女だろう?男は、運命の胸キュンを手に入れた。運命の相手と出会うまでの繋が、アイドルだ。繋は、人それぞれ違うけどな。漫画おたくやアニメおたく色々いるだろう?とにかく、お義母かあさんを悪く思ってやるな。アイドルという届かない相手を好いているからこそ、深まる絆も、近付く運命もある。全ては天の采配だ」


 話し終えた小羽を見て、蓮華が言い難そうに、しかし言葉を紡ぐように話した。


「私も優子と同じで、胸キュンとか魂とかの話は、よく分からないけど、一つだけはっきり分かる。誰かの運命を邪魔する権利なんかない。仮の胸キュンが誰にでもあるなら、悪役にもあるんでしょ?誰かの大事な胸キュンだから、悪く言うのは絶対に間違ってるし、歩佳を傷付けていい理由にもならない。乙女ゲームの中の令嬢の分だけ胸キュンがあるなら、悪役にだって、きっと運命の胸キュンはある。だから、乙女ゲームに悪役令嬢はいらない」


 最後きっぱりと言い切ったが、ショーンが鼻で笑った。


「ははっ、随分いい子だねえ。でも、魂を奪ってあげる方が親切だよ。さっきロトンが言った事もう忘れた?どうせ妖魔に取っ捕まるんだ。本物の胸キュンと出会うまでに疫病神を呼び寄せるから、終わりだよ。罵倒する人間は反省なんてしないから、綺麗な心に戻れない。折角なら有効活用しなくちゃ。汚れた魂は多ければ多いほどいい、君の案は最高だよ。誇りに思いなよ。君は、胸キュン王国に貢献してくれた。貶す人の数だけ、胸キュンはある。仮の胸キュンがダメって言われてないし、胸キュンを奪ったら、どうせ死んじゃうから。明日から、ファンが減っちゃうね」

 

 ショーンは口元に微笑を浮かべていたが、見ればゾッとするような冷たい目をしていた。


「減っちゃうねって、減らそうとしてるのは、あなたでしょ!胸キュンを奪ったら、どうせ死んじゃうって、死なせようとしてるのは、あなたじゃない!」


 夢叶が、大声を上げて責め立てた。


「蓮ちゃんは、いい子よ!腹黒いあなたと違ってね!罵倒する人間だって反省するかもしれないのに、綺麗な心に戻れないって決めつけないで!有効活用とか言わないで、人間は物じゃない!汚れた魂は多ければ多いほどいいって、失礼すぎる!きっと一生懸命なだけよ。誰にだって、優しい心はあるわ。毎日頑張り過ぎて、周りが見えないのよ。胸キュン王国って何?貢献したつもりないけど?」


 ショーンは、質問には答えなかった。

 ミロンとロトンも、教える気はなかった。


「この一件は、泥棒学会に報告させて貰うよ」


 ミロンの一声で、三人は、はっと我に返った。


「羽ちゃん先生、普通に喋れたんだね」


 夢叶が、悲し気な眼差しを小羽に向けた。

 小羽は、非難と軽蔑の眼差しも受け止めた。

 小羽は、先まで六人の会話を調理場で息をひそめて聞いていたが、歩佳の母親の話が出た時、覚悟を決めたのだ。

 黒い丸眼鏡を調理台に置いて、赤いカツラをゴミ箱に捨てると、先生に戻った。

 ミロンに睨まれても、小羽は怯まなかった。


「好きにすればいい。胸キュンの一部奪取と聞いたから手を貸した。魂ごと胸キュンを奪うつもりなら、手は貸せない。生徒の保護者なら猶更だ。僕は、泥棒妖術師だけど、教師でもある。教師は、綺麗ごとを言うのが仕事だから、言わせて貰う。変われない心もあれば、変われる心もある。それが、天の采配だ。誰にでも、本物の胸キュンを手に入れるチャンスは必ずある」


 揺らがない瞳が、ミロンを射抜いた。


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