第7話 執事カフェは、大失敗
「最後にもう一度、確認するよ」
『念には念を入れて』が、モットーのミロンは、メニューを片手に持って、三人に確認した。
「ロトンのターゲットは、榎下蓮華で、ショーンは、丘咲夢叶。僕は、坂本優子で、小羽は、調理場をよろしくね。小羽の情報では、文化祭とやらで一番人気なのは、執事カフェらしいから、シナリオは完璧だよ。力作といっても過言じゃない。今回の三人は、サンプルみたいなものだから、くれぐれも胸キュンを採り過ぎないように!特に、ショーン、気を付けるのは君だよ、いいね?」
頷いた三人を満足そうに見遣って、ミロンは、締め括った。
小羽は、罪悪感を胸に抱きながらも、これが任務なのだから仕方がないと、自分に言い聞かせて調理場に戻った。
スリービューティーズに見つかった時に備えて、変装はしている。
コック姿で、黒い丸眼鏡をかけ、赤いカツラを被っていた。
「余計目立つだろ!」
ロトンは叱ったが、ショーンが笑って援護した。
「いいじゃない、赤毛。似合ってるよ。僕は、良いと思う」
ミロンは、どちらでも良かったので、スルーした。
「小羽、僕たち、君のドジを心配してたんだけど、成功させてくれて嬉しいよ。台風を丸ごと持って来るなんて、大したものだね。それも、時空の移動まで出来るだなんて思わなかったよ」
ミロンは、先程、小羽の腕を認めて、素直に褒めた。
褒められると、小羽は、少しだけ気持ちが上向いて、罪悪感を拭い去る事に決めたのだ。
(悪く思わないでくれよ。生活が、かかってるんだ)
王子たちの計画は、完璧だった。
少なくとも、三人は、そう信じ込んでいた。
けれど、完全に乙女心を見くびっていた。
そんな簡単に、乙女心は、起動しない。
執事カフェの扉が開いて、ドア上のベルが、カランカランと鳴った時、三人は、背筋をピンっと伸ばして口を揃えた。
「いらっしゃいませ」
三人は、微笑んで迎えた。
蓮華、夢叶、優子の三人は、ずぶ濡れになっていた。
ミロンが、真っ白なバスタオルを差し出したが、優子が、怪訝な目つきで、ミロンを見上げて聞いた。
「これって、お金取りますか?」
「え?」
ミロンが、目を丸くすると、今度は、蓮華が、喋った。
「外国では、チップ取るじゃん。三人とも、どう見たって、日本人じゃないし。はい、どうぞって言われて、はい、どうもって受け取るほど馬鹿じゃないわよ」
スリービューティーズの機嫌は、最悪だった。
優子と蓮華が話す間に、夢叶は、店内に、さっと目を走らせたが、手厳しく言った。
「表の看板に、執事カフェって書いてあったけど、どう見たって、古民家カフェだよ。外観は、レンガ造りなのに。しかも、あのソファ、一つだけ西洋風って、何で?執事も三人しかいない。これって詐欺だよね?」
ミロンとショーンは、呆気に取られたが、ロトンは、バカバカしくなって早々に匙を投げた。
「おい、やっぱ、ダメだったじゃねえか!あいつに聞いたのが、そもそもの間違いだ。こんな小娘、相手にできるかよ。おまえら二人で、適当に口説けよ」
怒鳴るような大声を張り上げて、ロトンは、一つしかないソファにふんぞり返った。
それを見たショーンも、ネクタイを片手で緩めて宣言した。
「それなら、僕も、おーりた!だってさあ、好みの子いないもん。おなかすいたから、ケーキ食べてこよ~」
そう言うと、さっさと調理場へ行ってしまった。
「口説く理由って、何ですか?」
優子は、鋭い目つきで、ミロンを見つめた。
「それは」
ミロンは、何とか言い訳を捻り出した。
「実は、僕たち、日本の女子高生が、どういう時に胸キュンするのか知りたくて、執事カフェを真似てみたんだよ。残念な事に、うまくいかなかったけどね。でも、手厳しい助言、感謝するよ。この失敗を、次にいかせるように努力するよ。良かったら、雨があがるまで、ゆっくりしていって?このバスタオルは、サービスだから。何か、温かい飲み物を持って来るね。これも、御礼だよ」
(計画は失敗だ。この子たちを帰したら、次のターゲットを選ぼう)
ミロンが、そう考えた時、三人が、笑顔で話し掛けて来た。
「最初から、そう言ってくれれば、疑わずに済んだのに」
「そういう事なら、手伝うけど?」
「なんか面白そうだね」
優子と蓮華、夢叶の三人は、すっかり警戒心を解いて、バスタオルで髪を拭いていた。
「手伝う?何を?」
ショーンが、パフェを片手に持って、食べながら歩いて来た。
「最初に、自己紹介をした方が良さそうね」
優子が、自然な笑みを浮かべたが、三人の王子は、(知ってるよ)と、心の中で同時に思った。
「私は、坂本優子。こっちは、榎下蓮華。その隣が、丘咲夢叶。ファーストネームで呼んで下さっても構いません。ね?」
優子が、二人に同意を求めると、蓮華と夢叶が、同時に頷いた。
ミロンは、名前を聞き終えると、今度は、自分たちの自己紹介をした。
「僕は、ミロン。長男だよ。ソファにふんぞり返ってるのは、弟のロトン。ちょっと口が悪いけど、性格は悪くないよ」
その紹介が気に入らなかったロトンは、立ち上がって文句を言った。
「口が悪いってなんだ!俺は、正直なんだよ!」
ミロンは、ロトンを無視して、末っ子のショーンを紹介した。
「あっちは、ショーン。甘い物が大好物でね。君たちにも、作って来ようか?」
聞かれて、三人は、目で会話した。怪しいカフェである事は間違いない、流石に、飲食物は危険だ。三人は、小さく頷いて、断った。
「私は、いりません」
「私も、いらない。さっき、ポッキー食べたし」
「私も、特にお腹空いてない」
ミロンは、警戒されている事に気付いたが、口元に微笑を作って言った。
「そっか。お腹が空いたら、いつでも言ってね」
内心、ミロンは、苛立っていた。この娘たちを選んだ小羽に恨みすら抱いた。
それを察したショーンが、三人の前に進み出て聞いた。
「ねえ、手伝ってくれるって何を?」
聞かれて真っ先に、夢叶が、答えた。
「胸キュンさせたいんだよね?だったら、乙女ゲームの悪役令嬢ものに限る!」
「それは、夢叶の趣味でしょ?皆が皆、そうじゃないわ。とりあえず、シナリオを考えませんか?私は、執事服を生かして、お嬢様とのラブストーリーがいいと思います」
優子は、夢叶に反論した後、王子たちに自分の案を述べた。
すると、蓮華が、反対した。
「いや、それって、ありがちじゃん。執事とお嬢様って、最近はもう、お腹いっぱい。もっと他の案ないの?」
「待って、蓮ちゃん!」
今度は、夢叶が、反対した。
「執事とお嬢様ものって、絶対うけるよ。ありがちなテーマとかないよ。ようは、面白い内容を作れるかどうかが、問題なんだから。そうだよね、優ちゃん」
話を振られて、優子は、自信ありげに頷いた。
「そうね。今度は、きっと上手くいくわ」
スリービューティーズの会話を聞きながら、三人の王子は、(ややこしい事になった)と、心の中で同時に嘆いた。




