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雷鳴に咲く紫電の復讐

作者: 紅月リリカ

雷魔法をテーマにした悪役令嬢ものを書いてみました。異母妹に陥れられた主人公が、雷の力で華麗に復讐を果たす物語です。読んでいただけると、きっと胸がスカッとしていただけると思います。

王宮の大広間に、夜の嵐が響いていた。


雷鳴が轟くたびに、天井の豪華なシャンデリアが微かに揺れる。


その光の下で、セレスティア・フォン・アストレアは毅然と立っていた。


「セレスティア・フォン・アストレア!」


アルベルト王子の声が広間に響く。金髪碧眼の美しい王子は、しかし今のセレスティアには偽善者にしか見えなかった。


「貴女はリリア様に嫉妬し、毒を盛ろうとした大罪人です!」


王子の隣で、リリアが涙を浮かべて俯いている。


栗色の髪に緑の瞳、可憐で儚げな美貌。


誰が見ても守ってあげたくなるような少女だった。


そして誰もが、プラチナブロンドに紫の瞳を持つセレスティアを冷酷な悪役令嬢だと信じて疑わなかった。


「私は何もしていません」


セレスティアは静かに言った。


だが、アルベルト王子は首を振る。


「証拠もあります。貴女の部屋から毒薬の小瓶が見つかった」


「それは罠です!」


「まだそんなことを」


王子の声に怒りが滲む。


セレスティアは振り返った。


大広間の隅に立つ父、アストレア公爵の姿を見つめる。


「お父様......」


しかし、父は視線を逸らした。


その冷たい態度に、セレスティアの胸が締め付けられる。


「婚約破棄を宣言します」


アルベルト王子の宣言が響く。


「そして貴女を王国から追放します!」


大広間にいた貴族たちがざわめいた。


追放。


それは社会的な死を意味していた。


セレスティアは唇を噛み締める。


雷鳴が一際大きく響いた時、衛兵たちが近づいてきた。


「行きましょう、セレスティア様」


衛兵の言葉に、セレスティアは最後にリリアを見つめた。


リリアは悲しそうな表情を浮かべていたが、その瞳の奥に一瞬、勝利の光が宿ったのをセレスティアは見逃さなかった。


* * *


馬車が王都を離れていく。


窓から見える景色が段々と見慣れないものに変わっていく中、セレスティアは目を閉じて過去を振り返っていた。


三年前の夏。


父が突然、一人の少女を屋敷に連れてきた。


「セレスティア、彼女はリリアだ。今日から我が家で暮らすことになる」


リリアは当時十四歳。


セレスティアより一歳年下の、か細い少女だった。


「よろしくお願いします、お姉様」


リリアの挨拶に、セレスティアは心から微笑んだ。


「こちらこそ。何でも聞いてね」


だが父は、リリアについて多くを語らなかった。


「平民の出だが、事情があって引き取った」


それだけしか教えてくれなかった。


セレスティアは気にしなかった。


妹ができたことが嬉しくて、リリアの世話を焼いた。


ドレスを一緒に選んだり、刺繍を教えたり、社交界のマナーを教えたり。


リリアは素直で従順で、セレスティアを慕ってくれているように見えた。


「お姉様、ありがとうございます」


そんなリリアの笑顔を見るのが、セレスティアは好きだった。


しかし、時間が経つにつれて異変が起き始めた。


リリアは社交界にデビューすると、瞬く間に人気者になった。


「リリア様はなんて優しいお方なの」


「あの慎ましやかさ、見習いたいわ」


そんな声が聞こえ始めた。


そして同時に、セレスティアへの視線が変わっていく。


「セレスティア様は少し高慢なところがあるわね」


「リリア様と比べると......」


比較され、貶められる。


それでもセレスティアは耐えた。


リリアが幸せそうにしているのを見ると、自分の居心地の悪さなど些細なことに思えたから。


転機は一年前。


アルベルト王子との婚約披露パーティーでのことだった。


セレスティアがトイレから戻ると、リリアが王子と親しげに話していた。


「リリア様、貴女は本当にお優しい」


「そんな、王子様こそ......」


二人の間に流れる甘い空気。


セレスティアは足を止めた。


その夜から、アルベルト王子の態度が変わった。


セレスティアに対して冷淡になり、ことあるごとにリリアと比較するようになった。


「リリアはいつも他人のことを考えている。君も見習ったらどうだ」


「リリアなら絶対にそんなことは言わない」


セレスティアは困惑した。


自分が何を間違えたのか分からなかった。


そして今回の毒殺未遂の濡れ衣。


リリアが倒れ、セレスティアの部屋から毒薬が見つかった。


状況証拠は完璧だった。


まるで最初から仕組まれていたように。


馬車が大きく揺れ、セレスティアは現実に引き戻された。


外では相変わらず雷が鳴り続けている。


セレスティアは自分の手を見つめた。


手のひらに、微かに紫の光が宿っているのが見えた。


アストレア家に代々伝わる禁呪の血筋。


雷魔法の力。


母から受け継いだこの力を、セレスティアは誰にも話したことがなかった。


「いつか、この力で......」


セレスティアは呟いた。


そして拳を握り締める。


真実を明かすその日まで。


* * *


辺境のバルドー領に到着したのは、追放から三日後のことだった。


雨は止んでいたが、曇り空が重く垂れ込めている。


領主のバルドー伯爵は初老の男性で、セレスティアを温かく迎えてくれた。


「アストレア公爵のお嬢様をお迎えできて光栄です」


「ご迷惑をおかけします」


セレスティアは頭を下げた。


この領地で、ひっそりと暮らしていくつもりだった。


だが、運命は思わぬ形で動き出す。


それは到着から一週間後の夜のことだった。


バルドー伯爵の息子、ロドリーゴが酒に酔って帰ってきた。


セレスティアが図書室で本を読んでいると、廊下で大声が響く。


「俺はもう耐えられない!」


ロドリーゴの声だった。


「あんなことをしたなんて......」


セレスティアは本を置き、そっと扉に近づいた。


「リリア様から金貨を受け取って、あの毒薬の小瓶をセレスティア様の部屋に置いたのは俺だったんだ!」


セレスティアの心臓が大きく跳ねた。


「でも、もう罪悪感に耐えられない!あのお方は何も悪いことをしていないのに!」


「ロドリーゴ、声が大きいぞ」


父親の声で、ロドリーゴは黙った。


セレスティアは震える手で扉の把手を握った。


真実。


ついに真実の一端が明かされた。


だが、これだけでは足りない。


もっと決定的な証拠が必要だった。


セレスティアは密かに調査を始めた。


そして三日後、バルドー伯爵の書斎で決定的なものを見つけた。


リリアからロドリーゴに送られた手紙の写し。


『計画通りに事を運んでください。セレスティアが王都を去れば、私の地位は安泰となります』


さらに、別の手紙も見つかった。


リリアが各地の貴族に送った手紙の写し。


そこには「セレスティアを社交界から追い落とすための計画」が事細かに記されていた。


貴族たちの弱みを握り、セレスティアの悪評を広めるよう指示する内容。


そして最後に見つけたのは、父宛ての手紙だった。


『アストレア公爵様。私の出生の秘密を黙っていてくださり、ありがとうございます。でも、もしセレスティア様の処罰に反対されるなら、私があなた様の隠し子であることを王宮に告発せざるを得ません』


セレスティアは愕然とした。


リリアは父の隠し子だった。


つまり、セレスティアの異母妹。


それでリリアを引き取ったのか。


そして父はリリアに弱みを握られて、セレスティアを見捨てることを選んだのか。


怒りが込み上げてきた。


父への怒り、リリアへの怒り、そして自分の愚かさへの怒り。


セレスティアの周りに、紫色の電光が走り始めた。


雷鳴が響く。


外は嵐ではないのに、セレスティアの感情に呼応するように雷が鳴っていた。


「ついに......」


セレスティアは手のひらを見つめた。


紫の電光が指先で踊っている。


封印されていた雷魔法が、ついに覚醒したのだった。


* * *


王都では「建国記念祭」の夜会が開催されていた。


王宮の大広間は、色とりどりのドレスを身に纏った貴族たちで賑わっている。


今夜はアルベルト王子とリリアの婚約発表が行われる予定だった。


「リリア様、お美しい」


「まさに王妃にふさわしいお方ですわ」


リリアは純白のドレスに身を包み、王子の隣で微笑んでいた。


その笑顔は完璧だった。


「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき......」


アルベルト王子が挨拶を始めた時だった。


突然、大広間の窓が大きく開いた。


強風が吹き込み、シャンデリアが激しく揺れる。


そして、紫の雷光と共に一人の女性が現れた。


プラチナブロンドの髪が風になびき、紫の瞳が妖しく光っている。


「セレスティア......!」


アルベルト王子が息を呑んだ。


セレスティア・フォン・アストレアが、そこに立っていた。


深い青色のドレスを身に纏い、右手には紫電が踊っている。


「皆様、お久しぶりですね」


セレスティアは優雅に微笑んだ。


広間がざわめく。


「あの方は追放されたはず......」


「なぜここに」


「あの光は何?」


セレスティアは群衆を見回した。


そして、リリアを見つめる。


リリアは青ざめていたが、すぐに悲しそうな表情を作った。


「お姉様......なぜ」


「リリア」


セレスティアの声は静かだった。


「いえ、私の異母妹よ。もう演技は必要ありませんわ」


会場がさらにざわめいた。


異母妹?


アストレア公爵の顔が青白くなる。


セレスティアは手を上げた。


紫電が指先から溢れ出し、空中に文字を描き始める。


雷魔法で、リリアが書いた手紙の内容を空中に浮かび上がらせたのだった。


『計画通りに事を運んでください。セレスティアが王都を去れば、私の地位は安泰となります』


『セレスティアを社交界から追い落とすための計画』


『私があなた様の隠し子であることを王宮に告発せざるを得ません』


次々と現れる証拠の文字に、貴族たちは息を呑んだ。


「これは......」


「セレスティア様は無実だった?」


リリアは震え始めた。


「違います!これは偽物です!」


「偽物?」


セレスティアは首を傾げた。


「では、これはどう説明するのかしら」


セレスティアは懐から小さな水晶を取り出した。


記憶水晶。


高価な魔法道具だが、音声を記録することができる。


「俺はもう耐えられない!あんなことをしたなんて......リリア様から金貨を受け取って、あの毒薬の小瓶をセレスティア様の部屋に置いたのは俺だったんだ!」


ロドリーゴの声が広間に響いた。


アルベルト王子の顔が真っ青になる。


「リリア、これは本当なのか?」


リリアは必死に首を振った。


「違います!王子様、私を信じて!」


だが、証拠は揃っていた。


セレスティアは歩み寄る。


「リリア、もう諦めなさい。貴女の本性はすべて暴かれたのよ」


その時、リリアの仮面が剥がれ落ちた。


「うるさい!」


リリアが叫んだ。


可憐で儚げだった表情が一変し、憎悪に歪んでいる。


「あの女が邪魔だったの!私が王妃になるためには!」


「セレスティア様を陥れたのは本当なのですね」


「そうよ!」


リリアは開き直った。


「私はアストレア公爵の娘なのに、なぜあんな女が正妻の子として扱われるの!私の方がふさわしいのに!」


会場は騒然となった。


アルベルト王子は愕然として立ち尽くしている。


アストレア公爵は膝から崩れ落ちた。


「セレスティア......許してくれ」


父の言葉に、セレスティアは振り返った。


「お父様」


「私は......私は弱かった。リリアに脅されて、お前を見捨ててしまった」


アストレア公爵は涙を流しながら謝罪した。


「許してくれとは言わない。だが、お前は私の誇りだ」


セレスティアの胸が温かくなった。


ようやく、父の愛を感じることができた。


衛兵たちがリリアを取り囲む。


「リリア・フォン・アストレア、詐欺と中傷の罪で逮捕します」


リリアは最後まで悪態をつきながら連行されていった。


アルベルト王子がセレスティアに近づいた。


「セレスティア、私は......」


「もう結構です」


セレスティアは微笑んだ。


「貴方が選んだ道ですから」


王子の顔に後悔の色が浮かんだが、セレスティアはもう振り返らなかった。


* * *


王都での名誉回復を果たした翌日。


セレスティアは意外な決断を発表した。


「隣国の魔法学院に留学します」


父は驚いた。


「王都に戻ってくるのではないのか?」


「いえ、私は新たな道を歩みます」


セレスティアは穏やかに微笑んだ。


「雷魔法の研究者として、真の実力で評価される場所で生きていきたいのです」


アルベルト王子も復縁を懇願したが、セレスティアの意志は固かった。


「私はもう、昔の私ではありませんから」


魔法学院への出発の日。


馬車の前で、父と最後の別れを交わした。


「セレスティア、元気でな」


「はい、お父様も」


二人は抱き合った。


長い間失われていた父娘の絆が、ようやく修復されたのだった。


馬車が動き出す。


セレスティアは窓から王都を見つめた。


この街で過ごした十七年間。


辛いこともあったが、すべてが今の自分を作り上げた大切な思い出だった。


馬車は次第に王都を離れていく。


やがて見えてきたのは、広大な草原と青い空。


新天地が待っていた。


* * *


魔法学院への道のりは長かった。


だが、セレスティアは一人ではなかった。


雷魔法という才能と、真実を見抜く強い意志を手に入れていた。


馬車の中で、セレスティアは手のひらに紫電を踊らせた。


もう隠す必要はない。


この力を使って、新しい世界で自分らしく生きていける。


夕日が草原を金色に染めている。


美しい光景だった。


セレスティアは窓の外に広がる新天地を見つめながら、静かに呟いた。


「雷は破壊をもたらすが、その後には必ず清浄な空気が残る。私もようやく、本当の自分として生きていけるのね」


紫の瞳に宿る雷光が、希望に満ちて輝いていた。


これから始まる新しい人生への期待を込めて。


セレスティア・フォン・アストレアの真の物語は、今始まったばかりだった。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。家族の絆と真実の力をテーマに、セレスティアの成長を描けたでしょうか。皆様の温かい感想やご意見をいただけると、次回作への励みになります。

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