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異世界エイリアン  作者: MeはCat
〜序章〜 ようこそ、異世界へ
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心身分離

「そういう事で、一旦その身体からおさらばしよう」


「どういう事で、一旦この身体からおさらばしよう?」


この師匠、いきなりとんでもない事言ってないか?

〈寄生〉を解くって事はあの屈強な宇宙人ボディを世間に晒すって事と同義だろ?

確実に街中が黄色い悲鳴を上げるに決まってるだろ。


「私が求めたのはリィムであって勇輝じゃない。勇輝は早めに解放されるべき。それに、代わりの身体、私作ったから。それに入って」


そういう事なら……待て待て、それでもまだ問題があるぞ。

この身体の持ち主はどうするんだ。

絶対俺に恨み持ってるよな。

明け渡した瞬間に暴れ出すに決まってるよな!!


「勇輝がキレるかもしれない問題は大丈夫。まず、ここにお菓子がある」


「はい」


「このお菓子には《健忘剤》が入ってる。これをお詫びとして、彼に食べさせる。そして記憶喪失になる」


「師匠、天才?」


「私、天才」


よし、完璧な計画だな。

あの時も野糞に騙されてたから、きっといけるだろ。


だが、代わりの身体が何処にも見当たらないんだが……。


「ふっふっふ、代わりの身体とは……これ!!」


(師匠が自慢気に人型のドラゴン風ぬいぐるみを掲げる)


「………それ?」


「駄目?」


駄目……じゃないが、えっと……俺、今からそれに入るの?

俺、今からぬいぐるみになるの?

マジで?


「私は魔術師だから、教えるとしたら魔術になる。実戦ならともかく、魔術を学ぶだけなら身体はなんでもいい」


「うん、実用的に問題ないのは分かった。俺が懸念しているのは見た目の部分だ」


俺がそう言うと首を傾げながら、ぬいぐるみとこちらを見比べている。

なんなら疑問符を浮かべている気がする。


「可愛いでしょ」


「可愛いな」


「駄目?」


「駄目……じゃないが」


「じゃあ、これにしよう」


「…………………………はい、それにします」


押し切られた………。

だってさぁ……あんな目で見られたら断り辛いじゃん。

宇宙一あざといつぶらな瞳してたよ師匠。


「はぁ……背に腹は代えられないか。〈寄生〉解除」


◇◇◇◇◇


視界が暗転する。

俺は〈寄生〉を解除した後、即座にドラゴン風のぬいぐるみに再度〈寄生〉した。


視覚と聴覚は問題なし。

だが、死体やその辺の物に〈寄生〉している時と同じ現象が起きている。


触覚、嗅覚、味覚が無い。


視覚に関しては元々の本体を介して感じる事が出来て、俺の〈寄生〉している身体と視点を切り替える事が可能。

聴覚に関しても同様。

問題点としては視点が低いという点のみであり、慣れで十分カバー出来る範囲と言える。


それに比べ触覚、嗅覚、味覚は完全に〈寄生〉している身体に依存する。

触覚が無ければ風の感覚、床の感覚、痛みの感覚すら無く、時折浮遊していると錯覚する程だ。

嗅覚が無ければ死体の臭いも危険なガスの臭いも分からないまま危険区域に侵入する恐れもある。

味覚が無いのは特に問題無いが、元々食事の機能が無い為空腹時には〈寄生〉を解いてからする必要があるので注意と言った所だろう。


故に五感の内の3つの感覚が無いぬいぐるみには多少の違和感があるのは当然の事だと言える。


肉体の動かし方についても慣れが必要だろう。

何せ生き物の身体とは違ってこちらは人工物の身体であり、どことなくぎこちない。


「どう、可愛いぬいぐるみになった感想は?」


「全体的に慣れが必要だな。数日は本調子が出せなそうだ」


「………そっちじゃないのに」


「そんな事より、この場の主役がお目覚めだぜ」

 

――――――勇輝の目蓋が開いた。


目覚めた様子としては、やけにゆったりと、そして冷静にこの場を俯瞰していた。

意外にも暴れ出す様子は無く、むしろ困り果てたようなように頭を掻く。


「目が覚めたね。突然の状況で困惑してると――――」


「マイスターさん、ですよね?」


…………あ、そう言えばそうだった。


俺は〈寄生〉する時、勇輝と記憶の()()をしているから、今までの行動とか、どう思ってたかとか、全部こいつにも伝わってるんだわ。


「……………このお菓子食べる?」


「いや食べないですよ。《健忘剤》入りですよね?」


「ガーン」


不味い、師匠がこれまでに無いくらいショック受けてる。

もしや師匠、()()の真の意味を理解していなかったな?


「全部知ってますよ。なので、別にリィムさんの事特に怒ってはいません。今までリィムさんが僕だったように、僕もリィムさんだったんです。なんか、自分自身に怒るのは違和感が凄くて……」


勇輝、お前凄い良い奴じゃねぇか。

今更だが、割と申し訳なく思ってきたぞ。


……何だよ師匠こっちを睨みつけて。

え、止めなかった俺が悪いって?


俺は……あれだよ、あれ、いちいち自分の事完璧に把握してる訳無いとか何というか――――――ごめん、俺も忘れてた。


「リィム〜」


「いいのか? 今攻撃すると、このぬいぐるみまで消し飛ぶぞ、それでもいいのか?」


どうやら、師匠はぬいぐるみ好きらしいからな……今の俺をそう安々と攻撃出来まい。


「あ、ずるい!! 早く〈寄生〉解いて」


「やなこ――――っぶねぇ?!」


その一瞬、嫌な予感がした俺は即座に今居る場所から身体を大きく仰け反りながら退避した。


そして、いつの間にか先程居た場所に大きなクレーターの跡が現れていた。


これ、勘に従って無かったら本当に消し炭にされてたんじゃ――――――


「す、すまん。俺が悪かった。悪かったから、その手に持ってる電気の塊のような物体を仕舞ってくれ」


あの電気の塊はヤバい。

あの流れている電気を一纏めにする技量も凄いが、クレーターが出来る程の威力って、それマトモに喰らったらただじゃ済まない。


「今は許す。修行の時スパルタコース確定」


「……はい」


「話が脱線しちゃったね。それで、勇輝はどうするの? 多分、今は元の世界に帰れないよ?」


「「え?」」


元の世界に帰れないだと?

師匠の魔術で何とかならない問題なのか。

俺は別に良いけど、勇輝はどうするんだ?


「どういう事ですか?」


「技術的には可能、でも()()が分からない」


「座標? どこにあるか分からないって事か」


「そう。逆に君たち、元の世界ってどこにあるか分かる?」


「「いや」」


そりゃ魔術と言えど、何でもこなせる訳じゃない。

もし魔術が全知全能の技術なら進歩の必要すら無いからな。


ある【宇宙帝国ルルイエ】の科学者が言っていた。

どんなに凄そうな技術でも、そこには過去から積み上げて来た知識と論理の応酬がある。

物事の仕組みさえ知れば、人知を超える事が出来るだろう。

人は火を起こす事から始め、次第に素材を利用して武器を作成し、遂には生命の創造と破壊をも可能とするのだ。


――――まさにその通りだ。


ファンタジーのような魔術であろうとも、技術は技術。

しっかり知識と論理があるし、それを利用して人知を超える事も可能になるに決まっている。


「向こうの世界に発信源があればな……」


「それは後々考えればいい。それで、これを踏まえて、勇輝はこれから何したい?」


「それなら、妹を探しに行きたいです」


妹……里奈だっけか、確かに勇輝ならそうするよな。

元々は妹を探して森に来たんだろ、記憶で見たけど突然失踪するなんて変な話だよな。


「リィムさんは建前として旅人という立場を偽ってましたけど、今度が僕が本当に旅人として妹を探しに行きます」


「うん、それなら辻褄が合う。勇輝がその気なら私は止める事はしない。精々「怪我のないように」と声をかける程度になる」


「怪我のないように」


「え、君が言うの?」


いや、俺が言いたかったんだ。

少なくともつい先程まで一緒に居た仲だぜ?

実時間は1日と少しでも、記憶の共有があるから感覚時間で言えば十数年の付き合いと同義だ。


「リィムさんも結構お人好しですよね」


「多分、お前に似たんだろうな」


宇宙人、ぬいぐるみになる。


思ってたより〈寄生〉と記憶の共有がえげつない能力な気がしてきた。

まぁエイリアンならそんなものかぁ(思考放棄)

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