蒼月
「師匠」
「どうしたの」
「今、師匠は俺の事どこまで知ってます?」
「全部。君がイコールって名前の宇宙人だったり、その身体が別の人間を乗っ取ってるものだったり、この世界に迷い込んだ事だったり、旅人という体で色々情報集めてたり………」
「ほえあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
あーもう終わりだ終わり!!
全部情報抜き取られたよ畜生め!!
何が腹の探り合いだよ、腹の中解剖されたら意味ないっての!!
「はい、これお給料ね」
師匠がそう言うと、お金の入った小袋を手に持たせてきた。
中にはちゃんと金色の硬化が入っている。
……約束は守るんだな。
「……何も言わないのか?」
「うん、私はもう満足したから。あと、修行は後日から行う事にした。今日は蒼月祭だからね」
俺が他の世界、他の宇宙から来たやつだとしても……特に何も言わないのか。
意外だな、俺の正体を知った者は皆嫌悪するのに。
俺の特性〈寄生〉があまり好かれるものじゃないのは、俺自身も分かっている。
文字通り他の奴を乗っ取ってるし、元の身体の持ち主の関係者なら救い出そうと必死になる。
マイスター師匠は別に関わりが無くとも、多少の不快感はあるはずだろう。
「私はね、他人の行動を頭ごなしに否定するのは嫌いなんだよね」
「師匠、俺の行動は許される事なのか?」
「許す、許さないの話じゃない。そいつが何をやろうと、自分を悪だと思って行動する奴は自身を偽ってる者しかいない。それ以外は誰もが善だと思って行動してる。君も私も」
いつの間にか師匠はマグカップを手に取り、茶を入れ、優雅に啜っていた。
「だから、特に君を責めるつもりは無いよ。でも、次の行動はちゃんと考えた方が良いかも」
俺は……今、どのような行動をすべきか分からない。
【宇宙帝国ルルイエ】に雇われ、命じられるがままに地球を偵察し流れるがままにこの世界に来てしまった。
それ以前にも、任務の為に惑星を侵略したり、惑星を帝国の支配下に置いたり、惑星を滅ぼしたりした。
今まで、別にその惑星に思い入れは無かった。
……いや、思い入れを無くしてきた。
兵が相手に情を持ったら終わりだからな。
だから、見て見ぬふりをした。
そして、今俺は異世界に――――【宇宙帝国ルルイエ】の影が無い場所に居る。
思えば、俺は【宇宙帝国ルルイエ】にも特段思い入れが無い事に気が付いた。
ただ命令されて、その報酬を貰ってただけだから。
それに比べ、この異世界は――――良いと思ってしまった。
情を持ってしまっていた。
確かにまだ1日しか経ってないような関係性だろう。
だがそれでも、少なくとも前の世界よりは良い場所だと思って仕方ないんだ。
「リィム、改めて私の弟子になって。私なら、君の懸念を全て吹き飛ばせる」
――――あぁ、畜生。
なんて、甘美な言葉なんだ。
もしかして、薬の副作用とか何かしらの魔術でもかけられてるんじゃないか?
「宜しく、師匠」
こうなったら、とことん墜ちてやる。
もし俺を強くするんなら、あの【宇宙帝国ルルイエ】すらも超えさせてくれ。
「見て、蒼月が始まったみたい」
気が付くと、俺達は屋根の上に居た。
いつの間にか夜になっているが、まるで朝のように空が蒼い。
神秘的に煌めく蒼月の光は、俺の身体を包み込むように照らしている。
――――身体が暖かい。
これが月の魔力というものだろうか。
布団に潜り込んだ時のような安心感がする。
「ふと思ったんだが……これ受ける前、多分身体に魔力無い状態だったんだよな。急に魔力を帯びたら後遺症とか起きそうで怖いんだが……」
「それは大丈夫。もう身体に魔力馴染ませてあるから」
「そうなのか……そうなの?!」
一体いつから――――――もしや、あの薬の影響か?!
俺もう師匠の考えてる事分からなくなってきたぞ。
「こういう時は……「月の祝福があらん事を」だっけ、他の文言は忘れた」
「月の祝福ねぇ……ここの人って月を信仰してるんだっけ」
「厳密には月と月の神獣を、だよ」
神獣……初めて聞いたな。
この世界の宗教も後々知っておく必要があるだろう。
「この話は後でする。まずは今を楽しもう」
今を楽しむか――――――それもそうだな。
行動原理に善悪は無く、あるのは意志と欲求による感情のみ。
結構深い話になっちゃうんですけど、出来事を考える時に自分は物事は論理的に、意志は感情的に考えるべきだと思ってます。
国語の問題に数学で解く人は居ませんし、数学の問題に国語で解く人は居ないでしょう?