奇妙な現実
「――――――っは?!」
ガタガタと揺れる音が戻ってきた。
何か恐ろしい夢を見た気がするが、上手く思い出せない。
誰かと話していたとだけは、妙に頭にこびりついている。
「あ、起きましたね。もう[イデア]に着いたので降りる準備だけしておいて下さい」
「あ、あぁ…………」
夢なんて久々に見た気がする。
俺の〈寄生〉によって夢のような記憶は度々見てきたが、どれも一貫性があって理解できるしハッキリと覚えている。
だが…………あれは、何なのか理解出来ないし記憶も霧散していく。
あれは何者で、何の会話をしていたのだろうか。
もう、顔すら分からない。
この奇妙な感覚は何度体験しても慣れないものだな。
「…………ん?」
外の景色を見ると更に奇妙な光景が目に入る。
生き物のように動く家具や銅像、人間のように喋る植物――――――おいおい、リンゴ人間が路上ライブかよ!!
ビラ配りしてる電灯頭に、でかいコウモリ?!
そう、本来有り得ない光景がそこにはあった。
もしかしたら、まだ夢の中に居るのかもしれない。
「シェーラ、俺の頬をひぱってくれ。まだ寝ぼけてるかもしれん」
「〈ペインレシーブ〉」
「いたたたたたたたたっ?!」
魔術で痛みを与えろとは言ってねぇよ!!
だが、この痛み――――――現実だ。
本当に現実でこんなおかしな現象が日常に溶け込んでいる…………!!
本当に現実でこんな見たこともない人間が生活を送っているんだ。
「一体どうなってるんだ?!」
まさに奇妙、まさに異質、まさに異世界!!
元居た世界では、どれもこれも有り得ないことばかり。
月の街に居た頃は"異世界に居る"という実感があまり湧いていなかったのかもしれない。
何だ、この面白い世界は…………!!
――――――――――突然、地面に叩き潰された。
「…………何が起こった?!」
「馬車を消しました。「降りる準備だけしておいて下さい」って言ったじゃないですか」
気がつくと、少し拗ねてる様子のシェーラが俺を見下ろしていた。
「事前に降りるって言ってくれよ」
「いや、言ったのに興奮してて聞いてなかったじゃないですか」
「それは…………すまん」
どうやら、景色に夢中になりすぎてたみたいだ。
話を聞き逃すとは…………不覚。
俺が連れてこられた場所は、鉄の格子でできた門の前だった。
その門の向こうは森のようだが、どこかしら違和感がある。
全部の植物が枯れ木で活力が無い。
本当にここに【魔女会】が居るのか?
「アカツキちゃん、起きて下さい。目的地に着きましたよ~」
俺の相棒のアカツキはシェーラの頭の上でスヤスヤと眠っていた。
なんかアカツキの声が聞こえないと思ったら…………こんな時まで寝てるなんて吞気なやつだよ全く。
じーっ
…………………………。
何故か凄いシェーラからの視線が痛い気がするが、きっと気のせいだな!!
「…………まぁいいです。それじゃ入りますよ」
「入るって言ったって、入口が閉まってるぞ?」
「その入る術があるんです。〈反転:イリュージョン〉」
シェーラがそう唱えると、視界に彩りが宿った。




