一人称
月の街[ラナ]から抜け出し夢の街[イデア]の郊外を通って都へと向かう。
馬車の揺れる音と衝撃は慣れればそう不快なものでもなく、いつしか眠ってしまっていた。
「………………」
目が覚めたら奇妙な仮面と奇怪な服装を身に纏う……男性だろうか、それとも女性だろうか、性別の判別が難しい程スリムな体格をしたピエロが居た――――――――目の前に。
「何も言わず俺の顔面をガン見するのはどうかと思うが――――――というか、近い!!」
寝転んでいた俺を覗き込むように上から――――――接着しそうな距離で見下ろしていたピエロはクスクスと笑いながら一旦消え、その一瞬の間に椅子へと座る。
その前の机には、お菓子とコップ、ポットなどがあり、少なくとも敵対はしてこないのだろうか。
「そう警戒しなくても良いのに、ただのお茶会だよ?」
「強制参加のか? ここの連中は強引のようだな」
改めて周囲を見渡せば、地面には様々な色や形の花が植えられている。
しかし、そのどれもが見知らぬ花であり、まるで未知の物に囲まれているような――――――そんな異質な感覚がする。
俺は従うままに対面の椅子に座る。
すると、その者は仮面の奥で笑った気がした。
「強引――――――ふむ、言われてみれば確かにそうだね。僕も[イデア]の人々も【魔女会】も、自分の意見を押し通す節がある……そう言われれば否定は出来ない」
「大丈夫なのかその街」
確か人の意思と欲望こそ至上の街だったか。
俺が言えたことじゃないが、相当欲深い奴らの集まりのように聞こえるのは俺だけか?
「別に私は構わないと思うよ。俺は人々の意思こそが、世界の発展と個人の幸福に必要なものだと考えてるからね」
………何だ、この違和感は。
さっきから、一人称がブレブレだ。
まるで、様々な意識が混在しているかのような―――――――そう、言ってしまえば俺自身との記憶と話してるかのような。
そんな感覚がする。
「多分、君も……同じ考えなんじゃないかな」
「否定はしない」
俺も自身の意思は、自分で思考し吟味し発言すべきだと考えている。
今までだって、俺が【宇宙帝国ルルイエ】は嫌だと感じたから師匠のもとに行ったし、それに対抗したいと思ったから強くなるため鍛えているし、戦いが楽しいと思ったからミストと死闘を繰り広げた。
――――――いや、これは本当に俺の意思か?
俺の意思は……記憶によって混在している。
記憶、記憶、記憶――――――その記憶の集合によって俺が今ここにある。
だが、それは本当に俺と言えるのだろうか。
「――――――――やっぱりだ」
仮面の者は俺に向けて指を指す。
お
前
は
俺
だ
。
――――――――――――――――――――
目が覚めた。
〜第二章〜 自己と夢 開幕でございます。
曖昧なる夢と意識の泡にて、自己に対する答えを得なければ、必ずや自己崩壊の運命を辿るであろう。




