一抹の紅
真っ白の世界が広がっている。
〈暗黒世界〉に最早、黒はミストただ一つ。
追い詰められたミストは何を思うのか。
「どうした、もう諦めたのか?」
「…………お前のその口調、聞き覚えがある。お前の立ち振る舞い、見覚えがある。お前の雰囲気、感じ覚えがある」
ミストは、静かな怒りを込めて問いかける。
「お前の中に、俺の兄貴は居るか?」
…………………………。
俺はミストの事を知っている。
ミストの戦術、ミストの人柄、ミストの切り札。
実は、俺自身はミストにあまり思い入れは無い。
そして、俺様自身はかなり思い入れがある。
更に言えば、私は忌み嫌っている。
そして、ミストが言う人物は――――――――
「あぁ、俺様の事だろ?」
「――――――――この、腐れエイリアンめ」
エイリアンね。
仮にも兄貴だったものに、そんな言い草は無いだろう。
我々にとって、"エイリアン"は他の宇宙人を忌み嫌う蔑称だ。
俺も俺様も私もれっきとした人間だ。
化け物呼ばわりは失礼だろ。
「「久しぶり」と言った方がいいか? ミスト」
「黙れ、お前の穢れた口で兄貴を語るな。それに、他に何人の記憶を吸ったんだ」
ミストは鋭い目を俺様に睨み付けながら、身体から漆黒の剣を形成し剣先を向ける。
俺様も雷の剣を形成し構えを取る。
「もう覚えちゃいない」
「そうか、死ね!!」
そう言ったミストは我を忘れて剣を振るう。
まるで、あの時の稽古のように。
――――あぁ、懐かしいな。
「言ったはずだ。「次も俺様が勝つさ」とな。その名の通り、今回も俺様が赤星となるのだ」
「ほざけ!!」
剣を振る速度が徐々に上昇していく。
俺様もそれに応じて速度を上げる。
刃が打ち合い、涙とも汗とも分からぬ漆黒の水滴が零れる。
ガンッ!!
ミストの剣が弾かれる。
「ちっ…………!!」
「ミスト、お前腕が鈍ったんじゃねぇのかぁ?」
「………………っ!!」
あの日の情景、あの日の記憶――――――――在りし日の憧れ。
その思い出は一抹の紅に染まるのだ。




