勝者の天秤
辺りを見渡してみると、絶賛魔物モドキとの戦場のど真ん中だった。
「人形と……黒い霧ですか」
あ、そういえば、今の俺の姿はぬいぐるみか。
すっかり忘れてた……これ、思った以上にダメージ入って無さそうだな。
何とか地面に叩きつけたのに、あいつ全然ケロッとしてるの不思議だと思ってたんだ。
「流石の俺様でも死ぬかと思ったぞ」
「だろうな。本体なら死んでたぜ、お前」
「おい僕様を無視するな!!」
奥からオペが登場する。
……いや、既に登場してたんだろうけど、俺達の登場シーンがあまりにも衝撃的過ぎて影が薄くなったんだろうな。
可哀想に。
「ぐぬぬ……誰も僕様を脅威と思ってくれないなんて!!」
「オペ、《狂化剤》を渡せ」
「えっ、扱い雑じゃない? まぁ良いけど……はい」
《狂化剤》――――――不味い!!
「ちょっと、何処まで飛んでるんですか。探知するのに苦労しましたよ!!」
「主様飛びすぎ!!」
「悪いシェーラ、今すぐ〈テレポート〉使ってくれ。一瞬だけここから離れるぞ」
「………っ?!」
シェーラもこの場の異様な空気を感じ取ったな。
あれは……ヤバいぞ。
次、この戦場に来た時、ここは地獄と化す。
「〈霧散布〉」
「〈テレポート〉」
◇◇◇◇◇
「…………何ですか、これ」
戻ってきた俺達が見た光景は、まさしく地獄だった。
混乱と混沌を極め、敵味方関係なしに殺し合う。
これがミストの〈霧散布〉とオペの《狂化剤》の合わせ技による多大なる損害。
《狂化剤》とは摂取した者の正気を失わせ、目の前の存在を敵と認知し暴れ回させる薬だ。
本来これは液体として飲まさせないと効果は無く、ガスのように空中に気化すると数秒で効力が無くなる性質を持つ。
――――――――だが、ミストにとったらその数秒だけで最大限の効力を発揮出来る。
ミストの霧に《狂化剤》を染み込ませ〈霧散布〉によって速攻で散布させれば、数秒なんてデメリットは踏み倒せる。
「これで、残るはお前達だけだ。《狂化剤》を摂取した時の効果時間は10分――――――時間内に殺すのは容易い」
「そりゃ、この身体の場合だろ? 〈寄生〉解除」
俺は皆が錯乱しているのを良い事に〈寄生〉を解除する。
今なら俺を宇宙人と認識する者も他に居ないはずだ。
「こっちこそ、10分と待たずに殺してやるよ」
「僕様も忘れるなよ!! 〈改造〉」
オペは地面に〈改造〉を施す。
すると地中から巨人のような物が出現した。
あれを形容するならば――――――ゴーレム。
遥か数メートルにも及ぶゴーレムを出現させ、オペはその肩に乗った。
流石に二人相手だとキツイか?
いや、どちらにせよ制限時間は10分……それまでにどちらも片付けないといけない。
正直ぬいぐるみ状態でこいつらを倒せる気がしないからな。
「そこの君、大丈夫か!! トゥ!!」
「ガードン?!」
お前〈霧散布〉から免れてたのか!!
これは良い、ガードンが居れば百人力だ。
「ひとまずは味方――――――で、良いんですね?」
「お前は……?」
「ブライトです。これが終われば、じっくりと拷m――――尋問しますので、それまでに死なないで下さい」
今、拷問って言いかけましたよね?
加勢してくれるのは助かるけど、これが終わった後も大変な事になりそうだな………。
「咄嗟の判断が出来るなんて、流石私の弟子」
「マイスター師匠!!」
体感凄い久々に見た気がするけど、やっぱり師匠は頼りになるな。
他の奴らとは威厳が違うというか……言ってしまえば、幼いのに安心感が違う。
「後でスパルタコース確定」
「なんで?!」
「我々は速攻であの影が薄いスライムモドキを処理します。貴方はあの黒い霧を処理して下さい」
「影が薄いだぁ?! 上等だインテリヤクザ、三大守護者だか何だか知らねぇが表出ろ!!」
そう啖呵を切ったオペは三大守護者との戦闘に入る。
あっちは任せて良いとして、問題は……お前だ埃野郎。
「これで正真正銘、お前をボコれるって訳だ」
「それはこちらの台詞だ。この瞬間を待っていた」
紅い閃光と黒い霧が戦場を支配する。
紅か黒か、勝者の天秤はどちらに傾くのか。
「〈ライトニングブースト〉」
「〈ディフェンスアセンション〉」
「〈紅月〉〈REDボルトラッシュ〉」
「〈黒大河〉〈破滅連斬〉」
――――――それは、これから決める事だ。
魔物や人間関係なく黒い霧によって狂い出す。
………否、これは《狂化剤》の効果だったのだ!!
実際に黒い霧に周囲を狂いさせるような効果はありません
もしそうであれば、主人公とミストの会話の最中に全員お陀仏になりかねないですからね……。




