『記憶』在りし日の思い出 その2
マイスター回想
〜勇者台頭〜
魔王を討伐する為に勇者が台頭した頃、あの日の少年は大成し【夜犬教会】を立ち上げたと聞いた。
対するマイスターは強くなる為に【魔女会】で鍛錬を積む日々を送っていた。
「はぁ……はぁ……何割当てた?」
「凄い……八割も当たってるなんて!!」
「八割?! お願い九割って言って」
「八割」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
私は今、亜音速で動きながら魔術の的当ての修行してる。
私の目標は九割正確に的に当てる事、なのに頑張っても八割より上の精度に行かないの本当におかしい絶対に何か不正とかズルとかしてるよあの的本当に許さない後で――――――
「おーい、戻ってきなさーい。全く、この子ったら強くなる事に関しては熱があるんだから……」
【魔女会】は完全実力主義の世界であり、才能と実力さえあれば右肩上がりに成り上がる事が可能である。
しかし、"大魔女"の二つ名を受け取るには実力は当然だが、他に条件が二つある。
一つ、弟子を取る事。
一つ、お金を稼ぐ事。
一つ目は大魔女は「他の魔女を導いてこその大魔女」であるという信条があるためである。
二つ目は大魔女は【魔女会】を支える存在故に、無一文は許されないためである。
今のマイスターは大魔女ではない。
何故なら、その二つをサボって鍛錬ばっかり熱中してるから。
「マイスター、貴様早く弟子を取らんか馬鹿者!!」
「え~」
他の大魔女から催促を受ける程である。
実力としては大魔女と大差ない程に強いくせに、いつまで経っても大魔女にならないから他のメンバーに疎まれている。
「よし、マイスター。貴様弟子を取るまで【魔女会】戻って来るな」
「…………えっ」
――――――いつの間にか、外に締め出されていた。
「…………どうしよう」
~聖魔戦争~
あれから数年後、勇者勢力と魔王勢力の戦争の真っ最中、一人マイスターは放浪していた。
まだ弟子となる者は現れておらず、路銀は魔術で調薬した薬を売って生活していた。
ガサガサ…………
そんなある日、ある少女が街のゴミを漁っているのを発見した。
戦災孤児だろうか、親と呼べる者もおらず、たった一人で生活していた。
その少女は耳や尻尾は狸のような獣の部位が生えている――――獣人族というのも孤独に拍車が掛かっているのだろう。
マイスターは獣人族は他の種族から疎まれて、迫害されてきた過去があると聞いていた。
それ故に、誰も彼女に手を差し伸べる者は居なかった。
「君、私の弟子にならない?」
そんな少女にマイスターは手を差し伸べた。
「誰?」
「申し遅れたね、私の名はマイスター。魔術師をやっていてね、改めて言うが私の弟子にならない?」
「食べ物いっぱい食べれる?」
「勿論、私なら君の空腹を全て吹き飛ばせる」
この少女を弟子に取る事に決めた。
~平穏の到来~
勇者が魔王の討伐を成し遂げ、世界に平穏が訪れた。
私が亡き夜神様の仇として討伐に向かっても良かったけど、弟子の世話をしないといけないのもあって、今はそれほど興味がなかった。
倒れてくれて清々したのと同じように、思った以上に自分は怠惰で薄情者なんだなと自嘲する。
「思ったんですけど、師匠って本当に姿が変わらないですね」
「褒めてるの? ありがと」
「いやいや、素朴な疑問ですよ」
そんな私たちは現在[ラナ]に戻ってきた。
シェーラは[三日月亭]の主人をして生計を立てながら、私の弟子を継続していた。
私も[月光薬局]で店を構えて薬を売りながら、時折来る魔物から街を守っている。
「じゃ、私昼ご飯食べて来るから。ここの屋台って本当に美味しんだよね~」
「えっ、質問の答えは?!」
私はその言葉を無視して屋台巡りをしに行った。
何せ今日は蒼月祭の前夜祭だからね、きっと美味しい食べ物の屋台が並んでる。
――――思えば、あれから何年経ったんだろう。
あの時はドラゴンのぬいぐるみを夜神様に見せにいってたっけ…………懐かしい。
――――――弟子から通話が来た。
シェーラ曰く、路銀が無い旅人の為に[月光薬局]で働かせてくれとの事。
…………面倒な客を私に押し付けたね。
まぁ、もし面白い客なら弟子にしてもいいかな。
かつて少女と呼ばれた大魔女は、今は喧騒の中を歩いている。
少女は大魔女になり、弟子を取り、世界を守る存在へと昇華する・・・。




